イーサリアムは待望のアップグレードを控えおり、2022年の安値から反発を続けて直近1カ月で39%上昇したとメサリ(Messari)社は指摘している。
7月に連邦破産法15上の適用を申請した暗号ヘッジファンドのスリーアローズキャピタル(Three Arrows Capital)など、業界大手が抱える問題の余波はいまだ広がっている。また、米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ対策に伴う融資コストの上昇で投資家のリスクオフ意欲の高まりも観測されている。
今回のイーサリアムの価格上昇は、このような状況下にもかかわらず起きたことになる。
仮想通貨市場は数カ月連続で損失を出した後、再び1兆ドル(約136兆円、1ドル=136円換算)を超える時価総額を記録し、以前の足取りを取り戻しつつある。イーサリアムのパフォーマンスに対し、競合する最古参の仮想通貨ビットコインは同期間中にわずか14%上昇したに過ぎず、後れをとっている。
業界の情報筋の中には、イーサリアムがビットコインの時価総額を追い抜くと予測する者もいる(ただし、いつ追い抜くかについての予想は分かれている)。デジタル資産ヘッジファンド、BKキャピタル(BKCoin Capital)のDeFi(分散型金融)ポートフォリオマネジャー、レン・ユー・コン(Ren Yu Kong)は、この「逆転」が今後5年以内に起きる可能性があるという。
「2022年の初め、どんな投資のプロに聞いても、答えは決まって『ドルコスト平均でビットコインに投資する』でした。イーサリアムは、もう少しリスクをとりたい人がポートフォリオの一部に加えるものと考えられていましたが、今その考えは間違いなく変わっているでしょうね」(コン)
とはいえ、イーサリアムの時価総額は現在、ビットコインの半分である。2022年8月16日現在、ビットコインの時価総額は4570億ドル(約62兆1500億円)であり、エコシステムの総額は1兆2000億ドル(約163兆2000億円)である。イーサリアムよりおよそ1200%多く取引されており、市場の40.27%を占めている。これに対し、イーサリアムの時価総額は2290億ドル(約31兆1400億円)だ。
アップグレード前の「強いシナリオ転換」
「マージ(The Merge)」と呼ばれるアップグレードを控えた過去6カ月間、「イーサリアムを支持する強いシナリオ転換があった」とコンは言う。
2022年9月中旬に予定されているマージは、イーサリアムのネットワークをエネルギー集約型のPoW(プルーフ・オブ・ワーク)からPoS(プルーフ・オブ・ステーク)モデルへと移行させるものである。
イーサリアム財団(Ethereum Foundation)によると、マージはネットワークのエネルギー使用量を99%削減し、「シャーディングなど将来のスケーリング・アップグレードのための準備となる」という。
コンはInsiderの取材に対し、イーサリアムがいずれビットコインを逆転するという主張について、3つの根拠を示した。
機関投資家の資金が流入
第一は、ネットワークのエネルギー使用量削減に成功すれば、イーサリアムのエコシステムに機関投資家の膨大な資本が流入する可能性があるということ。
「ビットコインと比較して、イーサリアムへの機関投資家のポートフォリオ割り当てが大幅に増えることは十分にありえます。特に、PoSシステムに移行した場合はなおさらです」(コン)
また、スマート・コントラクト・ネットワークは「より環境に優しいものになる」という。
イーサリアムのスケーリング・ソリューションを提供するオフチェーン・ラボ(Offchain Labs)のCTO兼共同創業者であるハリー・カロドナー(Harry Kalodner)は、ネットワークがPoSに移行することで「両通貨のブロックチェーンの間に新たな強い差別化要因が生まれる」と話す。
Insiderの取材に対して文書で回答したカロドナーは、「総合的に見れば、ビットコインが硬直化しているのに対し、イーサリアムはそのコア技術に関してイノベーションのサイクルを起こそうとする意欲を見せている」との見方を示す。
実用性で勝るイーサリアム
第二に、ビットコインと比較して、イーサリアムのネットワークには「実質的な」実用性があるとコンは言う。
スマート・コントラクト・ネットワークは、DeFiの基盤であり、その上で開発者は分散型アプリケーションを構築して展開することができる(ただし、イーサリアムのネットワーク上でNFTの鋳造などの機能を実行すると、高額なガス手数料がかかる場合がある)。一方、ビットコインは一般的にピアツーピア方式の取引システムであり、また価値の保存手段であると見なされている。
「この数カ月で、投資の専門家たちは、イーサリアムのほうが安全な投資先だという意見に傾いています。結局、イーサリアムには実用性がありますが、ビットコインにはありませんからね。現在の市場の条件下では、実用性と実質的な価値があるもののほうが良い投資案件になるわけです」(コン)
パッシブ収入にも役立つ
第三に、イーサリアムは利回りの面でもビットコインに優位性があるとコンは指摘する。イーサリアム・ネットワークでは「ステーキング」、つまりブロックチェーン上のトランザクションを検証することでパッシブ収入を得るというユースケースも確立されている。
ロケット・プール(Rocket Pool)やリド(Lido)のようなイーサリアム互換のステーキング・ソリューションを使うことで、イーサリアム保有者はポジションを売却することなく収益を上げることができる。
「イーサリアムはステーキング収益を得られるという点で実質的な価値があります。今後さらにスケールしていけば、世界のデジタル取引の大部分を担保するベースレイヤーとしての地位を確立できるでしょう」(コン)
12カ月以内に逆転が起こるか
一部のエグゼクティブはイーサリアムのアップグレードについてさらに強気を示しており、2023年中にイーサリアムの時価総額がビットコインを追い抜く可能性があると予測している。
ファンドストラット(Fundstrat)のデジタル資産担当バイスプレジデントのショーン・ファレル(Sean Farrell)は、ビットコインがアンダーパフォームするなか、同社は「逆転」の可能性を注意深く見守っていると話す。
8月12日のデリバティブ市場の市況メモによると、30日移動平均で比較した場合、イーサリアムのオプション取引量が史上初めてビットコインの取引量を上回った。ファレルによれば、これは「トレーダーの間でイーサリアム市場に比較的大きな注目が集まっている」ことの表れだという。
「我々はまだマージに内在する技術的リスクがあると考えており、この大イベントが実現するまでリスク評価を続けていくつもりです。と同時に、今のイーサリアムには、シナリオとファンダメンタルズの両方の観点から、今後12カ月間に市場時価総額でビットコインを上回る可能性が十分にあると考えています」(ファレル)
(編集・常盤亜由子)