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役職の階層を上がるにつれて増えていくのが「ミーティング」。一日のほとんどがミーティングの予定で埋まっている、というリーダー層も多いのではないでしょうか。
では数あるそのミーティングの中で、リーダーにとって「最も重要なミーティング」は何だと思いますか?
部門長会議やセールス会議、戦略会議など、経営の中枢に関わる重要会議もありますが、リーダーにとってとりわけ大切なのはメンバーとのコミュニケーションに関わることです。
なぜなら、企業の売上も利益も、それを生み出す源泉は「人」だからです。ミッションに向かって事を成すのも「人」です。人のモチベーションが低ければ仕事で成果を挙げることは難しく、会社が目指すミッションも達成できません。
メンバーに関するミーティングといえば、期初に実施する「目標設定面談」、日々の進捗を確認したり相談に乗ったりする「週次面談」や「1on1」のほか、定例の「朝会」や「部会」などもありますね。リーダーにとってはいずれも外せないミーティングばかりです。
しかし私に言わせれば、「評価フィードバック面談」ほどリーダーにとって重要であり、頭を悩ますものはありません。呼び名は企業によってまちまちですが、その年度の評価をメンバーに伝えるために半年に一度、もしくは 年に一度設けられる面談のことです。
評価フィードバック面談がやる気を削がれる場に
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なぜ評価フィードバック面談がそれほど重要なのか。端的に言うと、評価フィードバック面談は他のミーティングと比較してその巧拙によるインパクトがはるかに大きいうえに、失敗すると取り返しがつかなくなるからです。
ここで言う「失敗」とは、例えばフィードバックの内容に相手が納得できず、モチベーションを下げてしまうようなことです。メンバーのモチベーションを下げてしまうと、次年度の業務にも支障を来してしまいます。
最悪なのは、良い評価をフィードバックしたのにモチベーションを下げてしまう場合です。これは、メンバーが評価してほしいポイントと評価されたポイントにズレがある時などに起こります。
本人が頑張ったと認知しているところが評価されず、逆に評価しなくてもいい箇所を評価されれば、「このリーダーはちゃんと見てくれているのだろうか」と不信感を持たれ、これまた結果的にモチベーションの低下を招きます。
評価の高いハイパフォーマーのモチベーションを下げてしまっては一大事です。これから始まる新年度の組織目標達成もままなりません。
これほど重要であるにもかかわらず、実は多くのリーダーが評価フィードバック面談の失敗パターンにはまってしまっているのが実情です。
このことに気づいたのは、私がリクルートグループの研修会社のマーケティング責任者をしていた時のことです。当時私は、リーダー向けの階層型研修(課長研修、部長研修など)に加えて、リーダー向けのスキル研修も担当していました。
評価フィードバック面談は評価の内容をフィードバックする場ですから、ここで納得のいくフィードバックをもらえればメンバーは次年度も頑張ってくれるはずです。
ところが、メンバーたちに話を聞くと必ずしもそうではなく、フィードバックを受けた後に、次年度に向けてのやる気を損ねてしまっていた人が驚くほどたくさんいました。つまり、それだけ多くのリーダーが評価フィードバック面談の場でしくじっていたということです。
これほど重要なミーティングなのに、なぜ多くのリーダーが評価フィードバックで失敗してしまうのでしょうか?
そもそも面談の「ゴール設定」の間違えている
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評価フィードバック面談でリーダーが失敗してしまう最大の理由は、評価フィードバックミーティングそのものの「ゴール設定」のミスです。
私はリーダー層の方との会話の中で評価の話が出ると、「評価フィードバック面談のゴールは何だと思いますか?」とよく尋ねます。一番多い回答がこれです。
「前年度の評価結果をフィードバックすることですよね?」
残念ながら違います。
今さら変えられないものを伝えてもやる気は起きない
もちろん面談の場で評価結果は伝えます。違うと言ったのは、評価結果とせいぜいその理由だけを伝えることが評価フィードバック面談のゴールだと勘違いしている人がいるということです。
例えば「5段階評価であなたは3です」というように、そのメンバーの評価数値を伝えることはみなさんもやっているでしょう。
ただし数値を伝えただけでは、「もっと評価されていいはずなのに、なぜ?」とメンバーが納得しないかもしれません。そこで評価に加えて最低限、その評価にした理由は伝える必要があります。
ただし評価結果(とその理由)は文字通り「結果」なので、過去の話です。過去の話ですから、フィードバックする段階でその評価結果を変えることはできません。今さら変えようもないことを伝えるだけでは、部下のモチベーションを上げるために上司が使える“武器”が少なすぎます。
「他人と過去は変えられない。変えられるのは自分と未来」
(You cannot change others or the past. You can change yourself and the future.)
