Isabel Pavia/Getty Images
今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
テーマは、「応募した企業から内定を得たとして、実際に入社するまでどの程度の期間なら待ってもらえるのか」。
Aさん
転職を考えています。前の会社を退職してから次の会社に入社するまでの期間は、どれぐらいまでなら空いても許容されますか。一般的には入社を待ってもらえるのは3カ月程度が限界であると聞きます。
例えば、短期留学や転職に必要な資格取得などの理由で6カ月程度の期間が空くことになると、やはりよくないでしょうか。
(Aさん/30代前半/男性/コンサルタント)
このテーマは、個別事情によるところがかなり大きいですね。
応募先の企業の事情——「採用を急いでいるかどうか」「その応募者をどの程度ほしいと思うか」によって変わってきます。
そこで以降では、「最近の一般傾向」と「応募企業との交渉の仕方」についてお話しします。
「半年待ってほしい」と言われた企業の本音
企業が応募者から「入社まで半年待ってください」と言われたら、どう思うでしょうか。
「いや、半年後にはどうなっているか分からないよ……」
これが本音です。もともと変化の激しいスタートアップやベンチャー企業はもちろん、大手企業ですらこういう反応をするのが昨今の傾向です。
新たなテクノロジーやビジネスモデルの台頭で時代の変化のスピードが加速しているのに加え、いまだ収束の気配がないコロナ禍、不安定な世界情勢、円安など、ビジネスを取り巻く環境は混沌としています。現時点では採用ニーズがあっても、半年後の状況は読めないのです。
コンプライアンス上、一度内定を出したら取り消すことは難しいため、半年後にしか入社できない人の採用には当然慎重になります。
そこで、企業からはこんな提案がなされます。
「入社できる時期が近づいたら、改めて面接を行いましょう」
例えば、「入社できるのは3月です」ということであれば、「12月~1月頃、当社がまだ募集していて、あなたにも入社意欲があるなら、再度面接を組みましょう」という話になることが多いのです。
もちろん、外部環境の変動に左右されないポジションで、かつ企業が応募者のキャリアを高く評価していれば、「半年間待ってもいい」というケースもあります。
しかし、企業は別の観点でも不安を抱きます。
「待つのはかまわないけれど、本当に半年後に入社してくれるのだろうか?」
面接では入社意欲を見せていた応募者が、「やはり前の会社を辞められない」「家族の事情で地元に帰らなくてはならなくなった」「知人に頼み込まれて会社を手伝うことになった」など、入社間際に辞退してしまうケースは少なくありません。
半年待ったのに入社してもらえず、一から募集をやり直さなければならないとなると、企業にとっては大きなダメージとなります。それも慎重になる理由の一つです。
半年待つ代わりにこんな提案をする企業も
「この人をぜひ採用したいから、半年待ってもいい。でも、その間に心変わりして辞退されるリスクもある」——こういった場合、次のような提案をする企業もあります。
「入社までの間、週1回でも隔週1回でもかまわないので、業務委託として関わってもらえますか」
半年間まるまる空白とせず、つながりを保っておくことで入社辞退を防ごう……というわけです。
Aさんも、状況によっては、応募企業にこの提案をしてみてはいかがでしょうか。
もし企業側が「ぜひ入社してほしいが、半年も待つのは……」と難色を示したら、「入社までの間、業務委託として週1回くらいのペースで関わる形ではいかがでしょうか」などと交渉してみるのです。
半年空ける理由が「短期留学」だとしても、今ならリモートでどこからでもミーティングに参加することは可能でしょう。
もしかすると、「そういう形なら待ってもいい」と受け入れられる可能性があります。
もちろん、半年間学んだことを活かして相手企業にどのように貢献できるかをプレゼンすることも大切です。
もしかするとAさんには「半年間、ただ勉強に集中したい」という気持ちもあるかもしれません。
ですが、Aさん自身にとっても、ビジネスから完全に離れないほうがいいと思います。
半年間もビジネスから切り離された生活をすると、元に戻すのが大変です。1カ月でもなかなか難しいでしょう。お盆や年末年始など1週間~10日程度の休みであっても、仕事を再開して1~2日は「リハビリ」が必要と感じる人は多いのではないでしょうか。
企業としては「走っている電車にスッと飛び乗ってほしい」と考えています。
ご自身がビジネス感覚を鈍らせないようにするためにも、転職先企業、あるいはそれ以外の企業ででも、ビジネスとの接点を持ち続けることをお勧めします。
ブランク期間の過ごし方については、この連載の第29回でも詳しくお話ししています。
交渉により待ってもらえるケースも
ここまで厳しめのお話をしてきましたが、最後に「市場価値が高い人材であれば融通をきかせてもらえるケースはある」という事例をお伝えしましょう。
マーケティング職のBさんの場合、9カ月間、転職先への入社を待ってもらえました。
Bさんは入社を希望するX社に対し、このように交渉したのです。
「これからZ社に入社する。そこで9カ月間、新しいノウハウをキャッチアップしたうえで御社に入社したい。それまでの9カ月間は、月2回、業務委託として御社に関わる形ではどうか」
Z社を踏み台にするようで、一見モラルに反するように見えるのですが、実はZ社側もBさんの希望を快諾していました。
「9カ月間、当社のプロジェクトに貢献してくれればいい。副業もOK。その後は他社に行ってもかまわない。けれどその後も、副業で当社を手伝ってほしい」と。
こうしてBさんは、自身のスキルを活かしてZ社のプロジェクトに貢献しつつ、新しい経験・スキルを獲得。自身の人材価値をさらに高めたうえで、9カ月後、X社に正式入社を果たしたのです。
企業が求める経験・スキルを持っていて、お互いのメリットがうまく噛み合えば、このような交渉が成立するケースもあるわけです。
企業選び、そして交渉の仕方によっては、Aさんの希望は叶えられる可能性があるでしょう。
内定が出た企業といい形でご縁が続くよう、お互いにとってプラスになる提案を心がけてみてください。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第84回は、8月22日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。