Getty Images
アメリカの最新の雇用統計が堅調であったこと、消費者物価指数の上げ幅がわずかに縮小したことが心理的な後押しとなって、アメリカおよび世界経済の「ソフトランディング」に対する期待が高まりを見せている。
とはいえ、状況は依然として不安定であり、投資家にとって大きな不安材料は世界各地に散見される。
その不安定な状況を見て株式投資に戻るのはやめておこうと思っているのなら、他にもお金の使い道の選択肢はある。その代表がコモディティだ。投資家は多くの場合、株と同じくらい簡単に、コモディティ価格連動タイプの上場投資信託を買うことができる。
コモディティは「売られ過ぎ」
スイスを本拠地とする銀行大手UBSの最高投資責任者は、コモディティは現在「売られ過ぎ」だと見ており、「買い」を真剣に検討すべきだと述べる。
UBSのCIO(最高投資責任者)を務めるマルク・ヘーフェレ(Mark Haefele)率いるチームは、2022年8月2週目に発表した顧客向けレポートの中で、最近の石油その他のコモディティ価格の下落はおそらく短期的なものであり、買いの大きなチャンスであると述べている。レポートのシナリオでは、投資家は今後6~12カ月で15~20%の利益を上げられる可能性があるという。
「コモディティの価格はピークを打って下がっている。UBSのCMCI指数は6月上旬のピークから約11%下落し、7月のパフォーマンスは横ばいだったが、それでも年初来で見ると16%の上昇である。上半期の回復を支えた供給サイドの制約要因は、世界経済の成長見通しの悪化、ドル高、中国不動産業界の難局などによって脇役に回ってしまった形だ」
とUBSのレポートは述べている。
原油価格はこの2カ月で約20%下落し、1バレル98ドル(約1万3000円、1ドル=133円換算)となり、銅は10%下落し1トン8095ドル(約107万円)前後で取引されている。
しかしこれまでもそうだったが、金融市場に保証というものは存在しない。もし経済が浅瀬にソフトランディングせずに深刻な景気後退が起これば、様相は大きく変わってくるだろう。
「世界経済が深刻な景気後退に陥った場合、コモディティの価格はさらに下落する可能性がある。過去30年の景気後退期や景気低迷期には、広範囲のコモディティ指数がピークから底まで30~50%下落している。CMCI指数は、7月の安値の時点で、6月のピークから17%下落していた」
UBSはこうも述べている。
「しかし、ソフトランディングの可能性も、著しい景気減速と同じくらい高いと我々は考えている。コモディティ市場に対する過度に弱気な見方は、供給サイドのダイナミクスを十分に考慮していないものだ」
CIOチームは次のように付け加える。一般的に見て、コモディティの供給は「長年の過少投資」によって低く抑えられており、多くの分野において、公表されている在庫は実際より少なめで、さらに気候要因や地政学的要因も絡んでくる。これに対し、おおまかに見ると世界の需要は引き続き増加傾向にある。
狙うべきコモディティ4分野し上げる3つの要因
UBSは、コモディティの需要を短期的に増加させる主な要因は次の3つだと見ている。
第一に、中国の需要が回復に向かっていることが挙げられる。
「中国の景気回復は依然として微妙な状況にあり、製造業と不動産のデータは、さらなる刺激策が必要であることを示唆している。政策的「バズーカ」の可能性は低いと思われるが、政府は今後数カ月、支援策をさらに充実させ、これにより特に鉄鉱石や工業用金属などのコモディティの需要は安定するはずだ」
第二に、UBSによれば、アメリカの景気後退を議論するのは「時期尚早」である。
「先週の(アメリカの)非農業部門就業者数の報告を見ると、1カ月で52万8000人の新規雇用が創出されているのだから、より確信を持って景気は後退局面にはないと言うことができる。
成長は鈍いものの、アメリカ経済はパンデミック前のパターンに戻りつつあり、その中で財とサービスの間に乖離が生じている。製造業は振るわないが、一方でサービス業は伸びている。このような乖離はあるものの、データは財とサービスの活動が正常化したことを示している」
第三の要因は、市場にまた供給不足が生じるのではないかという不安である。このような不安は、備蓄を誘発し、価格を押し上げる。
UBSのCIOチームが特に狙うべきコモディティとして挙げるのは、鉄鋼や銅などの金属である。これらは二酸化炭素排出量削減推進に一役買っているため、最有望と考えられる。また、さらなる価格高騰が予想される石油や農産物も有望な投資先になりうると言う。
「(これらは)新しいコモディティサイクルの中心的な位置を占め、脱炭素化のプロセスで必要となる供給は価格回復の要だ。これは特に目新しい話ではないが、世界はまだこの種の移行に関連して急増する需要への準備ができていないと我々は見ている。10年にわたる低収益と環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する懸念により、価格は上昇しているにもかかわらず、銅などの主要金属の今後の供給拡大に向けた投資は抑えられている」
UBSは、これにより需要増加に生産がなかなか追いつかない状況が生じるだろう、と付け加えている。例えば石油市場でも、同様の過小投資が続いたため、OPECプラスの産油国の供給能力は限られている、あるいは余剰の生産能力がない状態である。
「我々はまた、ウクライナにおける戦争、エネルギー価格の高騰、人手不足、気候関連の持続的課題に起因する農産物の供給の混乱は2023年にかけても続くと考えている」
(編集・大門小百合)