アマゾンの有料会員サービス「Amazonプライム」に対し、米連邦取引委員会(FTC)が調査を本格化させている。
dennizn/Shutterstock.com
米連邦取引委員会(FTC)がアマゾン(Amazon)に対する調査を強化している。
ターゲットはアマゾンの「ドル箱」サブスクリプション(定額課金)サービス「アマゾンプライム」。アマゾンが意図的に消費者を騙(だま)して加入させていないか、実態を明らかにするのが目的だ。
FTCの調査は、アマゾンがプライムの登録と退会のプロセスにおいて、「ダークパターン」と呼ばれる曖昧(あいまい)な表現やウェブサイトデザインを採用している問題に焦点が当てられている。
Insiderが過去記事(3月15日付)で報じた内部文書によれば、アマゾンはユーザーが誤ってプライム登録してしまう問題について、何年も前から認識していた。
しかし、クラウド事業に並ぶ売り上げの柱であるサブスクリプション事業の成長鈍化につながる懸念があることから、同社は登録・退会に関わる表現やサイトデザインの大規模改修にはその時点で手をつけない判断を下していた。
本件に詳しい複数の匿名関係者によれば、調査の一環としてFTCは最近、アマゾンの現役あるいは元従業員に接触し、書類提出や出頭を求める(応じない場合の罰則付き)召喚状を送付したケースもあるという。
ここ数カ月内に送付された召喚状のうち1通をInsiderが直接確認したところ、FTCは2021年3月の段階で、アマゾンに対する民事審査請求(CDI)を発行していたことが分かった。
民事審査請求は、FTCが調査に必要な文書提出、証人喚問による口頭供述など情報提供を企業に命じるもので、その後の審判手続きでは違法性の認定に使われる。
また、FTCが4月に前出のInsider記事(3月15日付)を引用した質問状をアマゾンの顧問弁護士に送ったことも、この召喚状から明らかになった。
反トラスト法(独占禁止法)に詳しい関係者によると、通常、FTCはこのようなケースで調査対象企業を提訴する手続きに踏み込むことが多いようだ。
ただ、調査プロセスで集められた証拠に基づき、訴訟を取り下げたり、和解に応じたりする可能性もある。またアマゾンは、召喚状による書類提出や出頭命令を取り消すようFTCに請願することで、手続きを遅らせることもできる。
FTCの担当者は、Insiderの取材に対してコメントを避けた。一方、アマゾンの担当者は文書で次のように回答した。
「当社は継続的に顧客からのフィードバックに耳を傾け、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を向上させる方法を模索しています。ユーザーの方々にはプライムをご愛用いただいており、当社側も登録・退会の手続きが明確かつシンプルになるようプロセスを設計しています」
史上最年少のFTC委員長は「ダークパターン」注視
商品の無料配送と映像コンテンツのストリーミングサービスで知られるアマゾンプライムは、空前の勢いで会員を増やし、2021年末時点で2億人以上の会員を抱える、世界で最も人気のあるサブスクリプションサービスの一つとなっている。
プライムを中心とするアマゾンのサブスクリプションサービスの2022年第2四半期(1〜6月)までの売上高は、前年同期比10.5%増の171億ドル(約2兆3000億円)だった。
一方で、サイトの表現やデザインに騙(だま)されて会員登録に至ったという消費者からの訴訟も相次いでいる。
訴訟など一連の問題への対応を協議するため、アマゾンの顧問弁護士と同社のプライム担当チームが非公開の会合を2021年時点で開いていたことは前述の通りだ。
今回のプライムに関する調査は、FTCの消費者保護局が主導しており、クラウド事業を手がけるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に対して競争局主導で行われている調査とは別の動き。
2021年6月に史上最年少の32歳でFTC委員長に就任(米コロンビア大学准教授、反トラスト法が専門)したリナ・カーン氏は、2022年の年始早々、ダークパターンや解約しにくいサブスクリプションサービスについて一般消費者向けに警告を発している。
また、FTCはすでに2021年10月末の段階で、消費者を誤認させ、または意図的に誘導し、サブスクリプションサービスに加入させるダークパターンの展開を規制するガイドラインを公表している。
なお、アマゾンは欧州でも同様の非難を受け、2022年7月にプライムの退会手続きを簡略化することに合意した。
欧州消費者機構(ECO)、ノルウェー消費者評議会(NCC)、環大西洋消費者ダイアローグ(TCD)といった団体からの苦情を受けた動きで、これらの団体は、アマゾンが多くのハードルと分かりにくい表現でプライム会員の退会を意図的に難しくしていると主張している。
(翻訳:田原寛、編集:川村力)