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人口2000人、高齢化率5割……鹿児島県で実践する「離島エコノミー」のつくり方

「Beyond Sustainability 2022」のローカル部門を受賞した、アイランドカンパニー 代表取締役の山下賢太さん(左)が取り組む「離島エコノミー」とは?

収録画面をキャプチャ

持続可能な社会の実現に取り組む企業を表彰する、Business Insider Japan主催のアワード「Beyond Sustainability 2022」。

7月29日のday5は、 「人口2000人、高齢化率5割…『離島エコノミー』のつくり方」と題し、ローカル部門の受賞企業、東シナ海の小さな島ブランド(通称:アイランドカンパニー)代表取締役の山下賢太さんを迎えたセッションを開催した。

アイランドカンパニーは、鹿児島県の離島、甑島(こしきしま)を拠点に、商店、農業生産加工、宿泊運営、通販事業、デザインワーク、コンサルティング……など延べ17の事業を展開。

地域の中で失われた関係性の再構築や人々の居場所づくり、医療関係者との連携、さらには近隣の離島と連携して課題解決を目指す「鹿児島離島文化経済圏」の立ち上げなど、次世代へつなぐ島の経営に取り組んでいる。

彼はどのようなプロセスで「離島エコノミー」を築いているのか。Business Insider Japan記者の西山里緒が聞いた。

14年間、毎朝Twitterで「甑島」と検索

提供:アイランドカンパニー

── まずは山下さんの自己紹介からお願いします。

山下賢太さん(以下、山下):私は鹿児島県の甑島(こしきしま)で生まれ育ちました。大学進学と同時に京都に引っ越し、京都芸術大学で環境デザインを学んだ後、和柄の雑貨を扱う製造卸の会社に入社し、そこで地域づくりに関わる仕事を1年ほど経験しました。

甑島にUターンしてアイランドカンパニーを起業したのは、今から14年前です。現在は鹿児島県内の離島を行き来しながら17の事業を展開しています。

── 甑島へのUターンを決めた理由は何だったのでしょうか?

提供:アイランドカンパニー

山下:京都で暮らしていた頃から、いつかは島に戻るつもりでした。その理由は高校時代にさかのぼります。

甑島には、江戸時代に作られた歴史ある港がありました。港の中央には大木があり、その木の下で人々がくつろぐ光景は、私にとっては幼少期から親しんできた「島の原風景」と言えるものでした。

ところが、その港がある日工事によって更地にされてしまったのです。故郷の風景を突然失ってしまったことに、大きなショックを受けました。

それまで自分にとって、風景とは“ただ見るだけのもの、誰かが作ったもの”に過ぎませんでした。でもこの出来事を経験してからは「自分で島の風景を作り出したい」と思うようになり、環境デザインを学ぶために京都に出ました。

──そのような原体験があったのですね。起業して最初に始めたのはどんなことだったのでしょうか。

提供:アイランドカンパニー

山下: 耕作放棄地の再生です。島にUターンしたときに最初に目についたのは、荒れ果てた棚田や段々畑、増え続ける空き家でした。何とか昔の風景を取り戻したい一心で畑を耕し、土地の再生を始めました。

その後、米などの農産物や加工品の生産をスタート。最初は島内の無人販売所で売っていましたが、その後島外にも出て、鹿児島市内のマルシェなどで「山下商店」として商品を売り始めました。

── マルシェや無人販売所から始めたとのことですが、現在は甑島に山下商店のリアル店舗がありますね。何がきっかけで店を構えたのですか?

山下: 実はUターンした14年前から、甑島がどれだけ話題になっているかを調べるために、Twitterで毎朝「甑島」というキーワードで検索をしてきました。もちろん14年前は、甑島について呟いている人は一人もいませんでした。

ところが島外で商品を売り始めた頃、「今度の夏に甑島に遊びに行ったら、山下商店に行きたい」というツイートを発見したのです。

そのときに「甑島そのものは知られていなくても、山下商店を知っている人が増えれば甑島に遊びにきてくれる人が増えるかもしれない」と思い、甑島に来てくれる人の目的となる場所を作るために、山下商店を立ち上げました。

「島の一次産業を守る」

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──アイランドカンパニーは山下商店の他に、カフェやホテル、レンタサイクルなどさまざまな事業を展開しています。なぜ多角化を進めてきたのでしょうか。

山下: 島の一次産業を守るためには、島で農家や漁業を続けられる環境が必要だと感じたからです。

実際に自分が農業をやってみて、ただでさえ生産が大変なのに、商品を売る場所を探したり売り方を考えたりするのは大変なことなのだと実感しました。また農協や漁協などの支援団体はありましたが、当時は十分な支援があるわけではありませんでした。

そこで、島内で生産された野菜や魚を売る場所を作るために、お店や宿、レストランを作りました。安定した売り先が確保できれば、それだけ農業や漁業の持続可能性は高まりますよね。

レンタサイクルを始めたのは、ホテルの事業が軌道に乗ってくると同時に、島内の二次交通における課題が見えてきたからです。

── 多角化事業も「一次産業の売り先を作る」という目的のためだったのですね。ところで、アイランドカンパニーが手がける建物の外観や商品のデザインは、どれもSNSにアップしたくなるような、今っぽいデザインですよね。デザインに関しては何を大切にしていますか?

