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「ホラ吹き」も悪くない。NFTやブロックチェーンでつくる共助の仕組み【Next Commons Lab・林篤志4】

Next Commons Lab 林篤志

撮影:千倉志野

Next Commons Lab(以下、NCL)代表理事の林篤志(36)は自他共に認める「ホラ吹き」だ。話がいつも抽象的で壮大だからだ。だが林はあながちホラ吹きがダメだとも思っていないようだ。

「僕はホラって悪いだけではないと思います。僕の吹いたホラが壮大だったとしても、社会にとって肯定できるものだから仲間が集まってくれる。ホラ吹きの役割ってあるんですよ。

僕はあくまで感覚派で、実現プロセスの解像度がはじめから高いわけではない。でも絵(イメージ)はけっこう見えているつもりです。こっちの方向なんじゃないかって指し示すと、いろんな人たちが集まってきて試行錯誤のもとに解像度が上がっていくんです」

デジタル村民や新しい地域通貨を実験

Nishikigoi NFT

新潟県山古志地域では、錦鯉をモチーフにしたNFTアートを購入することで、デジタル住民票が発行される取り組みを行う。

Nishikigoi NFT 公式ウェブサイトよりキャプチャ

林は同時並行していくつものプロジェクトや事業を進めている。中には活動からはみ出しているように見えるものがいくつもある。

ここ数年進めてきたバラバラに見えるプロジェクトだが、点と点がつながって線になり、同時に解像度があがり、一つの面を生み出そうとしている。林はそれらのプロジェクトを「パーツ」と呼んだ。どんなパーツが集まってきたのか。まず、個々のプロジェクトを見てみる。

一つが新潟県長岡市山古志地域で2021年2月に始めた「電子住民票発行を兼ねたNFTの発行」だ。山古志地域は2004年の中越沖地震で甚大な被害を受けた。当時2200人ほどだった人口は現在800人。

その地域で関係人口を増やそうという実験だ。山古志地域の特産である錦鯉をモチーフにしたNFTを購入すると「デジタル村民の権利」が付与される。

きっかけは、山古志地域の支援団体・山古志村民会議のリーダーが、歯止めの効かない過疎化の問題を旧知の林に相談したことだった。NFTを活かせないかという林のアイデアをもとに、ブロックチェーン技術の専門家と3人で議論し、実験的に開始したところ、数カ月でデジタル村民人口は実人口を超えた。

オンライン上でのNFTの取引はスピードが速く投機目的がほとんどである中、社会課題の解決を目指したNFTの企画は世界初の試みだ。まだ行政とリンクはしていないが、今後、デジタル村民と山古志村が接点を持ち拡張していくようになれば、新しい自治の形に発展する可能性がある。

8月には「WE(ウィー)」という新しいネットワークを開始した。林が説明した。

「自分たちで社会保障の仕組みをつくるプロジェクトです。NFTを発行してみんなで集めた資産を運用して、メンバーが不慮の事故や病気などでお金が必要なときに、一定の承認プロセスを経てスマートコントラクトを介して自動的にお金が振り込まれる仕組み、とか。

要は、今後日本経済がどうなるか分からないし、困ったときに国が助けてくれるわけではないので、自分たちで困ったときのためのセーフティーネットを設計しておこうということです」

デジタル技術を活用した地域通貨のアイデアはすでに実証実験が済んでいるという。この地域通貨経済では、既存の貨幣経済では価値として見なされない行為も数値化される。

例えば、近所の子どもを老人が見守りした、広場の花壇の手入れをした、などの親切が数値としてカウントされ溜まっていく仕組みだ。

地域内で他の価値と交換することができる。この地域通貨経済のもとでは、貨幣経済とは異なる価値の指標により人と人との関係が促され、物にとどまらず、やさしさや思いやりといった「関わり」が循環していく。

郵便局と買い物難民を救う

郵便局

ローカルコープ事業では、日本郵政と組み、過疎化と高齢化が進む中山間部の買い物難民の解決を図る(写真はイメージです)。

kuremo / Shutterstock.com

NCLが日本郵政と組んだローカルコープ事業も着々と進行している。

日本郵政は全国に2万4千の郵便局網を持っているが、民営化後、過疎化が進む地方の郵便局の維持存続には困難がある。一方で、過疎地域では、民間企業が撤退してもなお最後まで必要とされるのが郵便局だ。郵便局という機能とNCLが組む理由を林は次のように説明した。

「新しい価値を新しいプロトコルで伝えようとしても受け取ってもらいにくい。その点、郵便局というアナログな場所は、地域コミュニティからの信頼が圧倒的です。僕らのローカルコープ事業が提案する新しいツールのアクセスポイントとして郵便局は最適です。新しい価値観に基づいた手段や解決方法につなげる窓口の役割を郵便局が実装します」

