※本記事は、2022年月2日に公開した記事の再掲です。
コロナ禍で新入社員が入社してから1年。リモートワークが当たり前の環境で、彼らはいま何を感じているのか?(写真はイメージです)
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「リモートワークが当たり前」という環境で入社した新入社員の中には、これまでに数回しか出社したことない社員も珍しくない。
直接、上司や同期と顔を合わせることはない「リモート漬け」の働き方や、今後のキャリアについて、彼らは今何を思うのか?
1年前、2021年度入社した新入社員3人にインタビューした。
オンライン1on1、上司はカメラオフ
外資系企業に入社したハナさん(仮名)は、これまでに3回しか出社していない。オフィスに人がまばらなことも珍しくなくなった(写真はイメージです)。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
「定期的にオンライン1on1があるのですが、上司はカメラオフ。声色でしか感情が分かりません。
30分間の1on1で『何か話したいことはありますか』と聞かれ、特にないとと答えたら、無言の時間が流れたこともありました」
外資系企業ではたらくハナさん(仮名、23歳)は、上司との付き合い方が難しいと感じている。
ハナさんが都内のオフィスに出勤したのは、これまでにわずか3回だけ。そのうち1回は健康診断を受けるための出社だった。
「リモートワークでは朝ゆっくり起きられるし、実家や好きな場所で仕事ができる自由があります。ただ、オフィスに行って先輩と話したり、上司が別の社員を紹介してくれたりする環境にも憧れます。
ないものねだりではありますが、2週間に1回くらい出社が理想かなと思っています」
初めての対面で気持ちに変化
ハナさんは営業職だが、商談はすべてオンライン化されている。出社する場合は許可が必要だが、出社しても上司や同期社員もほぼリモートワークをしているため、オフィスにはいない。
営業チームのやり取りは全てチャットだ。業務上の反省点について、上司からチャットで長文が送られてきた時は「感情が読めずしんどかった」という。
そんな状況が好転したのは、入社から半年以上が経過した頃のこと。チームのメンバーと初めて直接顔を合わせる場が設けられてからだった。
「みんなと顔を合わせて初めて、先輩たちの性格や関係性が分かりました。1on1をする上司も、話してみたら意外とフランクで人間らしいひとだと理解できました。もっと早く会う機会があればとも思いますが……」
「同期入社の顔も分からない」
マイさん(仮名)の会社では新人研修もオンラインで実施され、顔も見たことのない同期社員ばかりという。
撮影:今村拓馬
上司だけでなく、新入社員同士の交流に寂しさを感じている人もいる。
「同期入社は数百人いるはずですが、同じチームの新入社員とはチャットグループで『よろしくお願いします』と一度挨拶しただけです」
社員数が数十人規模のソフトウェア企業に入社したマイさん(23)は、新入社員同士の交流はほぼないという。
マイさんは入社後研修も、オンラインで受けた。数百人の新入社員が同時にオンライン会議ツール・ZOOMに参加したため、「声が聞こえない」「落ちた」などの不具合が続出。カメラはオフで研修を受けたため、画面上でさえ同期入社の顔を見ることはほぼなかったという。
マイさんの会社では、出社とリモートワークを自分で選択できる。文学部出身のマイさんは技術職として新卒採用されたこともあり、質問がしやすい出社を選んだ。
同じフロアにいる新入社員10人のうち、出社するのはマイさんを含めて3人だけ。ただ昼食時間も、コロナの感染予防のため自席で食べることになっている。
「顔を合わせる同期とも、プライベートな話題はありません。雑談する時間もないので仲良くなりようがないです」
そんなマイさんだが、職場での支えになっているのが上司の存在だ。
上司が週に数回、年齢の近い先輩社員も呼び、相談や雑談をする場を設けてくれており、「安心して働けている」という。
ただオフィスで上司らが、部署をまたいで和気あいあいと談笑している姿を見ると、同期の顔も分からない自分との境遇の差を感じる。
「3年後、5年後、どんな仕事をしているのか、キャリアが描きにくい。オンラインで顔を合わせるだけだと、誰が3年目の先輩なのかも分からないので」
