2008年にノーベル経済賞を受賞したポール・クルーグマン。
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- ロシアへの制裁は、輸出制限ではなく輸入制限で予想外の効果を発揮している。
- ポール・クルーグマンによると、ロシアでは物を購入することが困難になっており、それが工業生産量と国内総生産を悪化させているという。
- 歴史的に経済戦争の試みは軍事行動を伴わない限り成功しておらず、西側諸国にいくらかの希望をもたらしていると彼は述べた。
ウクライナ侵攻以来、ロシアは不安定で混沌としたエネルギー取引から利益を得ているようであり、西側の対ロシア制裁が裏目に出たのではないかと考える人もいる。しかし、ロシア経済を締め付ける措置は予想外の形で機能しており、経済戦争で勝つのは西側であると、ノーベル賞を受賞した著名な経済学者であるポール・クルーグマン(Paul Krugman)は指摘する。
「ロシアは物を売るのには問題ないが、物を買うのにはかなり問題がある」とクルーグマンは2022年8月2日付けのニューヨーク・タイムズ(NYT)への寄稿文で記し、西側諸国はロシアからの輸出を制限させることに固執しているが、ロシアの輸入を制限することが経済に大混乱をもたらしていることを指摘した。
当初の計画では、ロシア産エネルギーを購入しないことと、ロシア産エネルギーの価格制限(西側諸国の指導者が年末までに提案しようとしている)を通じて、ロシアの戦費調達を抑制することを目指していた。しかし、それは計画通りには進んでいない。データによると、ロシアは戦争開始後3カ月間だけでエネルギーの輸出により240億ドル(約3兆2100億円)を手に入れた。また、西側諸国へのエネルギー供給を制限して価格を上昇させ、経済を不況に近い状態にしている。
しかし、輸入する側の立場では話が違う。ロシアへの輸出禁止措置により、ロシアと制裁を行っている国との貿易量は60%、制裁を行っていない国との貿易量は40%減少しているとクルーグマンは指摘する。
そのため、ロシアの工業生産量は激減し、それに関連して国内総生産(GDP)も減少している。ピーターソン経済研究所によると、プラスチック製品から石炭、家電製品に至るまで、ロシアでの工業生産量は50%も減少しているという。
「ロシアに対する経済制裁は、誰もが予想したような形ではなかったものの、驚くほど効果があったようだ」とクルーグマンは述べている。
歴史的に見ると、経済戦争は軍事的な行動を伴わない限り成功しなかったと彼は付け加えた。その例として、第二次世界大戦でアメリカが日本の商船を攻撃して沈め、日本経済を悪化させたことを挙げた。つまり、それはロシアが欧州への報復としてエネルギーの供給を削減し続けても、経済的に優位に立つことはないだろうということを示しており、西側諸国にいくらかの希望をもたらしている。
しかし、クルーグマンはインフレや景気後退リスクなどの要因がこの戦いに影響を与えることを認め、現在西側諸国が困難な状況にあることを指摘した。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は41年ぶりの高水準にあるインフレに対抗するため、7月下旬に0.75ポイントの利上げを行い、欧州中央銀行も激しい物価高と経済心理の悪化に対抗するために0.5ポイントの利上げを行った。
しかし、特にヨーロッパでは、ロシアからの天然ガスを輸入することなく冬を迎えようとしており、今後さらに大きな困難に直面することになりそうだ。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)
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