2022年4月、日本郵政から3人の職員がNCLへ出向する形をとって現地に転勤した。三重県尾鷲市と奈良県奈良市月ヶ瀬地区だ。尾鷲市では教育領域とカーボンニュートラル領域を、月ヶ瀬地区では中山間地域の買い物難民の新しい支援スキームに取り組んでいる。

「月ヶ瀬の中山間部での買い物問題。これは日本郵政の配送の際に生じる、余りの枠の部分に、スーパーと協力して、買い物・配送できる仕組みをつくろうとしています。

それをアマゾンみたいにドローンでやってしまう、みたいなのもあるのかもしれないけど、それだと人のつながりが途切れてしまう。それはNCLが目指している姿ではありません」

ローカルコープ事業の中には、ごみを資源として活用する構想もある。アミタ社の「MEGURU STATION」を導入することで、住民自らが持ち込んだ資源を細かく分別し、生ごみはガスや液肥に、その他のごみは地上資源に変わる。

「そうすると地域の人が集まる憩いの場になるし、資源が循環すれば自治体が抱えるごみの焼却費も解決する。これは実際に千葉大学との共同研究成果としても出ていますが、こうした地域の取り組みは高齢者の要介護リスクの低減に効果があるそうです」

冒頭で挙げたデジタル住民票の仕組みやブロックチェーンを使ったコミュニティ内の互助制度、地域貨幣経済の仕組みは、ゆくゆくはローカルコープ事業に組み込んでいく予定だ。いずれ、月ヶ瀬地区や尾鷲市でもこれらの仕組みが始まるかもしれない。

今年は社会起業家の白井智子と林が共同代表となり、Sustainable Innovation Lab(以下SIL)を発足した。各地でローカルコープが立ち上がっていったときに公共交通、教育、資源、エネルギーなどの生活に欠かせないインフラについて解決手段を提供する企業を潜在的に集める機能だ。

SILでは「100年後に私たちが地球上で生き残っているために、多様な生き物がつながり地球資本を再生可能な状態に導くこと」を目的と記している。

「NCLを立ち上げたときは、ビジョンと啓蒙で社会は変わると思っていました。けれど、そんなに簡単ではありませんでした。ゼロから家を建てようとしても、既存の枠組みという建物の方がお金も人も圧倒的にリソースがある。

だから、その建物から建材をはがして、家に使うようなやり方の方がいいと気付きました。それで、その後にローカルコープ事業を始めたんです。今は地域から公助と自助が失われつつあるので、そこへ共助としてローカルコープの仕組みを実装していきたい」

新しい社会の構築は「水槽」と似ている

Next Commons Lab 林篤志

撮影:千倉志野

これらの話を聞いたのは2回目となる林へのインタビューでのことだった。オンラインで取材したその日、モニター越しに向かい合う林は変わらずくつろいだ様子で、背後の窓越しに御代田の森の緑が見えた。

「新しい社会の再構築に向かって準備を進めてきました。大事なことは、新しい社会の仕組みが必要という段階になったときに準備ができている状態まで整えられていること。でもそれは決して夢みたいな話ではない」

コロナ禍やウクライナ紛争、政治と宗教の問題は、社会のOSを新しくしなければならないと私たちに突きつけている。良くも悪くも社会の変化は加速し、「タイミング」を私たちは急かされている。

「僕は10年ぐらいかけて新しい社会の仕組みを構築すればいいかなと思っていました。すでにいろんな実験を通してパーツは揃ってきています。それらのパーツがうまくつながってみんなが使おうとなるタイミングはそんなに遠くはないと思います。今の感覚では5年以内かなと思います」

一宮市郊外の祖父母宅で自然に囲まれて過ごした少年時代、林は水槽の観察が好きだった。砂利や岩、水草で整えた水槽に近所の川で釣った鯰や鮒、鯉を入れて、彼らが水槽の中でゆったりと共存している様子を飽かず眺めた。

新しい社会の構築は水槽と似ているのではないかと林は言った。今は新しい場所に人々が集まってくるのを見ながらワクワクしているところだという。

後日、林から届いたメールにはこう記されていた。

「僕らが突き進んでいくと、家族制度やパートナーシップのあり方などに必ずぶち当たります。工業化社会の産物とも言える根深い問題を、どう構造的に変えていけるのか。大きなテーマの一つです」

NCLの構築する新しい社会では、家族という社会の最小単位すら新しく開かれた形に変わるかもしれない。そこでは男女の非対称やマイノリティの課題にも新しい解が見つかるだろうか。

林は「ホラ吹き」か、それともペテン師か。5年後には答えが出ているはずだ。

(敬称略・完)

(文・三宅玲子、写真・千倉志野)

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