ロレックスが常に入手困難で、驚くほど高価なブランドになった理由

※本記事は、2021年8月25日に掲載した記事の再掲です。

ロレックスの写真

Getty/Astrid Stawiarz

  • ロレックスは100年以上前、腕に着ける時計というカテゴリーを発明した企業だ。
  • 同社はその歴史の大部分を、どのような状況にも対応できる頑丈な時計を作ることに注力してきた。
  • ロレックスの精度や品質はかつてないほど向上しているが、愛好家がプレミアムを支払う理由はそこではない。

2021年夏、時計愛好家のアダム・ゴールデン(Adam Golden)がフロリダにあるロレックス(Rolex)販売店に立ち寄った際、ケースに入ったレディースのデイトジャスト(Datejust)が1本だけ販売されていた。

最初に注文した客の気が変わっていなければ、その腕時計はそこにはなかっただろうと彼は言う。

ロレックスは年間100万個近い時計を製造していると言われており、広告も至るところで見かけるが、実際に購入するために時計を探すのは無駄な努力に終わるだろう。

ロレックスのコレクターであり、『Rolex Wristwatches, An Unauthorized History(ロレックスの腕時計:認定されない歴史)』の共著者であるジェフリー・ヘス(Jeffrey Hess)によると、ロレックスの時計は昔から高価だったが、現在の希少性と価格設定は、販売店が豊富な在庫を持ち、交渉可能な価格で販売していた時代とは大きく異なっているという。

ロレックスは、この件に関するInsiderのコメント要請に応じていない。

「当時は、誰でもロレックスを買うことができた」とヘスはInsiderに語っている。

「デイトナ(Daytona)を3000ドル(現在のレートでは約33万円)で買い漁っていた。今では実売価格は5万ドル(約548万円)になっている」

1980年代はロレックスのブランドイメージの転換期で、プロや冒険家にとって不可欠な精密なツールから、現在のように高級なコレクターズアイテムとして高く評価されるように変貌したとヘスは述べている。

「この腕時計はファッションウォッチではなかった」と彼は話す。

「つまり無骨な時計だった。スイマー、海軍の潜水艦乗組員、探検家のための時計だったのだ」

実際、20世紀のほとんどの間、ロレックスは創業者ハンス・ウィルスドルフ(Hans Wilsdorf)の下で時計の技術革新の最先端を走っていた。時計を腕に着けるという斬新なアイデアに始まり、ドーバー海峡を横断したり、エベレストへの登頂したり、ドライバーが地上最速を記録したりと、実用性と信頼性を何よりも重視していた。

1960年にウィルスドルフが亡くなると、ロレックスのマーケティング・ディレクターだったアンドレ・ハイニガー( André Heiniger )が後継者になった。彼は数十年に渡り、ロレックスをラグジュアリーの代名詞として定着させるための努力を続けてきた。

「ロレックスは腕時計ビジネスではない。我々はラグジュアリー・ビジネスを営んでいるのだ」とハイニガーは語ったという。

ロレックスをつけている俳優の写真

ショーン・コネリー(Sean Connery)演じるジェームズ・ボンド(James Bond)は 『007 ドクター・ノオ(Dr. No)』でロレックスのサブマリーナを着けている。

Dr. No

ロレックスはハリウッド映画での使用、スポーツイベントへの協賛、慈善団体への寄付などによってブランドの知名度を高めていった。供給体制を厳しく管理することで、品質と希少性という魅力を維持している。

1970年代に入ると、信頼性と安定性のイメージを打ち出す努力によって、経済的に不安だった時期でもロレックスは安全な投資先としての役割を果たしていた。例えば、1971年にアメリカがドルの金本位制を放棄し、1972年にはイタリアがリラの管理を強化し、1973年はオイルショックで市場が混乱していた。

ヘスによると、ヴィンテージ・ロレックスを最初にビジネスにしたのはイタリア人だった。この時代に腕時計を買うことは、通貨に劣らない安定した投資だったからだ。業者はスイスで高級腕時計を購入し、国境を越えてイタリアで売った。イタリア人は、ロレックスやオーデマ・ピゲ(Audemars Piguet)、パテック・フィリップ(Patek Philippe)などを身に着けてアメリカなどに行き、持込可能な現金の何倍もの値段で売るのだ。こうしてコレクターズマーケットが誕生した。

1997年にハイニガーは引退したが、同社は彼が完成させた戦略を守り続けている。より精密で多機能で、手頃な価格の代替品がロレックス本来の目的に取って変わったとしてもだ。

むしろ、この数十年にこのカテゴリーの成長は加速した。非公開企業であるロレックスは財務状況を公表していないが、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)は2019年の売上高を、52億スイスフラン(約6236億円)と推定していた。

一方、マッキンゼー(McKinsey)と、ファッション・ビジネス・ブログ「ザ・ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion)」の最近の調査では、高級時計の流通市場の売上高は、2025年までに290億ドル(約3兆1800億円)に達すると予測されている。

世界最大の高級ブランド時計専門のオンラインマーケット、クロノ24(Chrono24)のティム・シュトラッケ(Tim Stracke)CEOはあるインタビューで「今、法定通貨への信頼は、以前に比べて大幅に低下している」と述べている。

「もし、ユーロやアメリカドルの安定性と、ロレックスのデイトナやビットコイン、金1キログラムを比較したらどうだろう? 私は有形資産をもっている方がいいと思う」とシュトラッケは言う。

この評判のおかげで、ロレックスは高級時計市場の4分の1を占め、2番手のオメガ(Omega)の2倍以上のシェアを獲得し、他社を圧倒している。さらに、ロレックスの優位性は自己強化されているとヘスは言う。

「ロレックスはすべての成功者が買う腕時計だ」と彼は言う。「彼らは皆、最初はロレックスに似たブランドの時計を買い、最終的に成功を収めたときにロレックスを買う」

つまり、ロレックスを持っていなければ、何も成し遂げていないということだ。ロレックスは、ラグジュアリーの象徴であるだけでなく、その入口でもあるのだ。

※編集部より:一部表現を改めました。 2022年8月23日 18:17

[原文:How Rolex became the top luxury watch brand in the world from its humble origins as a tool for professionals

(翻訳・大場真由子、編集・Toshihiko Inoue)

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