提供:アイランドカンパニー

山下: 若い人にウケようと思って作ってわけではありませんが、「甑島をお客様に一方的に押し付ける」のではなく、「お客様から甑島を必要としてもらえる」デザインは心掛けています。

よく地方のお土産コーナーに行くと、「〇〇産!」というように地域の名前を全面に押し出したパッケージの商品がありますよね。でもそれと同じやり方を私たちがしたところで、まだ甑島が十分に知られていない以上、誰にも届かないでしょう。

だからこそ私たちは(まず魅力的な商品ありきで)「こういう商品があるなら、甑島はきっとこういう場所なんだろう」と、この島の魅力をお客様に逆に想像してもらいたいのです。

── デザイナーを含め、メンバーは島外からも募集しているのですか?

山下:はい。現在18人のメンバーのうち半分は島外出身者です。ここ6、7年はSNS経由で連絡をくれる人がほとんどですね。僕自身のアカウントのDMにメッセージが来ることもあります。現在は39歳以下の若いメンバーが8割を占めています。

コロナ禍を機に、「超地域密着型ビジネス」へ

提供:アイランドカンパニー

──コロナ禍によって観光業は大きな打撃を受けました。アイランドカンパニーにはどのような影響がありましたか。

山下:初めて緊急事態宣言が出た際は、観光事業の売り上げは昨対比96%減という非常に厳しい状況でした。

それまでは島で生産したものを島の外でどんどん売るようなスタイルだったのですが、コロナ禍を機に、一部の事業を「超地域密着型」のビジネスに切り替えました。

例えば、山下商店で作る豆腐は以前は島の外にも通販などで販売していたのですが、今は一丁も島の外には出していません。

また、自由に買い物ができない高齢者を支援するために、週3日ほど集落を回って豆腐やパンなどの食材を販売するビジネスも始めました。

── 超地域密着型に切り替えたのは、ビジネスの利益を確保するためですか?

山下:というよりも、島の中でそういった仕組みを作る必要があると思ったからですね。

今甑島は高齢化率が50%を超えています。地域住民は集団で車に乗り合ったり、土日にフェリーに乗ったりして買い物に行っていますが、本当はダイレクトに商品を届けられる仕組みがあった方がいいはずです。

この機会に自分たちがその仕組みを作り、甑島の次世代のインフラになりたいという想いから始めました。

── 地域で支えあって生きていくためのインフラは、過疎化が進む中で広く求められるものだと思います。離島でサステナブルなビジネスを成功させるためには何が大切でしょうか。

山下:自分も日々悩みながらやっています。「島に行ってこんなことをしてやる」という上から目線ではなく、「島の中で自分は何ができるだろう」と考えることによって自分の居場所が見つかり、その結果、地域にとっても自分にとってもサステナブルなビジネスが生まれるのではないでしょうか。

「自分たちだけ」で解決する時代ではない

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提供:アイランドカンパニー

── 今後はどのように事業を展開していく予定ですか?

山下:鹿児島県には27の有人離島があり、そこに約16万人が暮らしています。ところが島民は、お互いの島のことをあまりよく知りません。

背景にあるのは、島の多様さです。県内には60人しか住んでいない島もあれば、6万人が暮らす島もある。飛行機や船でアクセスしやすい島もあれば、しにくい島もある。世界遺産がある島、観光資源がない島……。置かれている状況や環境は島それぞれで、これまでは島同士の連携が十分にできていませんでした。

しかしこれからは、「自分たちの問題は自分たちの島だけで解決する」時代ではありません。自治体や島を超えてノウハウを共有し合ったり、新しいチャレンジする人の背中を押したりするためには、島同士のネットワークを構築する必要があると考えています。

── 離島でチャレンジする人を支援するための枠組みが、これからは重要なのですね。

山下:そうですね。これまで事業を展開する中で、島の未来への想いはあるけれども、どこから手をつけてよいか分からない、もしくは壁にぶつかってしまっている人たちとたくさん出会ってきました。

まずは自分自身がその壁を越えていきたいですし、壁を越えようとする仲間も応援していきたい。そのために、将来は離島の問題解決を支援するためのファンドを作りたいと考えています。お金だけではなく人や知恵、技術も巡っていくようなファンドにできたら嬉しいですね。

「自分の居場所はここだ」と思える人を島に一人でも増やしながら、その人の夢をみんなで応援していく。それが、鹿児島(離島)文化経済圏の役割と使命だと考えています。

(聞き手・西山里緒、構成・一本麻衣

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