電気自動車(EV)スタートアップ有力3社の第2四半期(4〜6月)決算が出揃った。画像はその一角、リビアン(Rivian)の電動ピックアップトラック『R1T』。
Rivian
リビアン(Rivian)、ルーシッド(Lucid)、カヌー(Canoo)という電気自動車(EV)スタートアップ有力3社の第2四半期(4〜6月)決算が出揃った。主力モデルの生産台数引き上げが各社ともますます困難化している現状が明らかになった。
3社が共通して強調したポイントは、サプライチェーン(供給網)およびロジスティクス(物流)の問題、想定外の遅延、さらにオペレーションを軌道に乗せるという「資本集約的」プロセスの難しさだった。
とりわけルーシッドとカヌーは当初計画を大きく逸脱したことを率直に認めている。前者の生産台数は想定のごくわずかにとどまった。後者は2022年末に納品期限を迎える台数分の製造を、サードパーティに委託せざるを得ない現状を公表した。
残るリビアンについても、予約注文分の納品が漸次進んでいるにもかかわらず、第2四半期に17億ドル(約2300億円)の純損失を計上し、7月には相当数の従業員をレイオフ(一時解雇)した。
米金融サービス会社レイモンド・ジェームズ(Raymond James)のパベル・モルチャノフは次のように説明する。
「サプライチェーンの構築、生産能力の拡大、大規模工場の建設、いずれも難題です。いずれも実現するのに時間がかかり、資本集約的(機械や設備への大規模投資が必要になる)で、正直言って一定の運にも恵まれる必要があります。企業側が万全を期したつもりでも、うまくいかないことがあるわけです」
発表されたばかりの3社の第2四半期決算と、第3・第4四半期の業績見通しについて、自動車業界の専門家4人に見解を聞いたところ、リビアンが「馬群を抜け出した」構図が見えてきた。
ルーシッドの課題は体制立て直し
ルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)が8月上旬に発表したオプション塗装「ステルス・ルック(Stealth Look)」版の「ルーシッド・エア(Lucid Air)」。
Lucid Motors
ルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)のピーター・ローリンソン最高経営責任者(CEO)は第2四半期決算説明会で、同社の生産目標未達の理由を「物流制約により(目標達成に必要な)生産台数の引き上げに至らなかった」と説明した。
ローリンソンCEOはまた、適正な品質の部品を計画通りに適切なタイミングで生産ラインに投入できなかったことに加え、他社と比較して特に高い品質基準の維持を目指す同社の徹底したスタンスが、ハードルをさらに高いものにしたと語った。
第2四半期の納車完了数は679台(うち半分は4月納車)で、2022年の年間生産目標が当初2万台とされていたことを考えると、惨憺(さんたん)たる結果と言っていいだろう。第1四半期からの通算でも、生産1405台、納車1039台と目標に遠く及ばなかった。
工作機械の設置作業や倉庫内の再配置を行うため、期中に工場を2週間半にわたって稼働停止した影響もあり、ルーシッドは最初の下方修正を経て1万2000〜1万4000台としていた生産目標台数をさらに6000〜7000台まで引き下げた。
テスラのライバルと目される同社の第2四半期売上高は9730万ドル、現金及び現金同等物は46億ドルで、受注残は3万7000台(35億ドル相当)。
米グッゲンハイム・セキュリティーズ(Guggenheim Securities)マネージングディレクター(自動車市場リサーチ担当)のアリ・ファグリはルーシッドの現状をこう分析する。
「時価総額300億ドルというバリュエーションを正当化するには、同社が現在よりはるかに高い水準まで生産台数を引き上げられると強く確信できるような見通しがほしいところです。
通期の生産台数見通しを実現可能な水準まで引き下げたことはいくらか楽観的な材料になるとは言え、下方修正後の6000〜7000台という目標を達成できたとしても、それをもってより高い水準への生産台数引き上げを期待できるという推論は成立しません」
第2四半期は「物流プロセスの未熟さを露呈した」というのがローリンソンCEOの見方で、問題の早期解決を目指して、物流センターをアリゾナ州テンペから同州カサグランデで稼働中の主力工場敷地に移すことを決めた。
さらに、ルーシッドは物流プロセスの改善に重点を置いた経営体制の立て直しも進めている。
バイスプレジデント(グローバル・ロジスティクス担当)のウォルター・ルドウィグ(メルセデス・ベンツ出身)、同(プロセス・トランスフォーメーション担当)のイブリン・チャン(元テスラ)、シニアバイスプレジデント(オペレーション担当)のスティーブン・デイビッド(フィアット・クライスラー出身)と、自動車業界のベテランを集めた。
