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アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、アメリカではメンタルヘルスに何らかの問題を抱えていると診断された若者は数百万人にのぼり、新型コロナが引き起こした現在のパンデミックによって苦しむ子どもの数はさらに増加している。これはシリコンバレーのスタートアップ企業にとって、彼らを助ける千載一遇のチャンスでもある。
パンデミックで需要急増
宇宙産業に多額の投資を行っているヴィナジ・ベンチャーズ(Vinaj Ventures)の一部門であるテロシティ(Telosity)が行った最新の調査によると、若者のメンタルヘルスに特化したヘルステック産業は、過去4年間で15倍に増加した。
同調査によれば、若者の健康やメンタルヘルスに関する産業は2027年までに260億ドル(約3兆4800億円、1ドル=134円換算)規模になる。これは、アメリカの若者6430万人の可処分所得が合計3600億ドル(約48兆円)にのぼるためだ。
テロシティの調査は18歳未満の若者を対象としているが、24歳までの層(最年長のZ世代)の間でもメンタルヘルスサービスへの需要は高まると指摘されている。
市場のボラティリティによって起業家の資金調達は難しくなっており、デジタルヘルスへの投資は冷え込んでいるが、若者のメンタルヘルスサービスの需要の高まりは、投資家や起業家にとってチャンスと言えるだろう。
この4年間、メンタルヘルステック産業の広がりに乗じて若者のメンタルヘルス関連の新規参入は爆発的に人気が高まっており、この分野におけるスタートアップ企業は2021年に51億ドル(約6800億円)もの資金を調達した。この数字は、糖尿病やプライマリケアをはじめとする成人向けヘルスケアに特化した企業の調達額を33億ドル(約4400億円)も上回る。
ユニコーン企業も登場
CDCの推定によると、5人に1人の子どもがADHD、自閉症スペクトラム症、破壊的行動障害、トゥレット症候群などの精神障害を患っている。最近行われた国立保護者組合(National Parents Union)の調査に参加した子どもを持つ親の半数近くが、パンデミックの結果、この2年間で子どもたちに新たなメンタルヘルス上の困難や、学校での問題に直面していると報告している。
長年のセラピスト不足によって、従来の治療を求めている家庭は数カ月も待たなければならない可能性がある。スタートアップ企業にとっては、この分野に参入し、新たにサービスを提供する機会が存在していることになる。
テロシティは調査の中で、若者のメンタルヘルスの分野での成功を狙う新規参入者は、大人向けで機能することが子どもにも同様に機能するわけでは必ずしもないことには注意が必要だ、と記している。若者を対象とすることの難しさは肝に銘じておくべきだろう。医療提供者たちは常に既存のケアを改善できるデジタルツールを求めているし、子どもの親もまた医療リソースを必要としているのだ。
テロシティの調査によれば、2020年と2021年に若者のメンタルヘルス分野で投資が集中したのは、臨床医へのアクセス、オンライン体験の改善、新規テクノロジー、実用的なスキルの向上、といったテーマに特化したスタートアップだった。
同市場ですでに成功を収めている企業も存在する。デジタルでの自閉症ケアを提供しているElemy(エレミー)、生徒のオンライン活動を見守ることで自傷リスクの回避を目指すGoGuarian(ゴーガーディアン)のバリュエーションはそれぞれ11億5000万ドル(約1540億円)、10億ドル(約1340億円)と、ユニコーン企業の仲間入りを果たしている。
ElemyとGoGuarianが2021年に調達した資金はそれぞれ3億1300万ドル(約420億円)、2億ドル(260億円)にものぼる。
そのほか、ビデオゲームをメンタルヘルス障害のためのアセスメントツールとして利用しているAkili(アキリ)は1億1000万ドル(約147億円)、自閉症セラピーのスタートアップ企業であるCortica(コルティカ)は6000万ドル(約80億円)を調達している。
(編集・常盤亜由子)