アップルCEOのティム・クック。
Reuters
アップルはここ数週間の間に、App Store内で展開予定の2つの新たな広告フォーマットについて、広告主や開発者への説明を始めた。
新しい広告フォーマットの導入は、急速に拡大しているアップルの広告事業における新たな展開だ。高い利益率の同事業部門は、最近、同社内での重要性が高まっている。
新たな2つの広告は、App Storeで提供される4つの広告フォーマットの中で、パフォーマンスが最も高いものにはなりそうもない。しかし、それでも収益性の高い事業であると専門家たちは言う。あるアナリストの試算によれば、アップルはこれらの広告により、2027年までに10億ドル(約1350億円、1ドル=135円換算)程度の追加収入が見込まれるという。
Insiderは、6人のモバイルマーケティング専門家に、アップルの最新の広告フォーマットが同社の広告事業計画においてどのような重要な役割を果たし、同社の壮大な野望に結びついているのかについて訊いた。
新たな広告とは?
新たな広告フォーマットの1つ目である「Today」は、ユーザーがApp Storeアプリを開いた時、最初のページのエディトリアルコンテンツの中に、「広告」のラベル付きで表示されるものだ。
新たな広告フォーマットの1つは、App StoreのTodayページに表示される。
Insider
広告のクリエイティブはアプリの「カスタムプロダクトページ」がベースとなっており、アプリ自体のスクリーンショットを4、5枚含めることができる。ただし、プロモーション、ライフスタイル、その他の画像の掲載はできないと、専門家たちは述べている。
「これは意外でした」と、独立系モバイルマーケティングコンサルタントのトーマス・プティ(Thomas Petit)は言う。
「これらの広告は、アップルがオーガニックにそこに表示するものではありません。プロモーション用のアートワークには別のガイドラインがあります。また、パフォーマンスの観点からも、最適なものになりそうもないですから」
ただし、後でもっと多くのオプションが利用できるようになるかもしれないとも言う。
この広告機能を利用する広告主は、2回の承認手続きを踏む必要がある。プロダクトページの他のアセットと同様にAppStoreConnectでの承認と、広告チームの承認である。
2つ目の新たなフォーマットである「その他のおすすめ」は、アプリをダウンロードする人に、類似する他のアプリを表示し、誘導するために設計されたものだ。この広告は、アプリのプロダクトページ(各アプリの評価、開発者、ファイルサイズなどの詳細情報が掲載されているApp Store内のページ)に表示される。
専門家によると、アップルはこの広告の導入時期について、「今年後半」という以外の正確な情報をまだ示していない。
どんなターゲティングと料金設定のオプションが用意されるのか?
アップルのオリジナルの検索広告と同じように、2つの新たなフォーマットも、Apple Searchプラットフォームを通して「コスト・パー・タップ」(編注:cost-per-tapのことで、アップル版のコスト・パー・クリックのこと)ベースで購入できるようになる。
アップルは最近、「検索タブ」広告も、1000インプレッションあたりのコストではなく、「コスト・パー・タップ」モデルに切り替えている。モバイル専門家たちは、アップルがこの切り替えをしたのは、広告主からのフィードバックによるものではないかと見ている。2021年、広告主たちはInsiderに対し、検索タブ広告は価格が高すぎてパフォーマンスが低いと話していた。
広告主は、年齢、場所、性別、新規の顧客かリピーターかで、広告を表示するターゲットユーザーを絞り込むことができる。ただし、ユーザーが5000人未満のセグメントはターゲティングできない。
モバイルマーケティングの専門家たちは、ターゲティングは限定的なものになる可能性があると言う。アップル自身が2022年初め、ユーザー端末の約78%がパーソナライズ広告の受信を拒否していることを明らかにしたためだ。
広告主への説明によれば、「その他のおすすめ」フォーマットでは、特定のアプリをターゲットにすることができなくなる。この点は、開発者が競合他社に関連するキーワードに紐づけできるオリジナルの検索広告とは異なっている。
広告主の反応
