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京都大学の高等教育研究開発推進センターがこの9月をもって廃止されることが、8月4日、京都大学高等教育研究開発推進センターによって明らかにされた。この発表は、京都大学関係者をはじめとした教育関係者の間で大きな衝撃をもって広がっている。
というのも、高等教育研究開発推進センターは学内で「教育」という側面で多岐にわたる業務を担っていた組織だったからだ。例えば、
- 学内のFD(Faculty Development )といった教員への教育
- 2005年から京都大学の講義や公開講座、シンポジウムなどの動画を管理・無償公開してきた京都大学オープンコースウェア(OCW)の運営
- 京都大学の大規模公開オンライン講座「MOOC」の運営など
これらすべてを、同センターが運営していた。
組織の統廃合や改変にともなう業務の移管はよくあることだ。ただ、高等教育研究開発推進センターが8月4日付で発表した資料によると、業務内容の大半が「終了」という取り扱いになっている。
既存業務の今後の取り扱いについて「終了」の文字が並ぶ。
撮影:横山耕太郎
この規模の組織の業務をほとんど終了することで、大学としての運営や学生の生活に影響はないのか。
Business Insider Japanは、廃止の理由と合わせて京都大学の広報課に問い合わせたところ、次のような回答があった。
「高等教育研究開発推進センターの廃止は、大学全体の全学機能組織の見直しの中で決まったものです。オンライン教育・ICT教育については、本学の学習支援システム(PandA)やZoom等のオンライン会議システムを活用して対応しています。個別具体の検討状況はお答えしかねますが、時代のニーズに対応した教育内容・体制の改善を進めていきます」(京都大学広報課)
京大OCW「残念でなりません」
京都大学高等教育研究開発推進センター。
撮影:三ツ村崇志
高等教育研究開発推進センターのホームページによると、今回の同センターの廃止は、2022年1月25日役員会で決定されたものだ。
議事録を見ると、「第4期中期目標・中期計画期間における全学機能組織のミッション及び方向性について」というテーマが議論されており、その中で、「第4期中期目標・中期計画期間における高等教育研究開発推進センターの在り方に係る方向性について、企画委員会における審議結果の説明があり、審議の結果、原案通り決議した」との記載があった。
今回のセンター廃止に伴い、京都大学OCWは、組織が廃止される10月以降に、すぐに動画にアクセスできなくなることはないが、「運用組織がなくなることで安定的な運用が困難となりました」とHP上でコメントを寄せていた。なお、その後8月10日「OCWについては、現在公開されているデータに限りしばらくの間、運用する方策を学内の関係者と協議しています」と変更があった。
同組織は、YouTubeのチャンネル登録数が約9万5000人、コンテンツ数も数百を超える、専門的な内容を学ぼうとする人にとって「優良アカウント」にほかならない。最終講義の講演動画なども残されており、まさに京都大学が積み上げてきた「知の財産」そのものでもある。
細かい対応については、各プラットフォームによって異なるが、高等教育研究開発推進センターは、運営してきたプラットフォームの今後について「本学がこれまで蓄積してきた貴重な教育資源が失われることは大変遺憾でありますが、どうかご理解のほど何卒よろしくお願い申し上げます」と、これまでの蓄積が「失われる」と表現している。
また、京都大学OCWは、公式見解として以下のコメントを述べている。
「10月以降の状況については当センターではお答えしかねます。OCWは今世紀に入りオープンエデュケーション/教育のオープン化と呼ばれるムーブメントの中で広がってきた取り組みで、2019年にはユネスコでOER勧告(ICTを利用した教育のオープン化に関わる教材のグローバルな普及促進に関する勧告)が全加盟国の一致でなされています。
今後、国内でも教育のオープン化に関わる取り組みが広がってくると思われます。2005年の立ち上げ以降、その一端を担ってきた本学のOCWがこのような形で失われることは残念でなりません」
リカレント教育や、大学の知の共有化が社会的に求められている背景での今回の決定。
京都大学には、それなりの説明が求められるのではないだろうか。
(文・三ツ村崇志)
【UP DATA】京大OCWが公開しているデータの取り扱いについて、情報を更新しました。2022年8月11日 12:00
議事録の引用箇所が不適切だったため、修正しました。2022年8月11日 11:55