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10年の遅れを取り戻す──いま日本企業に求められているアクションとは

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ここ1〜2年で、日本で急速に広まった「ESG経営」。“グリーンウォッシュ”といった言葉もある中で、実態はどうなっているのか。

日本に先駆けてESG経営に取り組んできた欧米の動きと、いま日本企業に求められているアクションについて、ESG経営の第一人者でもあるニューラル CEOの夫馬賢治氏と、デロイト トーマツ グループ(以下、デロイト トーマツ)の藤木由実氏が語り合った。

※持続可能な社会の実現に取り組む“サステナビリティ先進企業”を表彰するアワードイベント「Beyond Sustainability 2022」。Day 1セッション「ESG経営をどう実現するか。日本と世界の現在地」(2022年7月25日配信)の内容を一部編集して掲載します。

「ESG経営」が浸透してきた理由

夫馬賢治氏

ニューラル 代表取締役CEO / 信州大学特任教授の夫馬賢治氏。2013年ニューラル設立。東証一部上場企業や大手金融機関などに対して、サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリーを行う。近年は農林水産省や環境省の委員を務める他、地方自治体の委員、国際NGO理事なども務める。Beyond Sustainability 2022アドバイザリーボード。

「ESG」は環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字だ。そして、この3つの要素を念頭に経営に取り組む「ESG経営」は日本よりも欧米が先行してきた。

「グローバルで考えると、ESGが注目され始めたのは2008年頃のことです。対して、日本で急速に広まり始めたのは2017年後半頃。日本は欧米に比べて約10年遅れているのが実情です」(夫馬氏)

今でこそ日本でも気候変動問題などを中心に「これまでの延長線上ではいけない」という感覚が広まってきているが、ESG経営を考える上でも“過去と未来は大きく異なる”という思想が重要視されている。

「エネルギー問題や人口変化などの社会課題が顕在化するほどに、ESG経営の発想は加速してきました。近年で言えば新型コロナウィルスの感染拡大、地政学リスクなどがESGを加速させるドライブ要因となっています。

日本においても、過去のデータや評価手法では経営計画を立案するのが困難になり、“従来の延長線上にはない未来に向けて企業はどうしていくべきか?”という問いかけとともに、ESG経営が一気に定着してきました」(夫馬氏)

企業に求められる「開示」の動き

藤木由実氏

デロイト トーマツ グループ デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ヴァイスプレジデントの藤木由実氏。新卒で投資銀行へ入社し、M&A、コーポレート・ファイナンス、キャピタル・マーケット業務などに従事。デロイト トーマツ入社後はESGおよび気候変動関連業務のマーケティングなどを担当。2022年6月よりデロイト トーマツ グループCEO直下組織、Sustainability & Climate Initiative(SCI)に参画。カーボンニュートラルをはじめとするサステナビリティに関する課題解決支援に向けて、金融領域の専門性を活かし、グループ横断で一貫したサービス提供をするための仕組みづくりに取り組む。

一方で、企業経営や投融資にESG経営の発想を取り入れていこうとすれば、取り組みの定量評価は避けられない。

「投資家をはじめとするステークホルダーに対する説明責任はもちろん、ESGの取り組みを定量評価して企業価値に反映しようとするニーズが企業・投資家の双方から、ますます高まってきています」(藤木氏)

そこで近年、賛同する日本企業が増えているのがTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)だ。

TCFD

TCFDでは、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といった4項目を開示推奨項目としている。

「日本では、元々環境対策に率先して取り組んできた化学業界やTCFD開示で表彰されるようなリーディングカンパニーと、中小企業や温室効果ガス排出量の少ない業界や経営者との間で、意識や取り組みに差が出てしまっているように見受けられます」(藤木氏)

TCFD

日本のTCFDへの賛同機関数は世界的にみてもトップクラスなものの、取り組みに対する温度差があるのが実態だ。

こうした情報開示に対して、定量的な裏づけを求める風潮はさらに強まってきた。例えば「温室効果ガス排出量算定における、スコープ3の算定基準標準化」が挙げられる。TCFDのガイダンスでは、スコープ1・2の開示は必須、スコープ3は推奨とされている。

「企業Aが自社の事業で排出する温室効果ガス量を《スコープ1》とします。事業に必要となる電気・蒸気の利用(他社から購入したエネルギー分)は《スコープ2》です。

そして、上流と下流のサプライチェーン(他社から購入したエネルギー分は除く)での温室効果ガス排出量が《スコープ3》。

つまり、自社だけでなくサプライチェーン全体を含む広い範囲で温室効果ガスの排出量をしっかりと算定し、情報を開示することが求められています」(夫馬氏)

TCFD

「また、ESG経営と言えば大企業や先進的な企業の取り組みという誤解は根強いですが、非上場企業や中小企業も含め、社会や環境への影響を見据えた企業経営が必要になっています」(夫馬氏)

さらに、非財務情報である《人的資本・人権》の開示を求められる動きも強まっている。

「従来、人的資本は“無形資産”の企業価値として可視化しづらかったのですが、そこを再評価しようという議論も活発化しています」(藤木氏)