これらの動きは、広告業界に劇的な変化をもたらすようなものではない。アップルは2021年、プライバシーポリシーを変更し「App Tracking Transparency(ATT: アプリのトラッキングの透明性)」を導入した。それ以来、広告主はFacebookやSnapchatなどのアプリで広告キャンペーンのターゲティングや測定が難しくなった。(編注:ATT導入により、広告主のための識別子を使い他社のアプリやウェブサイトを横断してユーザーを追跡する場合、アプリ開発者は事前にユーザーに許可を求めなければならなくなった。多くのユーザーはそのような追跡を許可しないため、ターゲット広告の効果測定がしづらくなった。)
しかし、そのことに気づいている広告主にとっては、重要な新しい広告掲載スペースを提供してくれるものになる。
「これらの新たな広告が、オーガニックアプリを見つけづらくするのではないかと心配する人もいますが、Google Play Storeはすでに多くの広告をインターフェイスに表示しています」と、広告代理店スパーク・ファウンドリー(Spark Foundry) のペイ・パー・クリック部門責任者、ミリアム・レシノ(Miriam Resino)は言う。
「これらの新しい広告枠によって、Apple App StoreはGoogle Play Storeと同じくらいの量の広告を掲載することになります」
独立系のアプリマーケティング・コンサルタント、サメット・ドゥルグン(Samet Durgun)は、「その他のおすすめ」フォーマットに期待を寄せている。
「ユーザーの目的意識が高い広告枠ですから。同じようなアプリのダウンロードを望む人に対して広告が表示されるのを想像してみてください」
「Today」ページの広告が、ユーザーがアプリを検索する前に表示されることを考えれば、検索タブ広告と同様の効果を得られる可能性が高いとドゥルグンは言う。
アップルにどれくらいの収益をもたらすのか?
オーミディア(Omdia)の主席アナリスト、マシュー・ベイリー(Matthew Bailey)は、新たな広告がアップルの配信する広告のインプレッション数を3倍にするという仮説を立てている。そして、その仮説から、2027年までにアップルは年間10億ドル(約1350億円)の追加広告収入を得ることができると試算する。
アップル全体の広告売上は、2022年の推定53億ドル(約7155億円)から2027年までには90億ドル(約1兆2150億円)に増加するとベイリーは予測する。また、アレート・リサーチ(Arete Research)のアナリストは、アップルの広告事業は早ければ来年にも100億ドル(約1兆3500億円)に達すると考えている。
広告事業の次の一手
2022年初め、アップルは広告担当副社長のトッド・テレジ(Todd Teresi)を、サービス部門の最高責任者エディ・キュー(Eddy Cue)の直属の部下に昇進させた。このことから見ても、アップルが広告事業に対して大きな野望を持っていることは明らかだ。
業界関係者は、アップルが検索広告を他のアプリに拡大すると予測している。2022年8月、ブルームバーグのマーク・ガーマン(Mark Gurman)は、アップルが「マップ」への広告導入を検討していると報道したが、Insiderが取材した専門家の中には、そのような広告機能が導入されることやその導入時期について、アップルから情報を得ている人はいなかった。とはいえ、他の地域を見ると、アップルは最近、中国で検索広告を導入している。
「おそらく、プログラマティック分野をテストし、その方向へ移行しようとしているのだと思います」と、広告代理店ジェリーフィッシュ(Jellyfish)の有料検索担当ディレクター、ルイザ・デル・マスキオ(Luisa Del Maschio)は言う。マスキオはATT導入後、広告主がアップルの検索広告に押し寄せたと話す。
「彼らは、さらにどれくらいのお金が使えるのか試しているのです」
検索以外の分野では、アップルはアメリカのメジャーリーグベースボールの中継でも広告を提供しており、今後より多くのスポーツの権利を取得しようとしていると言われている。また、Disney+やNetflixのように、AppleTV+の他の分野にも広告を広げることは、理にかなっている。
アレート・リサーチのアナリストや他の専門家たちは、アップルがついに「本格的なモバイル広告ネットワーク」の立ち上げ準備に入ったのだと考えている。それは、2016年に運用を停止した休止中のiAdアプリ広告ネットワーク(編注:アップルが開発したiOSの携帯機器に対応したモバイル広告プラットフォーム)を再稼働させることを意味しているという。
(編集・大門小百合)