国内IPO不調でも…日本ベンチャーの米NASDAQ「上場」を支援する動き

2021-11-09T172707Z_650706571_RC22RQ9MY7BD_RTRMADP_3_HERTZ-IPO

REUTERS/Brendan McDermid

上場延期が相次ぐ日本のスタートアップ業界。

そんな中、アメリカの新興市場NASDAQに、国内上場していない国内スタートアップの「上場」を支援する動きがある。

仕掛け人のひとりは、千葉道場ファンドやドローンファンドなどを運営する投資家・千葉功太郎氏だ。

8月5日(現地時間)、この取り組みに進展があった。千葉氏らが関わる※法人PONO CAPITAL TWO(ポノ・キャピタル・ツー)社が、NASDAQに上場した

※千葉氏の同社での肩書きは社外取締役

PONO CAPITAL TWOには、現時点では実は一般的な事業内容は何もない。理由は千葉氏らが仕掛ける手法が、2020年〜2021年ごろに金融業界で注目が高まった「SPAC上場」※という手法だからだ。

※SPACとは:Special Purpose Acquisition Companyの略で、日本語では特別買収目的会社と呼ばれる。あらかじめ買収ビークルになる法人を上場させておき、一定期間のうちに有望な未上場事業会社を合併させることで、事業会社を実質的に「上場」させる。事業会社からみると、煩雑な上場プロセスを簡略化できるメリットがある。

spac

SPACによる事業会社の「上場」までのプロセスの概念図。

出典:金融庁・金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第15回)資料より抜粋

千葉氏は、SPACによる「NASDAQ上場」には、国内IPOが冷え込む中でもポテンシャルがあり、国内ベンチャーに新しい「出口戦略」を作りたいと語る。

しかし、5月に報じられた投資銀行大手ゴールドマン・サックスのSPAC撤退報道などの通り、SPACの流行は急激に冷え込んでいるのも事実だ。

それでも「市場の激変があったからこそ、好機がある」と千葉氏は主張する。なぜ好機となりうるのか、市場の変化と狙いを聞いた。

勝機は「ゲリラみたいに小さいSPAC」上場

千葉功太郎氏

イベントに登壇する千葉功太郎氏(2022年7月撮影)。

撮影:小林優多郎

千葉氏らは、先立つ2021年8月、今回とは別のSPAC、PONO Capital Corp社(TWOは付かない)をNASDAQに上場させている。

PONO Capital Corpはいま、医薬品創薬企業Benuviaとの合併交渉(SPAC上場=前出の概念図にあるDe-SPACというプロセス)を進めている。「なるべく早い合併に向けて、対象企業と実務協議を詰めているところ」(千葉氏)というのが現時点のステータスだ。

前出のゴールドマン・サックスが撤退するとも報道される厳しい環境の中で、合併相手をみつけ、交渉に入れた背景はなにか。

千葉氏は、いくつかの理由があるが、現在のSPAC上場特有の事情があると説明した。

前出のゴールドマン・サックスをはじめとする投資銀行などが組成する場合、SPACの規模は10億ドル(約1350億円)規模の「巨大SPAC」になるとみられる。この規模では、本来、20億ドル(約2700億円)以上の企業価値をもつユニコーン企業との合併を狙うのが一般的だ(SPAC上場における合併相手の選び方については後述)。

それが、株式市場が急激に冷え込んだことによって、規模に見合った合併相手が減る、という現象が起こっているという。

一方、千葉氏らが仕掛けていたのは、約1億1600万ドル(約156億円)という、巨大SPACに比べると桁が1つ少ない「ゲリラみたいなサイズ」(千葉氏)のSPACだ。

野村證券「米国におけるSPACの状況について」(2021年発行)より

SPACの小型化の流れ自体は2021年4月ごろから顕著になりはじめた。

出典:野村證券「米国におけるSPACの状況について」(2021年発行)より

千葉氏によると、一般に、SPAC上場の相手企業は、SPAC(箱)の2〜5倍の企業価値の会社を合併ターゲットに選ぶ。そのルールで計算すると、PONO Capital Corpの合併相手は約2億ドル〜6億ドル規模。日本円にして270億円〜810億円規模の企業が合併候補ということになる。

本来は評価額10億ドル以上の「ユニコーン企業」はターゲット外だった。しかし、米国のテック株急落に引きずられる形で、いま、未上場企業の評価額は下がる傾向にある。これによって、 「2021年ごろのユニコーン企業(評価額10億ドル以上)も、合併ターゲットになってきた」と千葉氏は言う。

国内→NASDAQ上場に向いているのは「ディープテック」

aircar

「空飛ぶクルマ」の例。こういったモノづくりの技術企業もディープテックの一角にある。左下は東大ベンチャーテトラ・アビエーションの車両。(写真はイメージ。今回の記事とは無関係です)

出典:テトラ・アビエーション、KleinVision

先週8月5日に上場したPONO CAPITAL TWOは、「目論見書にも書いてありますが日本を中心としたアジアの企業を合併買収します、とうたっています」(千葉氏)と、あくまで日本企業の「SPAC上場」がターゲットだ。

ただ、そもそも、日本の多くのスタートアップが海外市場に進出できないのは、グローバルマーケット向きの事業設計をしていないからだ —— とは過去何度も指摘されてきた。

千葉氏も「アメリカは市場環境が日本とは違う。だから、米国上場に向いてる会社・不向きな会社が明確にある」と認める。

その上で、先に上場したPONO Capital Corpでの合併交渉の経験から学んだのは、「アメリカの機関投資家に一言で説明できるビジネスであること」が重要だとする。

日本が得意とする分野でいうと、基礎研究などをベースに事業化する「ディープテック」領域は、技術基盤が確かであれば説明が容易だと千葉氏。

ちなみに、前出のPONO Capital Corpが合併予定の企業もディープテック分野だ(投資家向けには「FDA※承認の薬を持つ創薬ベンチャー」で説明できる)。

同様に世界で注目される日本の核融合研究の技術を持つようなエネルギー系スタートアップや、あるいは千葉氏が以前から注目するドローン関連の領域も、ディープテックの一角として分かりやすい、という。

※FDA:アメリカの食品医薬品局

「日本は、インターネット業界ではだいぶ遅れをとっていますが、モノづくりにかかわる大学研究などは、かなり深みがあり、相当レベルが高い。

一方、ディープテックは、7〜8年は水面下に潜って、事業計画時点で売り上げが立つのは10年後、みたいな世界です。今の(国内上場の)モノサシだと、時価評価が難しいジャンルです」(千葉氏)

一方、アメリカの市場では、すでに同業他社が上場しているケースもある。「投資家の評価のベースが、日本より広い」(千葉氏)のがNASDAQ上場のメリットで、市場から資金を調達することで事業を加速させられるという。

PONO CAPITAL TWOは、まさに今、合併相手の選定・交渉のスタートを切ったところだ。

一方、投資家の中にはSPACに対して慎重な見方もある。国内のある投資家は「SPACの合併成功で終わりではない。むしろ、合併後の株主たちの動きの方が重要だ」と、合併後に大量の株式売却が発生しないかなども合わせて注視しておく必要があるとも指摘している。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み