山形県内にある観光庭園「ダリヤ園」近くの橋。崩落し、軽自動車が巻き込まれている。
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2022年8月3日からの記録的な大雨により、山形県内を流れる最上川上流の各地で、浸水や氾濫などの被害が相次いだ。大雨被害は山形のほか、新潟、北陸など幅広い地域に及んでいる。
8月3日夜から4日朝にかけて、災害が切迫していた市町村の被害は実際にどこまで広がったのか。雨天、夜間でも観測可能なレーダー衛星のデータをみると、浸水被害の広がりを確かに捉えていたことが分かった。
使用したレーダー衛星:欧州の合成開口レーダー(SAR)衛星「センチネル1」のデータを使用。観測は日本時間8月4日05:43、比較用の過去データの観測は日本時間7月23日05:43を使った。
※「水面が暗く写る」というレーダー衛星の特性上、川の氾濫のほかにも、低地に大雨の水が溜まって水面として見えていた可能性があります
衛星レーダー画像に映った推定浸水域
■山形県川西町東大塚付近
浸水前(7月23日観測画像)
Credit: European Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser
浸水後(8月4日観測画像)
本文中でリンクをした産経ニュースの報道写真で撮影されたと思われるエリアを赤枠で囲んだ。通常時と比べて、黒いエリア(川や浸水)が非常に広がっていることがわかる。
Credit: European Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser
上の画像2枚は、川西町のGoogle Earthのマップ上にレーダー衛星の画像を重ねたもの。
川西町は、産経ニュースの報道で浸水が報じられたエリアだ。報道写真では、最上川周辺のエリアに、広く浸水エリアが広がっていることが分かる。
GIF画像で比較すると、レーダー衛星が浸水前後の違いを捉えていることが改めて確認できる。
Credit: European Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser
川西町では、冒頭の写真のとおり観光庭園「ダリヤ園」近くの橋が崩落し、通行していた軽自動車1台が巻き込まれたと報じられている(ダリヤ園は画像の南西の方にあり、鮮明には写っていない)。
レーダー画像では、電波を反射しにくい水面が暗く映り、コンクリートなどの人工物は白く明るく映る。
豪雨の前の7月23日朝では、水域は本来の最上川が黒く見えている程度だ。8月4日になると、最上川だけでなく接続する犬川なども大きく黒く映り、川西町の市街地まで水面が広がっていることがうかがえる。
■山形県長井市河井山付近
通常時(7月23日観測画像)
Credit: European Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser
浸水後(8月4日観測画像)
長井市の最上川周辺の衛星画像を比較したところ。
Credit: European Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser
山形地方気象台は8月4日午前4時10分、最上川上流の長井市の河井山の右岸付近で越水による氾濫が発生したと発表した。
長井市の最上川右岸近辺の越水は、テレビ朝日など各社が報じている。画面中央の合流部分は、最上川(旧称:松川)と白川が合流する「最上川発祥の地ながい」。越水が発生した右側の河井山右岸近くの最上川で7月の観測画像よりも川幅が広くなっている様子が見える。
■山形県大江町百目木地区付近
通常時(7月23日観測画像)
Credit: European Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser
浸水後(8月4日観測画像)
河北新報が報じた、最上川脇の住宅周辺(赤枠)。河川が大きく湾曲している部分などの川幅が広がっている。
Credit: European Union contains modified Copernicus Sentinel data 2022 processed with EO Browser
山形県大江町では、8月4日午前2時すぎ、最上川・月布川が氾濫するおそれのある水位に達したとして、百目木地区と鹿子沢地区と用地区の一部に警戒レベル4の避難指示が発令された。
画面中央の最上川が大きく曲がっているJR左沢線の左沢駅北側が百目木地区にあたる。河北新報の報道によると、最上川が氾濫した水が住宅街に到達し、8月4日午前10時35分ごろの写真として住宅が浸水している様子を報じた。衛星画像をみると、7月の観測画像に比べ、最上川が広がっている様子が見て取れる。
観測したレーダー衛星
今回の山形県の大雨による被害観測には、欧州「コペルニクス計画」が運用する合成開口レーダー(SAR)衛星「センチネル1」の画像を使った。
センチネル1は世界の陸域のレーダー観測画像を12日ごとに無償公開している。2022年8月3日20:43 UTCの観測は日本時間8月4日05:43にあたり、最上川の水位が非常に高いタイミングを捉えていたと推測される。
Google Earth Engineによる最上川上流の浸水域簡易解析
画像:地理院タイルにセンチネル1データの解析結果を重ねて作成(Google Earth EngineおよびUN-SPIDER Flood Mapping and Damage Assessmentを用いて解析)
衛星データはほかにも色々な使い方がある。例えば、水の増えたエリア(浸水などを想定)を判別しやすくしたのが上の画像だ。
8月4日朝の最上川上流域の浸水被害について、広域の浸水推定エリアをセンチネル1データからGoogle Earth Engineを用いて抽出した。
この簡易解析では、Googleの地理空間分析プラットフォームGEE上で、国連が提供する「洪水推定スクリプト」を用いてセンチネル1のデータを浸水前後で比較した(データ自体は冒頭からお見せしてきたものと同じ)。
浸水が発生した8月4日の観測と、浸水前の7月中の観測を比較すると、水面である可能性が高い画像ピクセルを抜き出すことができる。上の画像では、これを国土地理院の標準地図に重ねている。
国連の洪水推定スクリプトは、実際の氾濫よりも厳しく推定する傾向があるものの、浸水したエリアを位置情報を持ったデータ化でき、浸水ハザードマップなどさまざまな地図情報と重ね合わせて分析できる。地理院地図との重ね合わせでは、川から離れた地域にも点状に浸水推定エリアが広がっていることがうかがえる。
画像:地理院タイルにセンチネル1データの解析結果を重ねて作成(Google Earth EngineおよびUN-SPIDER Flood Mapping and Damage Assessmentを用いて解析)
長井市付近の浸水推定エリアを拡大した図。「河井山の右岸付近で越水による氾濫が発生」という被害報道とよく一致するようだ。
画像:地理院タイルにセンチネル1データの解析結果を重ねて作成(Google Earth EngineおよびUN-SPIDER Flood Mapping and Damage Assessmentを用いて解析)
飯豊町小白川地区の拡大図。大巻橋が崩落した県道10号線を挟んで2か所の浸水推定エリアがある。県道とはずれており、誤差が生じている可能性もある。
(文・秋山文野)