組織としても、サプライチェーン、クオリティ、ロジスティクスをオペレーションの直下に置くことで効率性と安定性の向上を図った(すなわちルドウィグやチャンはデイビッドを直属の上司とする)。
リビアンは順調
リビアン(Rivian)の電動多目的スポーツ車(SUV)『R1S』。
Rivian
リビアンは第2四半期に4401台を生産、4467台を納車した。第1四半期からの通算では、生産が6954台、納車が5694台。2022年の通期生産目標とする2万5000台に向けて、遅れながらもまずまずの歩みを見せている。
アマゾン(Amazon)が発行済み株式の18%を保有する同社の第2四半期売上高は3億6400万ドル、現金及び現金同等物は150億ドル、受注残は9万8000台(『R1T』『R1S』の合計、6月30日時点)。
ただし、通期の営業損失(正確には利払い前・税引き前・減価償却前損失)は第1四半期決算発表時の見通しより拡大し、47億5000万ドルから54億5000万ドルに赤字幅が広がるという。
リビアンのR・J・スカーリンジ最高経営責任者(CEO)とクレア・マクドノー最高財務責任者(CFO)は投資家向けの説明会で、サプライチェーンが特に厳しい状況にあると説明している。
それでも、自動車業界の専門家たちはリビアンの第2四半期決算から好感触を得た模様だ。
米資産管理大手ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)のダン・アイブスは顧客向けメールで次のように分析する。
「全体的に見ると、生産は順調そのもので、通期の損失幅は広がる見通しながら、ウォール街のアナリストが注目している受注の勢いも増しています。
新規株式公開(IPO)の直後から(最高値との比較で9割弱の株価下落という)ホラーショーが続きましたが、スカーリンジCEO率いるチームはEV業界の旗手と目されるリビアンを再び成長軌道に乗せ、2023年に続く明確な勢いを取り戻したと言えるでしょう。
供給制約は引き続き同社の足かせになるでしょうが、第3四半期以降の生産見通しは明るいと考えられます」
カヌーは不安定な経営続く
カヌー(Canoo)が開発中の「ライフスタイル・デリバリー・ビークル(LDV)」。
Canoo
カヌーの第2四半期決算は、現金及び現金同等物がわずか3380万ドル、純損失が1億6440万ドルと危うい内容だった。
決算説明会では、フラッグシップモデルの生産開始をあらためて第4四半期(10〜12月)と発表したものの、他社の支援なしでの実現は困難だろう。
トニー・アクイラ最高経営責任者(CEO)は同説明会で「当社の生産設備が稼働するまでの間、時限的な生産委託のためサードパーティーと提携した」と状況を説明した。
カヌーは当初、2022年にベントンビル工場(アーカンソー州)、2023年にプライヤー(オクラホマ州)工場を稼働させる予定だった(第1四半期決算発表時に、それぞれ2023年初頭、2024年にずれ込む見通しを明らかにしている)。
アクイラCEOによれば、第1号の納車は2023年第1四半期(1〜3月)に後ろ倒しし、車種も米小売り大手ウォルマート(Walmart)から受注した商用EV「ライフスタイル・デリバリー・ビークル(LDV)」を優先する。
ウォルマートからの受注は4500台(最大1万台のオプション付き)で、第3四半期(7〜9月)早々に生産開始予定という。カヌーはウォルマートとの契約成立以前、2022年末までに3000〜6000台の生産を目指すとしていた。
カヌーについては運転資金の枯渇が懸念されていたが、決算発表に際して資金調達計画もあらためて確認された。
カヌー(Canoo)2022年第2四半期決算プレゼン資料のスクリーンショット。資金調達計画の充実をアピールした。
Canoo
第1四半期決算発表時に発表された通り、ヨークビル・アドバイザーズ(Yorkville Advisors)と3億ドルの前払い型新株予約権割当契約を結び、うち0.5億ドル(5000万ドル)の支払いを受けたほか、2億ドルの公募増資、さらに包括的発行登録制度を使った公募増資3億ドルも計画しているという。
米調査会社ガイドハウス・インサイツ(Guidehouse Insights)のサム・アブエルサミドは、規模で劣る会社が不利な状況を指摘する。
「EV開発はどう考えても資本集約的なビジネス。リビアンはタイミングに恵まれ、上場前に投資家から莫大な資金を調達し、新規株式公開(IPO)を通じてさらに多くの資金を手にしました。
その後間もなく弱気相場に突入し、景気後退入りもささやかれる中で、規模の小さな会社はことごとく資金枯渇の危機に瀕しています」
(翻訳・編集:川村力)