「フルリモート・住む場所自由」でも、住みたい1位は関東。完全在宅で働く社員の本音

リモートワークの様子

フルリモートで勤務するoVice社員の森園凌成さん。居住地自由の企業で、社員はどこに住んでいるのか取材した。

提供:oVice

「子育てを考えると電車移動が楽な関東に住みたいなと思っています」

「都内で知人と会ったり、サウナに行ったりよくするので、今は東京に出やすい場所に住みたいと思っています」

フルリモート勤務を前提として、社員の居住地を問わない企業が注目されている。

ヤフーやLINE、メルカリなどの大手IT企業だけでなく、NTTグループが主要企業で働く約3万人の社員を対象に、国内であれば居住地を自由に選べる制度を導入し話題になった。

フルリモートになったら、沖縄や北海道など、自然豊かで生活費も安い地方都市などに移住する社員が増えるはず —— と思いきや、すでにフルリモートを導入しているベンチャー企業を取材してみると、意外な現実が見えてきた。

移住したいエリア1番人気は「関東」

移住したいエリアのランキンググラフ

出典:キャスターのプレスリリース

約1500人以上のメンバー(うち雇用社員約750人、2022年7月時点)のほぼ全員がフルリモート勤務をしているキャスター。バックオフィスの代行サービスなどを手がけ、2014年の創業時からフルリモートを導入している。

メンバーは47都道府県、23カ国以上で働いており「リモートワーク先進企業」として知られている。さぞかし全国各地に社員が散らばっているのだろうと思いきや、実はキャスター社員の約4割は関東に住んでいる。さらに興味深いのは、キャスターが2022年7月、メンバーを対象に実施したリモートワークについてのアンケート結果だ(アンケートは3月~4月にウェブ上で実施し、442人が回答)。

アンケートでは「移住予算が十分にあると仮定して、どこでも好きな場所に移住・引っ越しができるとしたら、どこを選びますか」を質問した(複数回答可)。

その結果、最も多かったのは、やっぱり「関東エリア」の27.6%だった。

関東を選んだ理由は、「生活が便利」「アクセスが良い」「お店が充実している」などだった。2位は「移住はしない」の23.3%。3位は「沖縄エリア」(19.9%)、4位は「九州エリア」(17.4%)、5位は「近畿エリア」(12.7%)、6位は「離島など」(10.6%)と続いた。

この結果についてキャスター広報の坪井安奈さんはこう話す。

キャスターの場合、地方移住を希望している人が、特段多くはないという結果になりました。

会社としては特定の場所への居住を推奨することはありません。全国から優秀な人材を採用するためにも、国内外問わず好きな場所に住みながら働ける会社であることが大事だと考えています」

リモートワークする女性

キャスターで働くアイさん(仮名)は、転職を機に千葉県に引っ越した。フルリモートのメリットは「満員電車で通勤しなくてもいいこと」だと言う(写真はイメージです)。

shutterstock

例えばキャスターで2019年から働く30歳代・女性のアイさん(仮名)は、約2年前、山梨県から千葉県北部に引っ越した。

「いま2歳の娘が成長して、数年後には習い事に行くことを考えると、電車やバスで通える場所に住みたいと千葉を選びました」

テレワーク先進企業社員、「将来的には移住したい」でも今は関東

リモートワークの様子

冒頭の写真でも登場したoViceで働く森園さんの自宅。都内から郊外へ引っ越し、家が広くなったためリモートワーク環境を充実させた。

提供:oVice

別のテレワーク先進スタートアップの例ではどうだろうか。

ウェブ上でアバターを使ったバーチャルオフィス事業を展開するoVice(オヴィス)は2020年8月にサービスを開始。コロナ禍でのリモートワーク需要を受けてサービスを拡大し、2022年8月時点で2000社以上が利用している。

oVice社員の「出社」は、バーチャルオフィスにログインすること。そもそも本社は石川県にあり、CEOのジョン・セーヒョン氏も石川県に住んでいる。

社員は北海道から九州まで日本各地に居住しており、さらにチュニジアなど海外に住むエンジニアもいる。

oViceでコンテンツマーケティングや採用広報を担当する森園凌成さん(27)は、「将来は地方や海外に住みながら仕事をしたい。コロナが落ち着けば、移住する社員はぐっと増えると思っています」と、将来的には関東以外への移住を考えていると言う。

しかし、今住んでいるのは関東エリア。その理由は、利便性だけではないという。

「お試し移住」を阻むコロナ

森園さんは2021年にoViceに転職したが、転職の決め手は「フルリモート・国内外を問わず居住地自由」という勤務条件だった。

森園さんは転職を機に、これまで住んでいた東京都杉並区からの引っ越しを決意。引っ越し先として選んだのは、意外にも千葉県柏市だった。

「妻もフルリモートで働いているので、住む場所は比較的自由です。ただ僕自身、大学時代からずっと都内に住んでいるので、知人にも会いやすい環境を選びました。フルリモートの会社なので、人と会えないのがさみしいという思いもあります」

だが、「同じ場所に住み続けることはない。住む場所をパッと選べるような生活が理想」と、森園さんいう。

「将来的には、海外と地方と首都圏と3拠点生活ができればいいなと思っています。そのためにもまずは1年海外での暮らし方を実践してみたい。

将来もし子育てするなら、水がきれないところに住みたいですし、自然が豊かな土地や、食べ物がおいしい地方にも住んでみたいですね」

そんな森園さんの「多拠点生活計画」の障壁になっているのが、新型コロナウイルスだ。

移住する前には、実際に現地で暮らしてみる「お試し移住」をしてみる人は多いが、コロナで心理的なハードルが高まっているという。

ワーケーションしてみたい土地としては、沖縄などが人気なのに、実際に移住が少ないのは単に『お試し移住』の経験がないからだと思います。その土地になじむかどうかは、ぱっと判断できるわけではないので。

ただこれからウィズ・コロナ、アフター・コロナという時代になって、人の移動が活発になればどんどん移住は進むのではと思っています」(森園さん)

ワーケーションから移住へ?

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oViceが展開するバーチャルオフィスのイメージ図。それぞれがアイコンを操作し、近くに寄ると会話ができる。

出典:oViceプレスリース

日本に約100人いるoViceの社員も、約6割が関東在住だ。

oVice広報の薬袋友花里さんは「現状では都内から家賃が安い関東郊外に引っ越す社員が多い印象」だという。

一方で、oViceの社員の中には働きながら休暇を取る「ワーケーション」を取り入れている人も多い。実際に神戸市在住の広報・薬袋さんは、月の半分は全国のホテルやキッチン付きの宿泊施設に数週間滞在しながら働く生活を続けている。

「国内外でワーケーションをしている社員も多く、今後は気に入った土地に移住する動きが増える可能性もあります。会社としては自由な働き方を後押しできるよう、制度面も整えていく予定です」(薬袋さん)

NTTなど大手企業が導入したことで注目される、居住地を問わないフルリモート勤務だが、ベンチャーの先進企業をみていると、現状では地方への移住はまだ少数派なのかもしれない。

ただ今後「居住地自由」の企業が当たり前になってくれば、働く場所に対する考え方が急激に変わる可能性もありそうだ。

(文・横山耕太郎

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