ヴァージングループの創業者リチャード・ブランソン。
Virgin
ヴァージングループの創業者リチャード・ブランソンは、自分のレコード会社で盗みを働いた従業員を許したことがあるという。どこの会社でも普通は解雇になってもおかしくないが、セカンドチャンス(やり直しの機会)の意義を信じているから許したのだと語る。
億万長者で、いくつもの企業を立ち上げた起業家でもあるブランソンは、かつてある地域のレコード店から電話を受け、「ヴァージン・レコード(Virgin Records)の従業員がやってきて、会社からくすねたアルバムを100枚ほど売ろうとした」と聞かされたときのことをInsiderに語った。
「私は彼をオフィスに呼び、盗みはしない方がいい、他の従業員にも、君自身にもフェアではないと伝えた」とブランソンは言った。「セカンドチャンスを与えたことで、結果的に彼は最高の社員に変わった。ヴァージン・レコードが契約したカルチャー・クラブやジェネシスなどのバンドを見つけてきたのは彼だ」
そして「もし常識どおりに解雇していたら、彼にとっても会社にとっても、状況は今より悪くなっていただろう」と付け加えた。
ブランソンは過去数十年、異端の起業家として知られてきた。2021年にはヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)のロケットで、アマゾンの前CEOで同じく億万長者のジェフ・ベゾスと宇宙の果てを目指して競った。
ブルームバーグの推定では、ブランソンの純資産は54億ドル(約7180億円、1ドル=133円換算)で、イギリス有数、世界でも上位500位以内に入る大富豪である。その富の大部分は、1970年代にレコード店としてスタートしたコングロマリット、ヴァージン・グループからの収入だ。現在では、エンターテインメント、小売、旅行、ホスピタリティ、航空など、さまざまな業界に400以上の子会社を持つ。
アメリカのオンライン教育プラットフォーム「マスタークラス(Masterclass)」で自身のビジネス講座が始まるのに先立ち、ブランソンは、自分の授業では社会を一変させるアントレプレナーシップについて取り上げ、従業員の幸福を守るヒントについても網羅すると語った。
また、従業員を最優先する環境を後押しし、一般的には見込みがないと思われてしまう人にも成功へのチャンスを与えることにしているとも話す。ブランソン自身、10代の頃は失読症に悩まされ、15歳で学校を中退している。
「(ヴァージン・グループでは)刑務所出所者を採用し、セカンドチャンスを与えることを大切にしてきた。こういう人材が最高の従業員になったことは何度もあった。誰でも一度や二度は間違いを犯すもの。私も10代の頃は失敗したからね」(ブランソン)
同様の取り組みを行っている起業家や大手企業は他にもある。イギリスの小売業者ティンプソンズ(Timpsons)も元受刑者を雇用していることで知られている。同社CEOのジェームズ・ティンプソン(James Timpson)によれば、同社はこれまでに1500人の元受刑者を採用し、そのうち再犯に至ったのはわずか4人だという。ティンプソンは、人を信頼すると報われる、元受刑者の人生を好転させることができると述べていた。
従業員のアイデアを書き留める
ブランソンは、パンデミック以前からリモートワークやフレックス制を推奨しており、それを採用しないリーダーは「スタッフを信頼していないと言っているようなもの」と言う。
さらにブランソンは、リーダーの中には従業員のアイデアに耳を傾けず、書き留めもしない者がいるが、これは大きな間違いだと指摘する。
「そんなことをされたら、従業員はいずれうんざりして会社を去り、耳を傾けてくれる別の会社に移ってしまう。
ノートを用意し、自分の声ではなく他者の声に関心を持つこと。スタッフからフィードバックを得ること。意見を書き留めて答えていくこと。昇給よりこうしたことのほうが大切とも言える」(ブランソン)
(編集・大門小百合)