全国の大学で少しずつ、生理用品の無償提供が始まっている。
撮影:柳瀬綺乃
学内のトイレに、生理用品を無償で設置する大学が増えている。
2021年9月、龍谷大学が関西初の取り組みとして、生理用品の無料設置を開始した。2021年11月には、福島大学が国立大学として初めて同様の取り組みを開始することを発表。それ以降も、早稲田大学や慶應義塾大学、中央大学など都内有名私立大学をはじめとしたさまざまな大学が、続々と学内のトイレに生理用品を無償設置する取り組みを進めている。
背景にあるのは、「必要な人が必要な時に生理用品を手に取れる」という環境を当たり前にすることに対する理解の広がりだ。
「アンケートなら私たちでもできる」大学に届いた学生の声
津田塾大学に通う冨永友惟さん(2年)。
オンライン取材よりキャプチャ
「大学にいるときに、友人が急に生理用品を必要としたことがあったんです。ただ、そのときは周りに生理用品をもっている人が誰もおらず、ウェルネス・センター(保健室のようなもの)で生理用品をもらいました」
津田塾大学に通う冨永友惟さん(2年)は、友人らとともにキャンパス内に生理用品を無償設置するプロジェクトを立ち上げたきっかけをこう話す。
津田塾大学では、2022年の6月からキャンパス内にある一部の女性用トイレ内に生理用品の無償設置を開始した。その契機となったのが、学生からあがってきた複数の声だ。
冨永さんらの活動もその一つだった。
多くの場合、生理になったことに気が付くのは、トイレの個室内だ。保健室のような場所に生理用品が確保されていること自体はありがたいものの、生理用品を手にするためにその場所に行くこと自体がハードルでもある。
加えて、津田塾大学では当時、生理用品を受け取るために「記名」も必要だった。
「記名をすることに抵抗を感じました。生理であることを自分を知っている人、大学の人に知られたくないと思うからです。
また、記名する必要性が分からないことも、記名制に対する違和感かもしれません」(冨永さん)
生理用品を「必需品」と捉え、誰でも気兼ねなくアクセスできるようにする。
この動きは、大学だけではなく、商業施設や公共施設などでも広がっている。
自分たちの大学でも抵抗感なく生理用品にアクセスできる環境を整えられないかと考えた冨永さんは、5月ごろに大学の生理用品の配布方法に関する学生アンケートを実施。同じ学部の学生が集まるLINEグループやSlackを通じて、同学科1〜4年生全512人中、約6分の1となる89人からの回答を得た。
アンケートでは、実際に大学内で急に生理が始まり困ったことがある学生が9割を超えていた。また、生理になったことを他人に伝えるのに抵抗がある学生も多かったという。
「(アンケートに回答があった範囲では)生理用品を配布する場所も、ウェルネス・センターではなく、実際に生理用品が必要になるトイレの個室内が良いという学生が大半でした」(冨永さん)
冨永さんはこの結果を、かねてより学内での生理用品の無償提供に賛同していた、学内組織にも関係のある教員に提出した。
「予算ない」設置への障壁
生理用品の無償設置を始めた津田塾大学。
撮影:柳瀬綺乃
「昨年頃から、生理用品を設置してほしいという声は上がっていたんです」(津田塾大学学生生活課・担当者)
津田塾大学では、冨永さんらが声を上げる以前から、学生の声を受けて学生生活を支援する教職員組織(全学学生委員会)で生理用品の無償配布に関する審議が進められていたという。全学学生委員会では、設置に反対する人は誰一人いなかったという。
その後、2022年6月から小平と千駄ヶ谷にあるそれぞれのキャンパスの一部のトイレ内で、生理用品の無償設置が始まった。
小平キャンパスでは、21棟あるうちの6棟、それぞれの1階の洗面スペース。1棟しか建物がない千駄ヶ谷キャンパスでは、2階の洗面スペースに設置された。
「キャンパス内に複数あるトイレの中でも、学生が利用しやすいように教室の側にあるトイレを設置場所に選びました」(津田塾大学学生生活課・担当者)
学生の声を受けはじめた年末から、実際の設置に至るまで、比較的スムーズに話が進んだように思えるかもしれないが、設置する上で現実的な問題もあった。予算だ。
「学生の想いに応えたいという思いはありましたが、無償設置のための予算は付されていませんでした。
新たなマンパワーや(個室に棚などを設置する)工事費がかからない方法をうんうん唸りながら考えるしかなかったんです」(津田塾大学学生生活課・担当者)
大学の資金は、毎年用途に応じて細かく設計されている。生理用品の設置に賛成はすれども、すでに予算が確定していた状況で、(生理用品用に)新たに資金を捻出することは難しかった。
