ReJoule
いま自動車業界では、電気自動車(EV)の製造に欠かせない金属のゴールドラッシュが起きている。
既存の自動車メーカーと新興の自動車メーカーがEVの市場シェアを獲得しようと競争しているため、リチウム、ニッケル、コバルトなどの需要は高い。特に自動車メーカーは、マイクログリッド(小規模電力網)事業者などの競合相手とバッテリー容量で競っているため、需要は増加の一途をたどっている。
バッテリー業界は、この競争についていけるかどうか見通しが立っていない。
その結果、バッテリーのリサイクル企業に大量のベンチャーキャピタル(VC)の資金が流れ込んでいる。しかし業界の専門家の中には、供給不足を解消するより安価でシンプルな方法、つまりバッテリーを再生する方法があると言う人もいる。
スタートアップのリパーパス(RePurpose)によると、アメリカでは10年以内に15万トン以上のEVバッテリーが役目を終えるという。そして、EVの電源として使われなくなった後も、電池の容量の約80%は残っている。
そこで、リサイクルされたリチウムやその他の素材を単にEVのサプライチェーンに戻して新しいバッテリーを作るのではなく(これは高価で難しい)、バッテリーを個々のセルに分解して新しいパックに転用することで、蓄電池としてのセカンドライフを歩ませることができるのだ。
使用済みEVバッテリーを再利用することで、貴重な素材に対する業界の負担を軽減し、新たな資源の需要とコストを下げ、新しい自動車の素材を求める競争を抑えることができる。
再利用の分野に続々と参入し、使用済みEVバッテリーに残るエネルギーを活用する技術の開発に乗り出す10社を紹介しよう。
リジュール(ReJoule)
リジュールはバッテリーの劣化レベルを診断するソフトウェアを開発している。
ReJoule
本社:アメリカ、カリフォルニア州シグナル・ヒル
CEO:スティーブン・チュン(Steven Chung)
リジュールは、自動車メーカー、リサイクル業者、転用業者が、バッテリーのテスト段階で多くの時間を費やすことなくバッテリーの状態を把握できるソフトウェアの開発に取り組んでいる。
リジュールの診断ソフトウェアは、バッテリーの充電率や健全度をはじめ、劣化レベルを評価することができる。これらの情報をもとに、バッテリー残量があるうちにどのような二次利用が最適かを判断できる。
また、この技術は、EVのバッテリーをリアルタイムで監視するバッテリー管理システムにも利用できる。
リパーパス・エナジー(RePurpose Energy)
本社:アメリカ、カリフォルニア州デービス
CEO:ジェ・ワン・パク(Jae Wan Park)
カリフォルニア大学デービス校発祥のリパーパス・エナジーは、EVのバッテリーを蓄電システムに転用する方法を開発している。
複数の使用済みEVバッテリーの良い部分を組み合わせることで、太陽光などの再生可能エネルギーを補完する大型のパワーパックを作り、より大きなグリッドストレージのニーズを満たす。
B2Uストレージ・ソリューションズ(B2U Storage Solutions)
本社:アメリカ、カリフォルニア州サンタモニカ
社長:フリーマン・ホール(Freeman Hall)
ソーラー・エレクトリック・ソリューションズ(Solar Electric Solutions)から独立した創業3年目の同社は、セカンドライフ・バッテリーを使った蓄電システムを開発している。
公式ウェブサイトによると、同社のEVパック・ストレージ・システムは、使用済みのバッテリーパックを再構成することなく、大規模なエネルギー貯蔵に再利用する。つまり、電池パックは元のケーシングのまま使用することができ、再転用のコストを削減することができる。
モーメントエナジー(Moment Energy)
モーメントエナジーの共同創業者。
Moment Energy
本社:カナダ、ブリティッシュコロンビア州サレー
CEO:エディ・チャン(Eddy Chiang)
モーメントエナジーは、マイクログリッド、商業・工業顧客向けに、EVバッテリーを再利用した蓄電システムを製造している。
2020年に創業したモーメントエナジーは、カナダでセカンドライフ・バッテリーと再生可能エネルギーを組み合わせた数多くのプロジェクトを行っている。
また、メルセデス・ベンツと契約し、自動車メーカーの使用済みEVバッテリーの供給網を構築している。
ヌベーション・エナジー(Nuvation Energy)
本社:アメリカ、カリフォルニア州サニーベール
CEO:マイケル・ウォーリー(Michael Worry)
