アクセンチュア インダストリーX本部のウィリアム氏。ヨーロッパの大学院を卒業後、日本の大手電機メーカーに新卒入社。ロボットの研究開発を経て、2020年にアクセンチュアのインダストリーX本部へコンサルタントとして入社。製造業や電力業の市場分析やM&Aなどを経験した後、現在は風力発電設備へのドローン活用・検討を支援。2021年12月マネジャーに昇格。
コンサル未経験でアクセンチュアへ。「ものづくり産業を支援したい」ある外国出身社員の挑戦
いま、ものづくり産業のトランスフォーメーションが急速に進んでいる。IoTやAIなどの技術を取り入れながら積極的な改革を推し進めている企業も多い。
そんな中、製造業を中心にさまざまな産業のデジタル改革を支援しているのが、総合コンサルティングファーム アクセンチュア内の組織「インダストリーX」だ。
そのインダストリーXに“コンサルティング業界未経験”で飛び込んだのが、ヨーロッパ出身のウィリアム氏だ。大手日系電機メーカーでロボティクスの研究に没頭していた彼が、アクセンチュアのコンサルタントを志望したのはなぜか、ものづくりの未来に向けてどんな挑戦を行っているのか? ウィリアム氏の話から、日本の製造業の未来を紐解く。
風力発電所の点検にドローンを活用
ウィリアム氏が所属するインダストリーXは、製造業を中心としたさまざまな業界に対し、デジタル技術やデータを駆使してサービス開発や製造・物流オペレーションの支援を行う組織だ。
AR/VR/XR、クラウド、AI、5G、ロボティクス、デジタルツイン……といった最新のテクノロジーを駆使して、効率的でサステナブルな製品やサービスの設計・開発、製造を実現している。
インダストリーXには、製造業の研究・開発や、物流、ITのスペシャリストなど、コンサルティング未経験で入社する社員も多く、ウィリアム氏はその中でも、ロボティクスのスペシャリスト。現在は、クライアントのドローン活用プロジェクトに携わっている。
「具体的には、ドローンを活用した風力発電所の点検・運用の仕組みづくりを行っています。
現状は人が現地まで赴いて高所に登り、目視で点検をするのが一般的。しかし、手間や時間も掛かるし危険な場所での作業リスクもあります。
そこで、作業者がドローンを活用してブレード(羽根)の破損などを確認できるよう、アクセンチュアで運用の支援をすることになりました」(ウィリアム氏)
しかし、ただドローンを飛ばすだけの単純な話ではない。立ちはだかるのは規制の壁だ。ウィリアム氏いわく、「ドローンは技術が常に進化しているため、規制が追い付かないことが多い。国ごとに規制の厳しさも異なり、常に変わり続ける状況の中で運用の仕組みを構築していくことはとても難しい」と言う。
そこでウィリアム氏のチームでは、安全かつ効率的にドローンを運用するために、国土交通省や関連機関への申請、現地での運用体制や機器の管理方法、安全対策の検討、飛行前の現地調査や飛行手順の明文化などを行った。
「点検にドローンを活用する提案は、部分的であれば他のコンサルティングファームでもできるでしょう。ドローンを飛ばせる企業も存在します。
しかし、どのようにドローンを活用するかといった戦略工程から考え、その運用に必要な手続きや行い、実際に操縦士が飛ばすところのもっとも実践的なところまで一気通貫で責任を持てるのは、アクセンチュアならではの強みです」(ウィリアム氏)
ものづくりの変革は次のステージへ
風力発電所の例からもわかるように、ドローン、そしてロボティクスの活用は、省人化や効率化のためにも欠かせない。ロボティクスのスペシャリストであるウィリアム氏は、その可能性についてこう語る。
「ロボティクスは、製造業の工場や倉庫の自動化などですでに大きな存在感を示しています。また、建設業や農業の省人化、運送業のドローン配送でも導入が進みつつあります。
しかし、日常生活での普及はまだまだこれから。今後は、飲食業や介護、医療など、より消費者に近いところでの活用が進んでいくでしょう」(ウィリアム氏)
ドローンに関しても、単なる点検作業だけに留まらない活用が見込まれていると言う。
「ドローンに、AIとサーモグラフィのようなセンサー技術を組み合わせることで、点検時に人間の目視では確認できないような問題やそのリスクの高さ、修復の必要性などを推測できるようになることが期待されています。
アクセンチュア社内にはAIソリューションを手掛けている部門もあるので、ドローンと上手く組み合わせることでお客様に新しい価値を提供することができると考えています」(ウィリアム氏)
そしてロボティクス、ドローンに共通する重要なポイントが「データの収集と活用」だ。