「人権でいうと、強制労働や児童労働などがおきていないか、人権侵害がおきていないかなどをサプライチェーン全体でしっかりと把握・管理することが求められています。

自社だけ、自国だけがよければいいというスタンスを捨てて、全てを健全なサイクルで進めるように目を向けることがグローバル経済成長の第一歩だと思います」(夫馬氏)

レールの上を走るだけでは駄目。ルールメイクに参加していく

写真左より、セッションの司会進行を務めたBusiness Insider Japan Brand Studio スタジオ長 松葉信彦、夫馬氏、藤木氏。

では、欧米を追いかける立場となっている日本では、企業はどんなアクションが求められているのだろうか。

「ESGの多くは欧州を中心に規定などが議論されていますが、実は日本企業は既にその規定に応えられているケースが多いのです。

従来、日本企業が積み上げてきた数多くの資産とその価値を、自社内で再評価・解釈して、市場との対話につなげていくことが重要です」(藤木氏)

一方で、作られたレールの上を歩くだけではなく、日本としてもグローバルでのルールメイクに参加していかなければいけない、と藤木氏は続ける。

「経営の軸自体にオリジナリティを出していくことが、今後はさらに必要となるでしょう。

規定演技はしっかりやりつつ、自由演技において各企業の特色を光らせていくイメージです。ルールメイクにも積極的に参加していく姿勢が、日本全体の評価を高めることにつながります」(藤木氏)

特に、人的資本をはじめとする無形資産の企業価値評価は、個社での取り組みについて、ステークホルダーへの周知が一層重要になっていく。国内外を問わず新しい手法も用いた情報開示を進めることで、企業価値評価に関する議論の注目度はさらに上がると見込まれる。

「例えば、海運業界での排出量削減のあり方の議論に日本郵船が、電気自動車(EV)のサーキュラーエコノミー(循環型経済)化を目指す活動に本田技研工業やブリヂストンが参画しています。

規定や基準は完成するものではなく、常に進化し続けるもの。日本企業としてもその輪の中に踏み込んでいくことが不可欠になっていくはずです」(夫馬氏)

日本企業の現在地という点で言えば、「企業の経営層の理解浸透や意識の転換はずいぶん進んできたと感じる」と夫馬氏。今後は、グローバル舞台にしたルールメイクにも自発的に飛び込む姿勢と行動が求められているのだ。

「時間軸の転換」が必要だ

ではグローバルを見据えつつ、ESG経営を推進していく日本企業は、どのようなファーストステップを踏み出すべきなのだろうか?

「これまで、日本企業では2〜3年先を『中期』と捉えてきましたが、そのスパンで市場規模が激変することはあまり考えられません。しかし、10年、15年、そして20年先を見据えると、そこには現状とは全く異なる姿があります。

経営の舵取りにおいても時間軸を延ばして考え、過去の情報や現状の市場分析から得られるデータだけに頼るのではなく、不確実な中で意志決定をし、実行する胆力、世界の潮流を読むグローバル視点などを持つことが、日本企業がこれから身につけるべきスタンスです。

『そんな先のことはわからない』ではなく『描いた未来を実現するのだ』という思想の転換と実行が、日本企業が最初に乗り越えるべき課題と言えます」(夫馬氏)

一方で、グローバルのルールメイクへの参画など、企業単独で臨めることには限界がある。大企業のみならず中小企業や政府、そして消費者も巻き込む《総力戦》で動いていかなければ、描いた未来を実現していくことはできない。

カーボンニュートラルの取り組みもひとつの例だ。

「今や、さまざまな国と企業が2030年から2050年を見据えた時間軸でカーボンニュートラルの取り組みを推進しています。その背景には、現在の経済システムを見直し、エネルギー・サービス・金融なども含めて環境負荷の低い状態にシフトしようとする動きがあります。

これは個別で対応しようとしても難しい領域なので、むしろ各企業はそれぞれの専門的な強みを生かし、官民・産学・企業間連携を含む《チーム》でのソリューションを見出そうとする時代になっていくことが見込まれます」(藤木氏)

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また、ESGを軸とした経営の推進においては、机上の空論ではなく技術の研究開発と実装も不可欠な要素だと夫馬氏は続ける。

「社会を転換するには、新しい技術の実装は欠かせません。

デロイト トーマツにはグローバルネットワークがあり、日本国内に多数の人材、ナレッジがある。世界と日本をつなぎながら、日本のESG経営を率いていただきたいと期待しています」(夫馬氏)


「グローバルとの連携を通して、先進諸国の最新のナレッジやベストプラクティスを発信することで、クライアントのESG経営、事業のトランスフォーメーションに貢献していきたいですね。ESG経営の領域において、日本が世界をリードするきっかけを作り出す一助となるような存在を目指していきます」(藤木氏)

グローバルと歩調を合わせながら、日本企業ならではの光る部分を見つけ、輝かせていく。日本におけるESG経営の躍進に向けた一歩を踏み出す時が来ているのだ。


デロイト トーマツ グループ「クライメート&サステナビリティ」はこちら。

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