ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
ソフトバンクグループが、半年で5兆円以上の損失を出した。
「創業以来最大の赤字」となったことに対し、2023年3月期の最初の四半期決算のなかで、孫正義会長は反省の弁を述べた。世界的な株安と急激な円安が背景にあったとはいえ、「7兆円あったビジョンファンド(VF)の利益がほぼゼロになった」(孫氏)という惨状だ。
「実態がどういう状況か、反省を込めて赤裸々に語りたい」
孫氏が切り出したソフトバンクグループの2023年3月期第1四半期は、最終損失で3兆1627億円となり、過去最大の赤字となった。
前四半期が2兆1006億円の損失だったので、2四半期で約5.3兆円という純損失を出したことになる。2020〜2021年第1四半期にかけて、合計5兆円以上の最終黒字を計上していたことから、コロナ後の利益をほぼはき出した形だ。
孫氏が今回冒頭で示したのは、「徳川家康三方ヶ原戦役画像」。武田信玄の軍勢に破れた命からがら逃げた家康が、敗戦を反省して惨めな姿を覚えておきたいと描かせた、と説明。「正直に申し上げて今の心境」だと語った。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
ソフトバンクグループは創業以来最大の赤字を計上した。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
ソフトバンクグループは、投資会社として、主にVF1、VF2という2つのファンドで投資しているが、すでにVF1は新規投資が終了。売却によって利益を確定させた投資先も多い。一方、未上場の新興企業が多いVF2では、この株安で赤字が拡大した。
利益確定も多いVF1に対して、VF2は大幅な損失を計上。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
「有頂天になっていた自分が恥ずかしく、反省している」と孫氏。2022年3月末からの株安では、6月30日までに米NASDAQ総合指数が22%の下落だったのに対し、VFの上場株は31%という大幅な下落だった。
上場企業だけでもVFの株価はNASDAQ総合指数を下回った。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
VF2の投資先には未上場が多いが、株安で評価額が目減りしていることは確実視される状況だ。そのため、ソフトバンクグループ内部で「類似している上場企業の株価下落に合わせて評価損を算出」することで、現在の評価を推定した。
その結果、上場企業で株価下落した企業が35社で1兆7253億円マイナス。未上場は175社が価値下落で、減少額は1兆436億円に上った。価値が上がったのは35社の2309億円にとどまり、合計で約2.9兆円の下落となった。
ビジョンファンドが積み上げた評価益が吹き飛んだ
この四半期で大幅な価値の下落となった。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
21年度第1四半期には評価益を7兆945億円まで積み上げていたものが、この1年で1122億円まで急落したわけで、孫氏は「累計ではまだ赤字ではないが、7兆円あった利益がほぼゼロになった」と苦渋の表情。
一時期は7.1兆円あった含み益がほぼ全て吹き飛んだ。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
これに加えて、ソフトバンクグループは日本で上場しているが、借入の半分を円建て、残り半分をドル建てにしているという。返済額が円ベースとなることから円安が直撃。これによってさらに返済額が8200億円増加した。VFの評価損2.3兆円と併せて、3.2兆円と赤字幅が拡大した。
円安による為替差損も響いた。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
孫氏はかねて「ソフトバンクグループの最重要指標はNAV(時価純資産)とLTV(純負債/保有株式)」としている。
ドル建てのNAVだと第1四半期には1350億ドルで前四半期比160億ドル減だったが、これが円建てになると為替影響で2.2兆円のプラスの18.5兆円となり、前四半期と変わらず横ばいを維持した。
「円安は、会計上は赤字の要因となったが、円建てのNAVで見ると為替はいい方向に影響した」(同)という。
とはいえ、「今日(8月8日)現在は、さらに17.5兆円と1兆円悪くなっていて、直近はもう一段よくない状況」(同)。為替影響ではカバーしきれないレベルまで悪化しているとも言う。
このNAVも、「ピークから見ると10兆円ぐらい減っている」(同)。Alibaba株が3分の1になったことが原因で、「NAVが増えたのも減ったのもAlibabaが一番大きな要因」(同)だったという。
Alibabaの株価の変動が要因で、「伸びたのもアリババ、下がったのもアリババが大きく影響。これがなければそれなりの推移」(孫氏)。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
「反省すべき点を数えればキリがない」
「反省すべき点は数えればキリがない」とも言う。
VF1ではUber、DiDi、WeWorkといった大型案件に投資してきたが、「1件で1兆円を超えるような大振りで、三振もたくさんあった」と野球に例えて説明する。「特に自分の思い入れで大振りした」のが反省点とした。
これまでビジョンファンド(VF)が投資した473社。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
その反省を生かし、VF2では「ホームランを狙うのではなく、着実に当てていこう」(同)という考えで、専門分野の担当やテーマ別に組織を作って「自信を持ってVF2を行った」(同)。
その結果、5兆円の利益を稼ぎ出したことで「いけると信じてやや有頂天になり、たくさん打席に立って振りまくった。その結果、大きな評価損を出してしまった」(同)
1つ1つは相対的に小さな投資でも、やみくもに投資先を集めたことがダメージに繋がった形で、「もう少し、しっかりと厳選してちゃんとした投資をすればこれほどの痛手は負わなかった」(同)。
VFがこれまで投資したのは473社。
孫氏は「ここから将来のAlibaba、Armに相当する会社が出てくることを信じている」と期待するが、VF2の「積極果敢な投資」(同)は、結果として大きな赤字となってしまい、「新たな投資は徹底的に厳選して減らしている」(同)というのが現状だ。
投資先を大幅に厳選した、とする。
出典:ソフトバンクグループ2023年3月期決算説明会より
孫氏は、「株式市場が大きく痛んでいる時なので、今こそ買いではないかという声はあり、内心、一部そういう気持ちに駆られるところもある」と正直な気持ちを吐露しつつ、「全滅だけは絶対に避けなければならない」として、新たな投資先を抑えた。
現状でも未上場株が多いVF2だが、「未上場株の冬の時代はもっと長く続くと認識している」とし、当面はグループ全体で「聖域のないコストダウン」(同)を進めるなどして乗り切る。
「今となって振り返れば、自分たちの中で評価に対してバブル状態があったのではと反省」
「全て私の指揮官としての責任。組織全体を指揮したのは私だし、すべての案件に、投資委員会の中心的立場で意思決定に参加しているので、私が全て反省すべき点。他の誰の責任でもない」
と孫氏は自身の責任を強調する一方で、「経営に対する意欲はますます高まっている」とも述べ、当面は変わらず陣頭指揮を執っていく意欲を示した。
(文・小山安博)