リモートワークは「最高」
コウジさん(仮名)は「リモートワークか対面かは問題ではない」と言い切る。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
リモートワークに、全く課題を感じていない新入社員もいる。
「リモートワークは最高の環境です」
大学院でコンピュータサイエンスを学び、大手通信企業で開発職に就いたコウジさん(25)はそう話す。
コウジさんが都内のオフィスに出社したのは、書類の受け渡しなど事務処理のためで、これまでに2回だけ。入社式もリモート実施だったという。
会社が社宅扱いとしている6畳ワンルームで仕事をしているが、特に不満はない。
「リモートを想定している部屋ではないので、同期は『さすがに狭すぎる』と言っていますが、僕は気になりません。
家賃補助が手厚いので家賃は数万円で済むうえに、本社のある都心でランチすると1000円以上かかるもののが、自炊もできる。そして昼寝もできます」
「ゆるい」生活に聞こえるが、内実はハードワークが求められ、業務時間中はチャットや音声で、進捗の確認や改善点の指示がせわしなく飛び交う。深夜まで仕事することもあるという。
「働く姿とか、何をしているかではなく、上司からはただ仕事の成果を求められます。厳しい言葉が飛ぶこともありますが、対面でも同じだと思います。上司と直接会ったことは一度だけですが、もともとが厳しい上司なのでリモートのデメリットは感じません」
怒られたり、気分が沈んだりする時もあるが、そんな時は同期社員のチャットチャンネルで励まし合っているという。
1年目から副業、転職も視野
副業がしやすいことも、リモートワークの魅力だという。コウジさんは、朝就業前の時間や週末を使ってシステム開発の副業をしている。
「朝6時から就業時間まで、本来の出勤時間を使って副業もできます。大学時代から続けている仕事で、勉強にもなります。同期などを見ても、入社1年目からの副業は当たり前です」
コウジさんは副業で、本業の月収の2分の1程度の額を稼いでいるという。
そんなコウジさんだが、「部署異動が出たら転職も考えている」と話す。
「社内でいろいろな部署を回りながら出世していくのは息苦しいなと思っています。その点、今の上司はジョブ型の働き方を徹底してくれているので僕のキャリア観に近い」
コウジさんは、すでに数か月前に転職サイトにも登録したという。
前出の外資系企業の新入社員・ハナさんも、「今の会社は2年ほどで辞めたい」と話す。
ハナさんが所属する部署には40代以上の社員が多く、一部の限られた職種を極める以外の選択肢が見えないという。
「社内でもコンサルに近い業種だと転職に繋がりやすいと感じます。でもリモートワークの影響もあって、部署を超えた社員と出会うことは難しくなっています。
今はオンラインイベントに登壇したコンサル系の社員にダイレクトメールを送ったりして、情報を集めているところです」
「メンバーシップ型」とは相性が悪い
撮影:今村拓馬
インタビューした3人の新入社員に共通していたのは、将来のキャリアを描きにくいと感じていること。
人材マネジメントに詳しいリクルートマネジメントソリューションズのエグゼクティブコンサルタント・山田義一氏は、「リモートワークは仕事の成果を評価するジョブ型組織には向いているが、メンバーシップ型組織とは相性が悪い」と指摘する。
「オフィスに出社して働く場合、『隣の人・隣の部署ではこうしている』などの間接的な学びの場があった。しかしリモートワークでは閉じた環境になり、限られたメンバー内の関係だけが濃くなる。
1on1などを担当する上司は、一人で新入社員に向き合おうとするのではなく、他の部署のメンバーと新入社員をつなげるなど、『斜めの関係』を作るハブ機能を意識する必要がある」
一方で、新入社員側には、ジョブ型に対応することも求められるという。
「メンバーシップ型組織では、働いているうちに『自分は営業に向いている』などだんだんと特性を知っていく余裕があった。しかし今はリモートワークが広まり、大手を中心にジョブ型への移行を進めている。
ジョブ型では早いタイミングで、ジョブにキャリアを寄せて行ったほうが活躍の機会が広がる。意識的に自分の特性を知り、その特性を伸ばしていく努力が必要になってきている」
(文・横山耕太郎)