ウクライナ・ヴォールツェルにある花壇に設置された、スペースXの「スターリンク」のアンテナ。2022年5月5日。
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- スペースXのスターリンクは、ロシアから侵攻を受けているウクライナにインターネットサービスを提供していることで評価されている。
- アメリカ空軍は、ヨーロッパとアフリカでの衛星インターネットサービスについて、スターリンクと契約を進めている。
- スターリンクのウクライナでの成功は、中国など世界中の軍の注目を集めている。
スペースX(SpaceX)の衛星インターネットサービス、スターリンク(Starlink)はロシアの侵攻が続く中でウクライナの人々にオンラインサービスを提供し続けて称賛されており、アメリカ空軍もヨーロッパとアフリカでの同サービスと協力する計画を進めている。
2022年8月の発表によると、在欧アメリカ空軍・アフリカアメリカ空軍は、ドイツのラムシュタイン空軍基地に拠点を置く第86空輸航空団を支援するため、スペースXのスターリンクのサービスを契約する。
12カ月で192万ドル(約2億5600万円)の契約は7月下旬に結ばれ、2023年7月から8月の間に運用が開始される予定だ。これはより広範囲の同意ができるまでの「暫定的なソリューション」だという。8月4日の発表を受けて、Politicoがこの契約について最初に報じた。
アメリカ空軍はこの契約の意図に関して「第一世代または高性能の衛星端末および固定あるいはモバイル/ポータブルのデバイスによってユーザーがインターネットに接続できるサービスの提供を受けること」だと書面で述べている。
書面には、スターリンクはヨーロッパとアフリカで地球の低軌道(LEO)衛星通信を提供できる唯一の民間企業であり、競合他社は「まだ初期段階にある」のに対して同社は「1350基以上による最も確立されたLEO衛星ネットワーク」を所持していると記載されている。
スペースXのスターリンクのネットワーク。
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また、ウクライナについても触れていて、スターリンクが現在、紛争の下で機能している唯一のネットワークでもあると述べている。
アメリカ空軍研究所は、戦争が行われている環境において低軌道衛星は「信号妨害に強く、戦術的な任務をサポートするために必要な低遅延を提供することがわかった」という。また、アメリカ空軍は現在「迅速機敏な戦力展開(ACE:Agile Combat Employment)」などの戦争下における戦略的な任務を支援するために必要となる複数の取り組みを推進しているという。
また書面には「ウクライナでの活動支援のため、東ヨーロッパ周辺での通信の要件は日々拡大している」とも記されている。
「スターリンクのLEOは、状況が変化する中で処理時間を削減し、戦域ベースのオペレーションを増やすという要件を満たしている」
そして「広範囲におよぶ調査を経て、スペースX(スターリンク)は、現在の運用領域で特殊な通信サービスを提供可能な唯一の企業であるとわかった」と付け加えられている。
ウクライナのインターネットと通信ネットワークは、ロシアが侵攻を開始した2月24日の数時間前に攻撃を受け、この戦争の期間中、ずっと標的になっている。ロシアが攻撃を開始した直後、スペースXのイーロン・マスク(Elon Musk)CEOは、ウクライナ当局からの要請を受けてウクライナでスターリンクのサービスを開始したと述べた。
それ以来、ウクライナの国民や軍の通信はスターリンクに頼っており、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は「非常に効果的」と称賛している。
ウクライナのホーストメリの破壊された建物につけられたアンテナ。2022年4月22日。
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米軍当局は、マスクが述べたロシアによる「妨害やハッキング」の増加に対してもスターリンクは強い回復力を見せていることを称賛している。
アメリカ国防省の国防イノベーション部隊で宇宙ポートフォリオのディレクターを務めるスティーブ・ビュートー(Steve Butow)准将は、衛星ネットワークが戦略的な影響を与えたとし、ロシアの情報戦を「完全に破壊した」と述べた(スペースXはアメリカ軍から多数の契約を得ている)。
アメリカ空軍は2021年6月にヨーロッパとアフリカにおける商用低軌道衛星インターネットサービスについて調査を開始した。その結果、スターリンクが両方のエリアでサービスを提供する唯一のプロバイダーである一方、アマゾン(Amazon)、ワンウェブ(OneWeb)、テレサット(Telesat)などの他の企業も今後数年間でサービスの提供を開始する見込みだという。
アメリカアフリカ軍のトップを3年間務め、この8月に引退したスティーブン・タウンゼント(Stephen Townsend)大将は、7月に行われたDefense Writers Groupのイベントで、スターリンクがウクライナでどれほど活用されているかを知り、「興味をそそられた」と語った。
タウンゼントはスターリンクのようなサービスがアフリカにおける米軍にとって役立つかという質問に対して、「部下に『これは使えるか、もしそうならどのように使うか』と聞いた」と答えた。
「答えをもらっていないのでわからないが、同じ質問を私もしたんだ」
ウクライナでのスターリンクの有効性は中国も関心を持っており、同国の研究者はこの春に、人民解放軍は戦争が起きた際にスターリンクの衛星を妨害・破壊する能力を開発するべきだと進言している。
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)