「稼働データを組み合わせて全体像を把握することで、お客様の正しい意志決定や新しいアイデアの促進にもつなげていけると思います。
例えば、スマート農業ではドローンや自動運転トラクター、土壌管理システムなどを使用しますが、それらのデータから適切な植え付けや収穫時期、肥料の量や散布パターンなどを推測していく。そうして単なる省人化や効率化だけでなく、最終的な成果物の価値まで向上させる。
こういったソリューションに関われるインダストリーXは、今後より重要な役割を担うでしょう」(ウィリアム氏)
日本の製造業は「のびしろ」がある
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ウィリアム氏は、海外の大学を卒業後、日本の大学院に留学し人間型ロボットを研究。その後、大手日系電機メーカーに就職し、医療用ロボットや日常生活を支援するロボットの研究開発に携わった。
しかしなぜ、畑違いのコンサルタントにジョブチェンジしたのだろうか。
「メーカー内でのロボットの研究開発は、技術にフォーカスする面が強く成果が出るまでスパンも長い。
しかも、最先端の素晴らしい技術を開発しても製品として世の中に出ていくとは限らず、事業化も簡単ではありません。かといって、顧客のニーズに合わせて開発を進めると技術の飛躍が望めないこともある……。
自動車を普及させた立役者であるヘンリー・フォード氏の有名な言葉がありますよね。“もし顧客に何が欲しいか尋ねれば、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えただろう”と。そのようなバランスの取り方に私自身ジレンマを感じていました。
私がもっとも興味を持っていたのは、技術を用いて直接社会やビジネスの課題を解決することです。であれば、ビジネスの理解を深めつつ、ロボティクスの最新技術でお客様の課題を総合的に解決することができるコンサルタントを目指そうと転職を決意しました」(ウィリアム氏)
アクセンチュアを選んだのは、グローバルな組織だったことも大きい。「ヨーロッパ出身である自らの強みを活かして、グローバルチームと連携しながら最先端の技術でお客様への貢献ができると思った」とウィリアム氏。母国で働くことも選べたはずなのに、あえて日本を拠点に働く理由をこう語った。
「日本はロボティクス技術が世界トップレベルで、かつ、ロボティクスを活用したいと思っている製造業も多い。非常にやりがいとのびしろのある市場なので、引き続き日本で働くことを選びました」(ウィリアム氏)
「毎回、新しい仕事にチャレンジしている感覚」
コンサルタント未経験での入社には不安もあったが、驚いたのは組織のフラットさだ。
「年齢や役職に関係なくコミュニケーションがとれて、自由に相談や議論ができる環境はいい意味で衝撃でした」(ウィリアム氏)
これはまさに、アクセンチュアに根付く、『Think Straight, Talk Straight』という文化の表れだ。そして、フラットさは職位だけに留まらない。
「組織に関係なく情報共有したりサポートし合ったりしていることも驚きでした。しかも、国内だけでなくアメリカやヨーロッパのチームとも気軽にやり取りができ、自分の引き出しを増やし続けることができます」(ウィリアム氏)
そんなウィリアム氏は、コンサルタントの仕事の面白みをどんな部分に感じているのだろうか。
「一つは、毎回異なるプロジェクトに携われること。プロジェクトごとにお客様も、関わるメンバーも、手掛ける内容も変化するので、毎回新しい仕事にチャレンジしているような感覚で飽きることがありません。
もう一つは、“難しい課題”に取り組むこと、それ自体がやりがいです。お客様企業は、常に複雑で難しい課題を抱えていて、だからこそ我々が支援する理由がある。課題をクリアするとまた次の課題が生まれ、尽きることはありません。将来の展開を考えながら難問に取り組んでいくことが何より楽しいですし、自身の成長にもつながっていると実感しています」(ウィリアム氏)
最後に、今後の展望を聞いた。
「私はコンサルタント未経験でアクセンチュアに転職しました。業務経験の有無は関係なく、“ものづくり産業をよくしたい”という強い思いを持つ人と一緒に働きたいです。
GDPで世界第3位の経済大国になるまでに日本経済を支えてきたのは、紛れもなく製造業です。グローバル競争での遅れも指摘されていますが、改革が成功した際のインパクトも大きい。お客様や社外パートナー、そして世界中のアクセンチュアのメンバーと力を合わせて、難問を解決していきたいですね」(ウィリアム氏)