これはカナダの精神医エリック・バーンの言葉。評価フィードバック面談に関してもこの言葉が当てはまります。
では、どのようにゴールを設定するとよいのでしょうか。バーンの言葉の後半に「変えられるのは自分と未来」とありますね。ここがポイントです。
どのように「自分」を変えればいいのか。どんなふうに「未来」を変えることが期待されているのか。人は、やるべきことが分かり、誰かに期待されていると分かるとやる気が湧くものです。しかも、やるべきことが無駄撃ちに終わらず、きちんと自分自身や組織の成長につながるのならなおさらモチベーションが上がります。
これこそが評価フィードバック面談の目的です。
自分を変えるための「Good & Better」
真の目的に適った評価フィードバック面接を実践するために、リーダーには2つの事前準備が必要です。
感謝を伝える「Good」
1つは「感謝していること(エピソード)」です。具体的には、そのメンバーのおかげでできたこと、あるいはリーダー自身が助かったこと。私はこれを「Good」と呼んでいます。
Goodは、面談直前に付け焼き刃で考えただけでは不十分です。何カ月も前のことは得てして記憶が薄れているものですし、下手をすると思い出せません。
ではどうすればよいのか。私自身はGoodを日常的にメモしていました。もちろんその場でも感謝は伝えるのですが、それを記録として残しておくのです。
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もっと伸ばしてほしい「Better」
2つめの事前準備は「もっと期待すること」を考えておくこと。具体的には、今後能力を伸ばしてほしいこと、メンバーがより良くなるためのポイントです。
私はこれを「Better」と名づけました。本来のBetterの意味とは使い方が違いますが、GoodもBetterもポジティブな言葉なので、メンバーにも好評でした。
面談でよくあるパターンとして、メンバーのダメなところをとことん詰めてしまうリーダーがいますね。「目標を達成できなかったじゃないか」「新しい企画を出すと言ったのにあれはどうなった」などと尋問されれば、誰だって萎縮してやる気を失ってしまいます。
できなかったのには必ず理由があります。多くの場合は、与えられたミッションがそのメンバーの持てるサイズになっていなかったことが原因です。
ではどうしたらいいのか。その大きなミッションを相手が持てる大きさにしてあげればいいのです。
Betterのフィードバックで意識したい「ラーニングゾーン」
下図をご覧ください。ミッションが大きすぎればパニックゾーンに陥ってしまい、対処することができません。しかしミッションが小さすぎてもコンフォートゾーンのままで成長につながりません。目指すべきは、相手が持てて成長にもつながるラーニングゾーン。ここがリーダーの腕の見せどころです。
先日、私が主宰する中尾塾で元Jリーグチェアマンの村井満さんにお話をしていただきました。
村井さんは仕事を引き受けるかどうかを決める際、「緊張するかどうか」を基準にするとおっしゃっていました。
- 全然できない仕事(≒パニックゾーン):端からできないと分かっているので検討もしない
- 楽勝にできる仕事(≒コンフォートゾーン):余裕でできるので緊張もしない
- 緊張する仕事(≒ラーニングゾーン):持てるかどうか分からない、でも持てそう
Jリーグチェアマンのオファーがあった時には緊張した、だから受けたのだそうです。
リーダーは、メンバーにとっての「緊張する仕事」はどの程度のものなのかを見極め、ちょうどラーニングゾーンにはまるような仕事を割り振ることが大切です。
このような視点からGood & Betterを年度末までにまとめておき、面談の場でメンバーに手渡します。アイスブレイクやラポールのネタとしても役に立ち、何より面談の場が和むのでおすすめです。
面談では「未来」について対話する
先のバーンの言葉にあるように、変えられるもう1つの要素が「未来」です。
評価フィードバック面談では、今から始まる未来、つまり来年度のミッションについて時間を割いて対話をしてください。ベストなのは、ミッションがメンバーの「Will(やりたいこと、なりたい姿)」と合致していることです。
メンバーのWillを常日頃からきちんと把握できていればよいのですが、そうでないケースもあるでしょう。そんなときは、いきなり「あなたはどうなりたいの?」と尋ねるのではなく、メンバーのWillをリーダー自身がどのように把握しているのかをまず伝えます。まだ把握できていないなら、あるいは自信がないなら、それを正直に伝えます。
そしてできる限り、このWillに近づくようにミッションを設定したいと思っていることをメンバーに伝えます。ミッションとWillのズレを極力なくすことで、両者の接点を作りやすくなります。
こうした対話をすることで、来年度のミッションの方向性についてのコンセンサスを得やすくなります。そのメンバーにこれから担ってもらうであろうミッションの重要性をきちんと伝え、エンパワーメント(やる気になってもらう)できる可能性が高まるのです。
ゴールを正しく「未来」に設定すること。事前準備として「Good&Better」を準備し、メンバーの「Will」を把握したうえで、メンバーが少し緊張するミッションを提示することで成長を促すこと。これらができれば、ついつい過去の話に終始しがちで憂鬱な評価フィードバック面談が、未来に向かってどう頑張っていこうかという前向きな対話の場になります。
ぜひあなたも実践してみてください。
※次回は2022年9月9日公開予定です。
(連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)
中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、 「ZUU」社外取締役、 「LiNKX」株式会社非常勤監査役、株式会社博報堂テクノロジーズ フェロー、TEPCOフロンティアパートナーズ投資委員も兼任。新著に『1000人のエリートを育てた爆伸びマネジメント』『世界一シンプルな問題解決』がある。