微細藻類のユーグレナ(和名:ミドリムシ)を用いたバイオ燃料の製造や健康食品の販売を手掛けるユーグレナは、8月18日に2022年12月期第2四半期決算説明会を開催した。
今回の決算で、2021年に買収したキューサイの売り上げを決算に組み込んでからちょうど1年分が経過したことになる。グループ全体の上半期の売上高は215億8400万円と、前年同期間(2021年1月〜6月)と比較して約2.6倍になった。一方、営業損失は14億2200万円、最終損失は4億6500万円。営業損失のうち12億6700万円は、キューサイの連結子会社化によって生じた会計処理(棚卸資産のステップアップ)によるもの。
後述のとおり四半期ベースの売上高は2021年12月期第4四半期をピークに微減が続いており、通期売上予想は480億円から440億円へと下方修正している。
売上高は216億円と、前年同期比で2.6倍となった。ただ、通期の売上予想は440億円に修正された。
出典:ユーグレナ2022年度第2四半期決算説明資料より
冒頭、ユーグレナの永田暁彦CEOは、上半期の決算サマリーとして以下の3点を挙げた。
- 売上高は拡大しているものの進捗が芳しくなく、通期売上予想を480億円から440億円に修正。
- 調整後EBITDA※が上半期22.2億円と、通期予想(21億円)を超えた。ただ、通期予想は据え置き。
- バイオ燃料事業について、大きなニュースはなし。2025年の商業プラント完成に向けて、スケジュールどおり順調に進捗。
※EBITDA:ユーグレナが独自に指標としている、営業利益に助成金収入や株式関連報酬など複数の要素を加味した値。
2021年に買収が完了したキューサイの寄与も踏まえて、ユーグレナの上半期決算を整理していく。
「不調」の要因はユーグレナの既存商品
決算会見に臨むユーグレナの若原智広CFiO(左)と永田暁彦CEO(右)。
決算会見の画面をキャプチャ
ユーグレナの現状の売り上げのほとんどは、健康食品や化粧品などを販売する「ヘルスケア事業」によるものだ。
永田CEOは、ヘルスケア事業について大きく2つのポイントがあると話した。
一つは、買収前には「右肩下がり」だったキューサイの売り上げが、広告投資戦略などの見直しにより、安定して「横ばい」を維持しているということ。「今後、この立ち上がりを支援していくことが重要なことになる」(永田CEO)と、再成長に向けた準備を着実に進めているとした。
一方で気になるのが、キューサイを除く既存のユーグレナ製品の不調だ。
ユーグレナの売り上げの主力である、キューサイを除いた「直販」(いわゆる通販)の売上高を見ると、2021年度第4四半期をピークに減少傾向が続いていることが分かる(下の図)。
キューサイを除く「直販」の売上高を見ると、2021年第4四半期から8億円ほど減少している。なお、2021年度から2022年度へと決算期が変わる際に、ヘルスケア事業全体の売上高が急落している。これは、ユーグレナ側で一部の事業の報告セグメントと売上区分を変更したことが影響している。
出典:ユーグレナ2022年度第2四半期決算説明資料より
永田CEOは、
「従来のヘルスケア事業が、2021年第4四半期から減少傾向が続いています。投資できるブランド、効率的な広告パフォーマンスを確保できなかったことが実態でした。積極的な広告投資ができずに、利益(高いEBITDA)に回っていたと考えています」
と主な要因を語る。
また、ユーグレナのヘルスケア事業の売り上げを支えている「直販定期顧客数」、いわゆる通販の定期購入者も微減傾向が続いている。これが、通期の売上予想を修正する大きな要因となった。
「売り上げの減少と上半期の定期購入者数の減少は、非常に類似した推移を示しており、この数字が業績予想に大きく影響を与えています。上半期に(定期購入者の)お客様をどれだけ積み上げられるかが、下半期の売り上げに影響を及ぼしやすいんです。そういう意味では、上半期に十分な積み上げができなかった」(永田CEO)
ただその中でも、長期的に購入を続ける熱心な顧客層が見えてきているとも話す。下期以降、そういった顧客の獲得をさらに進めていく方針だ。