「うちのような小規模大学では、財源が本当に限られています」(津田塾大学学生生活課・担当者)
そこで活用することにしたのが、もともと災害備蓄用として保管していた生理用品だった。
災害備蓄用の生理用品は、一定の期間で交換が必要となる。ただ、中にはまだ充分に使えるものも多い。期限を迎えた生理用品を、無償設置用に活用することで、新たに生理用品を買い足すコストを抑えることができた。
生理用品の補充も、もともとトイレの清掃を依頼していた業者に頼むことで、費用を抑えられた。
「個室に置いて欲しいという声もありますが、個室に置く場所がなく、新たに設置するには工事費もかかります。
また、清掃業者の負担も考え、通常の業務範囲で対応可能な洗面スペースに置くことにしました。無理なく長く続くようにと考えた最初の一歩です」(津田塾大学学生生活課・担当者)
学生生活課によると、6月に設置を始めてからの1カ月で、小平キャンパスでは645枚、千駄ヶ谷キャンパスでは145〜150枚の生理用品が使用された。
小平キャンパスの学生数は2647人、千駄ヶ谷キャンパスは512人だ。単純計算すると、3〜4人に1人が学内で生理用品を必要とする状況に直面したことになる。
「ウェルネス・センターで生理用品を配っていた頃よりも、ウェルネス・センターに生理用品をもらいに来る学生が減ったように思います。
ウェルネス・センターに行くよりも、トイレに置いてある方が、誰にも見られずに取りやすいので、学生にとっての利便性は上がったのかもしれません」(津田塾大学学生生活課・担当者)
人気サービスで広がる無料配布の輪、一方で導入に壁も
さまざまな施設に設置されている生理用品を無料で手に入れることができるサービス「OiTr」。OiTrと書かれたマークをタップし、ディスペンサーにかざすと生理用品が一枚貰える仕組みだ。
撮影:柳瀬綺乃
大学で生理用品の無償設置が広まる中、支持を集めているサービスがある。
オイテル社が提供するサービス「OiTr」は、公共施設やショッピングモール、学校などのトイレの個室で、生理ナプキンを無料で提供するサービスだ。8月9日現在、全国159の施設に導入されている。
ユーザーは、専用アプリをディスペンサーにかざすことで、生理用品を一枚手に入れることができる。ディスペンサーの画面には音声のない広告動画が流れる。
この広告収益で生理用品を賄うことで、ユーザーに負担を求めない形でのサービスが実現されている。
利用者が便座に座ると広告が流れる。
撮影:柳瀬綺乃
オイテルはもともと、「社会課題をビジネスで解決する」をミッションに創業。
ジェンダーギャップに関する社会課題に取り掛かろうとする中で、ネット上で一人の女性の声に出合ったことが、このサービスのきっかけだという。
「『トイレットペーパーがトイレに常備されているのに、なぜ生理用品は常備されていないの?』この声をきっかけに、生理のある人が強いられる心や体の負担、経済的な負担を知りました」(オイテル・広報)
生理のある人はこういった負担を、月経が終わるまでの40年近く抱えて生活していく。
「この問題は、社会課題として捉えるべきことだと認識しています。
生理のある人たちのさまざまな負担を軽減し、QOLの向上を図ることで、ジェンダーギャップという社会課題の不均衡の是正に寄与したいという思いから、OiTrのサービスは生まれました」(オイテル・広報)
早稲田大学では、2021年11月から戸山キャンパスのトイレ12個室にOiTrを導入。慶應義塾大学では、全キャンパス合計で99個室(7月現在)に設置している。どちらの大学でも、生理用品の補充はトイレの施設管理の延長として、清掃業者に委託しているという。
ただ、大学への導入を進める上での課題もある。
両大学に話を聞いてみると、「(OiTrを)壁に取り付ける工事代が非常に高い見積りとなったため、少しずつ拡大させていく予定です」(早稲田大学・担当者)という声や、「トイレ個室内に広告を表示する機器があることを嫌う方がいらっしゃることが分かりました。増設の予定はありますが、現時点では全個室に設置という展開はありません」(慶應義塾大学・担当者)などと、大学の財源の問題や教育機関という性質からくるサービス導入の難しさがあるようだった。
学生からのアクションに、それに対する大学側の前向きな対応。加えて、それを支えるサービスの登場など、これまでに比べると生理用品へのアクセスが改善する風土はできつつある。
しかし、まだ十分に状況が改善されたとは言い難い。よく考えてみれば、大学にしろ、公共施設にしろ、トイレットペーパーは誰も何も言わなくとも常に利用できる環境が整っているはずだ。
必要な時に、当たり前に生理用品を手に取れる社会に向けて、変化は始まったばかりだ。