2053年に、少なくとも1日は華氏125度(摂氏約52度)以上の気温になると予想される郡(ファースト・ストリート財団の予測)。
First Street Foundation
- ファースト・ストリート財団の分析によると、2053年までにアメリカに「酷暑ベルト」ができるかもしれない。
- 同団体の報告書では、衛星データを用いて、今後30年の酷暑リスクが土地ごとにモデル化されている。
- 予測マップでは、アメリカに暮らす1億700万人が、華氏125度(摂氏およそ52度)以上の気温を経験する可能性があることが示されている。
2022年の夏にアメリカを焦がしている熱波は、全米規模で形成されつつある「酷暑ベルト」のはじまりにすぎないのかもしれない。
「今年は暑かったと思っているかもしれないが、実際には、この先の人生でましな部類の夏ということになるだろう」
気候危機を調査する非営利団体「ファースト・ストリート財団(First Street Foundation)」のマシュー・イビー(Matthew Eby)CEOはInsiderにそう話した。
ファースト・ストリート財団は2022年8月15日、「Hazardous Heat(危険な暑さ)」と題した報告書を公開した。この報告書では、査読済みのモデルを用いて6年分のアメリカ政府の衛星データを評価し、土地ごとに将来の酷暑リスクを予測している。その結論は、科学者たちの警告と一致していた。今後数十年で、酷暑が現在よりもありふれたものになり、極端化して長く続くようになるというのだ。
報告書の予測によれば、2023年にアメリカで暮らす800万人が華氏125度(摂氏約52度)以上の酷暑を少なくとも1日は経験する可能性があるという。2053年までに、その数は1億700万人に増加すると見込まれている。わずか30年で13倍になるということだ。
これは、現在の人口のおよそ3分の1に相当する。下の地図からもわかるように、アメリカの国土の4分の1を占めている。
2023年(左)と2053年(右)に、少なくとも1日は華氏125度(摂氏およそ52度)以上になると予想される郡。
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この酷暑の大部分は、テキサス州からルイジアナ州のメキシコ湾岸からシカゴまでのアメリカ中心部で起きると見込まれている。ファースト・ストリート財団が「酷暑ベルト」と呼んでいる地域だ。
そして南西部と南東部の少なからぬ地域でも、2053年には少なくとも1日は華氏125度(摂氏およそ52度)以上になる可能性があるという。
1日のいちばん暑い時間帯に、テント村にいるホームレス男性の血圧を測る医療従事者。2022年7月26日、ワシントン州ショアラインで撮影。
David Ryder/Getty Images
それほどの高温では、熱中症の危険が高くなるとアメリカ国立気象局は警告している。また、そうした高温ではインフラが不具合を起こすことも珍しくない。道路がゆがみ、鉄道の線路が曲がって脱線が生じるおそれもある。滑走路のターマック舗装(骨材にタールをしみ込ませて固めた舗装)が溶け、離陸できなくなる可能性もある。場合によっては停電も起きかねない。
暑い日も熱波も増加する
懸念すべきは、華氏125度(摂氏約52度)以上の日だけではない。華氏100度(摂氏約38度)超えでさえ、危険かもしれない。以下に示す別の地図では、アメリカの南半分で華氏100度を超える日が増えることが予想されている。
各円は、2023年(左)と2053年(右)における華氏100度(摂氏およそ38度)を超える日数を表している。色が黒に近いほど、日数が多いことを示す。円の大きさは、影響を受ける地所の数を示している。
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2020年の夏の酷暑の状況は、ファースト・ストリート財団が今後極めて暑くなると予想している地点の多くとぴったり一致していたとイビーは述べている。
たとえば、下の地図でも示されているように、同報告書の予測によれば、全米で熱波が増加し、北西部の太平洋沿岸などの北の地域や、歴史的に酷暑に慣れていないその他の地域でリスクが大きく上昇するという。
2023年(左)と2053年(右)における郡ごとの熱波(3日連続で、気温がその地域の上位2%以上になる状況)の発生確率。
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この報告書の予測は控えめなものだ。というのも、この予測にあたっては、気候変動と地球の気温上昇を導いている温室効果ガスの排出が大幅に削減されるものと想定されているからだ。
世界がすぐに(とりわけ、化石燃料からクリーンエネルギーへの迅速な移行を通じて)排出量を削減しなければ、将来の酷暑の様相は、この報告書の地図よりもさらに悪くなるおそれがある。
「いずれにしても、削減不足や、酷暑の影響に対する認識不足は、30年のうちにあらわになるだろう」とイビーは述べている。
人類が温室効果ガスの排出を明日停止したとしても、一部の熱は、人類がすでに大気に追加したガスによって閉じこめられる。生命、インフラ、財産を守るためには、個人、企業、政府が、将来のさらなる酷暑に備える必要があるとイビーは言う。
「我々はこのデータによって、個人から商業ユーザー、州政府、地方自治体、連邦政府まで、すべての人に情報を提供できることを願っている」とイビーは述べている。
ファースト・ストリート財団のデータは、riskfactor.comで公開されている。このサイトでは、各地の過去のデータのほか、現在および将来のリスクもチェックできる。
(翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)