定期顧客数が微減を続けている。
出典:ユーグレナ2022年度第2四半期決算説明資料より
また、上期は、通販業界全体で、オンライン広告単価の高騰や、行動制限の緩和に伴う在宅率の低下によってオフライン広告の効果が低下しているという課題もあった。これがユーグレナのOEM商品の売り上げの伸び悩みにもつながった。
上半期は、そういった業界的にやりにくい環境が続いていた中でも、効果の高い商品への広告投資を進めつつ、効果の低い広告を徹底的に削除することで、利益に回す戦略を取っていたという。ただ、パフォーマンスが落ちていた商品の売り上げの下落が予想以上だったという。
「特に2021年度の売り上げを牽引していたC COFFEEブランドの不調は、2021年からの下落を作った一つの要因になっています」(永田CEO)
上半期に販売が始まった新ブランドの化粧品。
撮影:三ツ村崇志
ユーグレナは、多様なブランドを確保してパフォーマンスの高いものにリソース(広告費用)を投入しつつ、販売チャネルも開拓していくことで事業規模の拡大を図ってきた。基本的に、今後もこの方針は大きくは変わらない。事実、上半期にはいくつかの新ブランドを立ち上げており「一定のパフォーマンスを示しており、下期の成長に寄与することが期待できます」(永田CEO)という。
なお、Business Insider Japanが「円安やインフレの事業への影響」について問うと、次のような回答があった。
「上半期に大きかった円安やインフレは、ヘルスケア事業に対して大きな影響は与えていないと考えています。小さなところでは、肥料や養殖をやっている中で、原料調達における調達コストの増加などはありました。ただ、売り上げ400億、EBITDA20億という枠の中では大きな影響はありません」(永田CEO)
バイオ燃料の商業プラント「予備的基本設計は最終局面」
ユーグレナが開発する、バイオジェット燃料とバイオディーゼル燃料。
撮影:今村拓馬
ユーグレナでは、バイオディーゼル燃料や持続可能な航空燃料(SAF)の製造・販売をするバイオ燃料事業において、2025年に商業プラントを完成させるべく、予備的基本設計を進めている。
建設予定地やパートナー企業などはすでに決まっている。
「現在は予備的基本設計の最終局面です。年内には基本設計に入るというスケジュールは変わらず、2025年に完成することについても変更はございません」
と永田CEOは順調に進捗していると自信を見せた。
ユーグレナが示している、バイオ燃料事業に関する今後のスケジュール。現状、この通りに進んでいるという。商業プラントが本格稼働した場合、バイオ燃料事業だけで売上高が500億円規模になると試算している。
出典:ユーグレナ2022年度第2四半期決算説明資料より
バイオ燃料への需要は世界的に拡大しており、バイオディーゼル燃料、SAFの取引価格も
年々高まっている。
日本でも、国内の複数企業がSAFの製造に向けて動き出していたり、世界最大手であるフィンランド・Neste社が、伊藤忠を介して日本での販売を拡大したりと、バイオ燃料の導入に向けた動きが加速している。
「マーケットのデマンド(需要)は強く存在しているけれども、供給が少ないことで価格が高い状況が続いていると考えております。供給するプレイヤーが原則的に不足している状態は、これから5年、10年続いていくだろうと考えています」(永田代表)
ユーグレナは、2020年から同社が保有する実証プラントで製造したバイオ燃料の供給をスタートしており、これまでに50件以上の供給実績がある。
2021年6月には、航空機への燃料供給を実現。2022年6月からは、中部地方のガソリンスタンドでの一般販売も開始した。その他にも、バスや船、ヘリコプターなど、多彩な企業とコラボレーションを進めている。
「売り上げ・利益としての貢献はこれからになりますが、社会の中で特に浸透が遅れている日本において、(バイオ燃料の)購入・導入、そして体験をする機会をどんどん増やしていくことは着実に広がっていると考えています」
(文・三ツ村崇志)