Squareが新たに対応した「PayPay」の利用イメージ。従来は自社サービスのコード決済には対応していたが、社外のコード決済サービスを実装するのは初のことだ。
撮影:小林優多郎
Square(Block)は8月9日、同社決済サービスでの「PayPay」対応を発表した。
外部の「コード決済」サービスへの対応は初だ。
既存のすべての契約ユーザーが対象で、申し込むことで支払い手段としてPayPayが追加されるようになる。
今回、サービス対応についてSquare ペイメント グローバルマーケティング責任者(Global Head of Marketing for Square Payments)のEd Lin(エド・リン)氏にインタビューする機会を得たので、その背景についてまとめたい。
QRコード決済はすでに重要な決済の一部、成長も続けている
Square ペイメント グローバルマーケティング責任者のEd Lin(エド・リン)氏。
撮影:小林優多郎
Lin氏によると、Squareが新しい決済手段の追加にあたって判断基準とするのは「ニーズ」にあるという。
日本国内での各種電子マネー対応もそうだが、QRコードも含めて世界での決済サービスの利用状況を社内で評価しつつ、消費者の声に耳を傾けているという。
特に、加盟店に対して「売上機会の損失に対してどの程度有効か」を基準に判断した結果、今回の採用に至ったと説明する。
「最新の経済産業省のデータによると、キャッシュレス決済の5.5%をコード決済が占めており、まだ成長を続けている。日本の決済市場において (QRコード決済も)多くを占めていると判断した。
我々の意思決定は加盟店のニーズに焦点を当てているが、そのなかでQRコードが必要だという声が挙がっていた。
ニーズや普及率など各種指標を参考にしつつ、そのニーズに対してまずPayPayの対応に着手した」(Lin氏)
経済産業省が2022年6月1日に公開したキャッシュレス比率のデータ。2021年の数字でキャッシュレス比率32.5%に対し、コード決済は1.8%だが、キャッシュレス決済全体での比率は5.54%となる。
出典:経済産業省
Squareはアメリカを本社にグローバル展開を行っている企業だ。国内では、FeliCa系電子マネーへの対応など、ローカライズしながらも、サービス対応は基本的にグローバル基準で判断されることになる。
SquareはPayPay対応に合わせてWeb広告や、渋谷スクランブル交差点での屋外広告などを展開した。
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そうしたなか、自社サービス(Cash App)を除き、同社としては初のコード決済対応となる「PayPay」が採用されたことは、「日本においてコード決済、特に6割以上の市場シェアを持つPayPayはニーズが大きい」「日本市場での展開をグローバルの中でも重視している」という2つの意味を持つと考えていい。
単なる「QRコード提示」ではないSquareのPayPay決済
独自端末「Square Terminal」に表示されているPayPay用のQRコード。
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コード決済では、ユーザーのコードを店舗が読み取る「CPM方式」※1と、店舗に提示されたコードをユーザーが読み取る「MPM方式」※2の2通りがある。
※2 MPM方式……Merchant-Presented Mode、店舗掲示型。店舗が掲示するQRコードをユーザーがスマートフォンのカメラで読み取って決済する。
チェーン店や個人店舗でもPOSが設置されているようなケースの場合、前者のCPM方式を採用しているケースが多い。例えば、Squareの競合にあたるリクルートの「Airペイ」においても、前者のCPM方式を利用している。
Squareで出力されたQRコードを読み取ると、すでに金額情報が入力された状態になる。
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だが、今回のSquareのPayPay対応の場合、後者のMPM方式を採用している。
一般に、MPM方式では紙に印刷したQRコードをレジ横などに設置しておき、ユーザーはPayPayアプリなどで読み取って金額を入力し、支払いを行う。
店舗にとっては専用機器の設置を必要としないため、安価にコード決済を導入できるメリットがある。
反面、ユーザー側の作業が増えるためにレジが滞留しやすく、短時間に比較的会計の多い店舗ではレジ渋滞の原因となる。
金額の入力ミスや支払時のトラブルの可能性もあり、比較的多くの店舗が手数料がやや高めながらCPM方式を採用しているのもこうした理由による。
