F1レッドブル・レーシング(Red Bull Racing)との大型スポンサー契約などで大きな話題になった米オラクル(Oracle)のマーケティング部門トップが突然退社した。
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米ソフトウェア大手オラクル(Oracle)がレイオフ(一時解雇)に着手した。
現役もしくは退社した従業員に取材したところ、一部のチームはまるごと解体、それ以外のチームも大規模な組織改編と対象となり、社内に動揺が広がっている。
なかには、現在の状態を「混沌」「無秩序」「士気阻喪」などと表現する従業員もいるくらいだ。
内情に詳しい関係者によれば、最も大きなダメージを受けているのは、同社のマーケティング部門のうち、とりわけ広告、マーケティング、カスタマーエクスペリエンス製品(アプリケーション・スイート)のマーケティング機能を担う部門という。
複数の関係者によれば、今回のレイオフは、最高マーケティング責任者(CMO)のアリエル・ケルマンが6月に退社した後の動きという。
マーケティング部門に所属する多くの従業員にとって、ケルマンの退社は寝耳に水のできごとで、正式発表含めて社内向けの情報共有は一切なかった模様だ。
つい数カ月前までマーケティング部門に所属していたある従業員はこう語る。
「すべては順風満帆の状況だったので、アリエル(・ケルマン)の退社はいかにも突然でした。すべては闇の中、従業員には何一つ説明なしです」
同じくマーケティング部門に所属していた別の従業員は、ケルマンの周辺には「何もかも極秘事項」といった空気が流れており、当人が会社を辞めた話すら社内のスラック(Slack)チャンネルで話題にできず、チームスタッフたちはズーム(Zoom)会議でひそひそとやり取りしているのだという。
ケルマンがオラクルにジョインしたのは2020年1月。クラウド事業で競合するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)からグローバルマーケティングを担当する現役のバイスプレジデントを引き抜いたことは、当時業界内で一種の衝撃をもって受けとめられた。
ケルマン自身はInsiderの取材(2020年8月)に対し、オラクルへの移籍について「(クラウドビジネスのための)マーケティング部門をゼロから構築するとともに、過去30年間において最も重要な地位を占めるテクノロジー企業の一角が推進するクラウド変革プロジェクトに参画するという、きわめて稀(まれ)な機会」と表現している。
ただ、現実はそれほど理想的な展開にはならなかった模様だ。
内情に詳しい3人の関係者によると、ケルマンが退社したのは、クラウドマーケティングに投じる予算をめぐってサフラ・カッツ最高経営責任者(CEO)と意見対立した直後のことだったという。
オラクルとケルマンの双方にコメントを求めたが返答はなかった。
マーケティング部門の内情に詳しい関係者は問題のありかについて次のように指摘する。
「カッツCEOら経営トップはケルマンのマーケティングは費用が過大で、手を広げすぎだと考えていたようです」
ケルマンはオラクル移籍以降、スポーツ競技のスポンサー契約拡大など派手なマーケティング戦略を積極的に推進してきた。
2022年2月には、F1のレッドブル・レーシング(Red Bull Racing)がオラクルをタイトルパートナー(いわゆる「冠スポンサー」)に迎え、チーム名称も「オラクル・レッドブル・レーシング」に変更することを発表した。
レッドブル・レーシングは2021年シーズンにF1ドライバーズチャンピオンを獲得したトップチームの一つで、そのネーミングライツは決して安くはないだろう。
詳細な条件は明らかにされていないものの、AP通信(2月10日付)によれば、技術提供含めて5年間にわたるタイトルスポンサー契約は年1億ドル(5年計5億ドル、約675億円)規模になるという。
オラクルはすでに他にも、米プロバスケットボールリーグ(NBA)チームのゴールデンステート・ウォリアーズ、英サッカープレミアリーグなどともスポンサー契約を結んでいる。
ただし、内情に詳しい従業員によれば、ケルマンの在任中は、業界カンファレンス出展のような実績的に確実性の高い営業戦略を中心とするマーケティングチームでさえ、予算を実質ゼロまで切り捨てられたという。
カンファレンスに出展して来場者(見込み客)にプロダクトデモを披露する場合、営業チームなど他の予算を使うよう指示されたと、上記の関係者は証言する。
最近のレイオフで解雇対象となったある従業員は、ケルマンのもとでマーケティング面でのサポートが手薄になったことで、オラクルのクラウド製品の一部は競争力が低下したと指摘する。
「セールスフォース(Salesforce)やアドビ(Adobe)が積極的なマーケティングを仕掛けるなか、オラクルはユーチューブ(YouTube)やグーグル(Google)検索、テレビなどに適切な広告投下ができていませんでした」
なお、関係者の証言によれば、今回のレイオフではケルマンが古巣のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)から引っ張ってきたシニアレベルのマーケティングスタッフも解雇の対象になっているという。
(翻訳・編集:川村力)