ヌベーション・エナジーは、バッテリー管理システム、セカンドライフ・バッテリーパック、エネルギー貯蔵設計プランニングサービス、セカンドライフ・エネルギーをインフラに統合するエネルギーコントローラーを製造している。
同社は、自動車メーカーがEV用バッテリーのリサイクルや再利用を検討する際に、メーカーと連携してその再生戦略を立案している。また同社は、セカンドライフ・バッテリーを事業に組み入れるシステムインテグレーターや、セカンドライフ・バッテリーを保管し、保有する使用済みバッテリーの在庫を削減したい倉庫業者とも連携している。
フォータム(Fortum)
本社:フィンランド、エスポー
CEO:マーカス・ラウラモ(Markus Rauramo)
フォータムは、エネルギー、バッテリー・ソリューション、リサイクルの専門知識を組み合わせ、ボルボ・カーズ(Volvo Cars)やクリーンテック企業のコムシス(ComSys)とともに、EVの使用済みバッテリーを組み合わせて、スウェーデンのランダフォース(Landafors)水力発電所用の1つの大型バッテリーにするプロジェクトを試験的に立ち上げた。
フォータムによると、使用済みバッテリーを水力発電に使用することで、発電所のタービンが送電網を制御し、安定させる機能を強化することになるという。水力発電が水循環に大きく依存していることを考慮すると、より安定的で予測可能な電力を追加できることは大きな利点となる。
スピアーズ・ニュー・テクノロジーズ(Spiers New Technologies)
本社:アメリカ、オクラホマシティ
CEO:ダーク・スピアーズ(Dirk Spiers)
スピアーズ・ニュー・テクノロジーズは、高度なEVバッテリーパックの改修、修理、再利用、リサイクルを行っている。
同社の技術は、EVへの電源供給には使えなくなった後の最も効果的な利用方法を判断するために、バッテリーの「等級付け」を行い、そのライフサイクルの中でバッテリーに残っている価値を評価する。
スピアーズは、自動車用バッテリーパックを自動車以外のニーズに転用する以前から、配送や保管など、バッテリーパックの生産後の物流を取り扱っている。
※同社は2022年9月、コックス・オートモーティブ・モビリティ(Cox Automotive Mobility)に買収された。
エネル(Enel)
本社:イタリア、ローマ
CEO:フランチェスコ・スタラーチェ(Francesco Starace)
モビリティ大手のエネル・グループは2022年初め、スペインの発電所で日産リーフのバッテリー78個を使ったセカンドライフ・プロジェクトを立ち上げた。
発電所が停止した場合、蓄電システムは15分間、街の送電網に電力を供給することができ、これは発電所を復旧させるのに十分な時間であるとエネルは述べている。
エネルは、EVからバッテリーパックを取り外して、各パックをセルのレベルまで分解する必要なく直接蓄電システムに組み込むことができるため、複雑でコストのかかる分解工程を削減できると述べている。
RWEジェネレーション(RWE Generation)
本社:ドイツ、エッセン
CEO:ロジャー・ミエセン(Roger Miesen)
RWEは長い歴史を持つドイツのエネルギー企業。その発電部門は、ドイツの貯水池にある発電所の一時的なエネルギー貯蔵に、アウディの使用済みバッテリーを試験的に使用している。
アウディはe-tronの開発車両から廃棄されたバッテリーを供給した。今後、EVバッテリーの製造に伴う二酸化炭素削減に向けた取り組みとして、このようなバッテリーのセカンドライフ利用を計画する自動車メーカーが増えるだろう。
コネクテッドエナジー(Connected Energy)
Connected Energy
本社:イギリス、ニューカッスル・アポン・タイン
CEO:マシュー・ラムスデン(Matthew Lumsden)
EV用バッテリーがこれほどまでに複雑な製造工程を経た後、その苦労を全てゼロにして素材をサプライチェーンに戻すのは、無駄で頭の痛い問題だ。
そこで、コネクテッドエナジーの定置型蓄電システムは、セカンドライフ利用用のバッテリーを取り入れた。このシステムでは、あらゆる劣化度のバッテリーを取り出して1つのシステムに集約している。
同社によると、このシステムはファーストライフのシステムよりも資本コスト、サイクルコスト、環境コストを低く抑えられるという。
コネクテッドエナジーの強みは、産業・商業施設に使用されるE-storコンテナと、送電網ニーズのバランスをとるのに約だったり再生可能エネルギーと併用されたりするM-storにある。同社は最近1840万ドル(約112億円、1ドル=134円換算)を調達し、自動車メーカーのルノーと提携した。
※この記事は2022年8月15日初出です。