今回Squareが採用したのは「動的MPM」と呼ばれるもので、QRコードはSquareの画面上に表示され、ユーザーがそれをアプリで読み込むと金額はすでに入力されており、あとは支払いボタンを押すだけだ。
加盟店側は、支払い方法選択画面でPayPayを選択するだけで、金額情報付きQRコードを出力できる。
撮影:小林優多郎
QRコードは支払金額を含んだ形で毎回ユニークなものが生成されるため、紙に印刷された“静的”MPM方式のものに比べると幾分か処理がスムーズで安全だ。
CPM方式と違って外部にスキャナーを取り付けたり、SquareのmPOS(iPadなどを活用したモバイルPOSアプリなどのこと)にカメラを取り付けた専用ハードウェアが必要ないため、既存の「Square Terminal」や、単純にSquare Readerを接続したiPadやiPhoneであっても問題なくPayPay決済を受け入れられる。
「この方式を採用したのは、自動的に金額が入力されることで容易に取引ができるようになるから。
正確な金額が入り、誤って入力されることもなく、ユーザーと加盟店のどちらにとってもメリットがある」(Lin氏)
「手数料3.25%」のメリット/デメリット
Squareの決済手数料。
出典:Square
そして、今回の発表で、店舗関係者の多くが指摘することになると思われるのが「手数料」の話だ。
Squareの場合、JCBを除くクレジットカードと交通系電子マネーの手数料が3.25%、iDまたはQUICPayが3.75%、JCBが3.95%の手数料となっている。
今回のPayPayの決済手数料は「3.25%」となるが、もしPayPayと直に契約してMPM方式を採用した場合には「1.98%」、「PayPayマイストア ライトプラン」を契約した場合には「1.60%」となっており、やや高い設定だと感じるかもしれない。
SquareのPayPay利用時の決済手数料は、PayPay直契約の時よりやや高い。
撮影:小林優多郎
これについて補足すると、今回SquareのPayPay決済は「動的MPM」であり、PayPayと直契約して紙のQRコードが送付されてくる「静的MPM」とは異なり、別途システム利用料分の加算がある。
また、Square自身はゲートウェイと呼ばれる決済代行業者を通じてPayPay対応を行っているため、手数料を直契約よりも下げにくいというハンデがある。
ゲートウェイを介する副作用として、直契約を必須とする「PayPay for Business」が利用できないというデメリットがあり、同サービスを通じたクーポン配信など各種機能の恩恵を受けられない。このあたりはライバルのAirペイも同様だ。
「確かに手数料でいえば3.25%であり、直契約よりも高いかもしれない。
ただサービス全体を評価してもらえば、PayPay利用にあたって必要なものはすべて標準で賄えるし、売上はクレジットカードと同様の場所にすべて集約され、最短で翌営業日での入金が可能と支払いも非常に早い。
しかも、各種契約にありがちな、月額費用や諸経費など“隠れた費用”は存在せず、必要なのは3.25%の手数料のみだ。
動的MPMの採用は加盟店側にとってもメリットが大きく、より早く簡単・確実な決済体験を提供できる」(Lin氏)
将来的な他の決済への対応は未定
Square POSレジアプリの「レポート画面」には、電子マネーやクレジットカードと共にPayPayが並ぶようになる。
撮影:小林優多郎
コード決済はアジア地域を中心に数多く存在し、日本でもPayPay以外の複数のサービスがある。
今回の対応は「PayPay利用を望む加盟店の声」が大きかったことから実現したもので、前述のようにそれ以外のサービスの対応については「声を聞きつつ、指標を重視」(Lin氏)ということで、現在はまだ未定だと同氏は述べる。
1点補足しておくと、コード決済的な仕組みとしてはアメリカでサービスが提供されている「(Square)Cash App」が存在し、QRコードを介したやり取りは実装されている。
レストランでのモバイルオーダーも同様で、今回のPayPay対応はあくまで「外部のコード決済サービスへの対応が初」という位置付けだ。
また、PayPay対応では、同サービスが静的MPM方式で提供している「中国の支付宝(Alipay)決済の受け入れ」には対応していない。別途何らかの対応が必要だ。
Lin氏は「コロナの収束後のインバウンド対応」の重要性を認めつつ、さまざまな支払い手段が求められるようになるという点に同意している。
まだ現時点での決定事項はないが、インバウンドを見据えた他のコード決済への対応も含め、ニーズを鑑みつつ判断されることになるだろう。