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渋谷マルイ、50年の歴史に幕。生まれ変わる「木造商業ビル」はブームの火付け役になるか?

マルイ

渋谷マルイが、50年の歴史に幕を下ろす。左は1971年の開業当時のマルイ、右は2022年8月25日のマルイ。

写真:丸井グループ提供(左)、西山里緒(右)

渋谷マルイが今週日曜日、8月28日をもって一時休業する。

スクランブル交差点から130メートルほど離れた、公園通りと神宮通りの交差点に位置する渋谷のマルイ。現在のビルが開業したのは1971年で、その約50年の歴史に一旦、幕が下ろされることになる。

その後、2026年を目処に、6割が木造でできた「日本初の本格的な木造商業施設」として生まれ変わる予定だ。その決断の背景を、丸井グループの小売事業を担う丸井社長・青野真博氏に聞いた。

スティーブ・ジョブズ・シアターも手がけた建築事務所

スティーブ・ジョブズ・シアター

アップルのプレス向け発表会でもお馴染みの「スティーブ・ジョブズ・シアター」も、フォスターが設計を手がけている。

Reuters /FW1F/Pravin Char

建て替えの設計を手がけるのは、設計事務所「Foster+Partners(フォスター・アンド・パートナーズ、以下フォスター)」だ。

イギリスを代表する建築家、ノーマン・フォスター氏が率いており、イギリスのウェンブリー・スタジアムや、アップルの新本社を中心とする施設「アップルパーク」、「スティーブ・ジョブズ・シアター」などを手がけたことでも知られている。

丸井社長・青野真博氏

丸井社長・青野真博氏。渋谷マルイの木造化の話が持ち上がってから、世界の木造ビルを見て回ったと話す。

撮影:西山里緒

渋谷マルイの建て替えを検討し始めたのは2013年頃。「小売りから業態転換してゆくマルイの象徴となる施設を」と考える中、白羽の矢が立ったのがフォスターだった。

2018年、知人の紹介を通じてフォスターの担当役員と相対した時の苦い思い出を、青野氏は次のように振り返る。

気合いを入れ、丸井グループが目指す「サステナビリティ経営」のあり方について熱弁を奮った同氏。担当役員は数分間のプレゼンをじっと聞き、そしてこう告げたという。

ミスター・アオノ、あなたの言いたいことは分かった。しかし我々はもう50年も前から、今あなたが話したようなことに取り組んできたんだ

「当時は(フォスターが)サステナブル建築にそこまで注力していると知らず……。もっとも詳しい人に、温暖化だとか持続可能性だとか、釈迦に説法ですよね。本当、恥ずかしかった」(青野氏)

しかしこの出会いが思わぬ方向へと転がっていく。そこまで言うならば木造建築はどうか、とフォスター側から提案があったのだ。

「(木造商業ビルなんて)見たこともないし、考えもつかないじゃないですか。えっ、そんなことできるの?って最初はびっくりしました」

日本にも「木造ビル」ブームの足音

渋谷マルイ木造ビル・外観

新しい木造ビルは、地下2階~地上9階まであり、売り場面積は2800平方メートルになる予定だ。

提供:丸井グループ

実際、建築業がもたらす環境問題は深刻だ。

マッキンゼーのレポートによると、2017年に日本で排出された温室効果ガスのうち、建築部門による排出が1割を占めている(電力、産業、運輸部門に次ぐ)。

フォスター社は2019年、「ネットゼロ・カーボン・ビル・コミットメント」と呼ばれる宣言への署名を発表している。これは2030年までに、フォスターが建築する建物のうち、実際に使用されるものはすべてカーボンニュートラルになることを意味するという

建築業界の課題意識の高まりから、今、欧米では木造の高層ビルが急速に広まっている。

インターナショナル・マスティンバー・レポート 2022」によると、2020年から2034年にかけて、世界中で建設されるマスティンバー(※)の建築物の数は、2年ごとに2倍の数で増え続けると予測されている。

※マスティンバー:複数の木材を組み合わせ、コンクリートや鉄骨などに匹敵するまで強度を高めた集成材のこと(REDSHIFTより)。後述のCLTもマスティンバーの一つ。

ビルを木造にすることで、建築に使うコンクリートや鉄が減るため、それらを生産する際に生じる二酸化炭素の削減効果も期待されている。青野氏によると、同じようなビルを鉄骨で作る場合と比べ、二酸化炭素の排出量は2000トン削減できるという。

丸井グループも、2030年度までに事業活動で消費する電力の100%を再生可能エネルギーに転換する目標を掲げている。フォスターの提案に、青野氏も「ぜひやってみたいと思った」。

大きなハードルとなったのが耐火性の確保だった。

マルイ

人通りの多い渋谷で安全性を確保した“木造建築”は可能なのか(写真は2022年8月のマルイ)。

撮影:西山里緒

木造建築で火災に長時間耐えられる構造を作るのは困難なようにも思える。

しかし、日本でも2016年に建築基準法告示が公布・施行されたことで利用可能になった「CLT(Cross Laminated Timber、ひき板を並べた層を直交するように重ね、貼り合わせた木質材料)」という素材が解決策の一つとなった。

一般社団法人日本CLT協会によると、CLTは木材という特質を活かし、断熱性や遮熱性、遮音性などの効果も期待できるという。

「全部フィックスしてGOが出たのは2022年。4年かかった。もちろん耐震とか耐火だけではなく、それ以外の法律的な問題もクリアしなければいけなかった」(青野氏)

エレクトリカルな渋谷に、木のほっこり感を

marui-past

1971年(左)1985年の渋谷マルイの様子。小売り全盛期のマルイを支えた、シンボル的な存在だった。

提供:丸井グループ

現在の渋谷マルイは1971年に開業。

公園通りの坂の途中に位置する渋谷パルコ(1973年開業)、文化村通りのSHIBUYA109(イチマルキュー、1979年開業)と並び、「若者ファッションの街・渋谷」を牽引してきた。

「'80〜90年代、マルイは小売りを中心に伸びましたが、その時の象徴が渋谷店だったんです。スパークリングセールという、7月と1月の値下げのシーズンには、行列が駅までずうっと並んでいてね……」

しかしマルイに限らず、百貨店業態はコロナ禍以前から苦境が続いている。現在、丸井グループの営業利益の大半を占めるのが、エポスカードに代表されるフィンテック事業からの収益だ。

ドローンスクール

8月時点の渋谷マルイ。「ドローンスクール渋谷」などの店舗や、ポップアップも目立った。

撮影:西山里緒

今後は、スタートアップなどへの投資事業も掛け合わせ、長期的な収益増を狙う。新たな木造ビルは、そうした投資事業も含めた「新生・マルイ」のブランドイメージの象徴になって欲しい、と青野氏は意気込む。

マルイの発表に前後して、日本でも続々と木造ビルの新築が進んでいる。

2021年10月には、東京・銀座でヒューリックが木材と鉄骨を組み合わせた12階建てのビルを竣工。2022年5月には、大林組が純木造耐火建築物としては国内最高となる、高さ44メートル(11階建て)の高層ビルを完成させた。

2020年9月には、三井不動産と竹中工務店が、木造高層建築物として国内最大・最高層となる17階建の賃貸オフィスビルを東京・日本橋に建設する計画に着手すると発表している。2023年に着工、2025年の完成を目指す。

「渋谷は、エレクトリカルな看板が溢れている街。再開発されたパルコさんもスクランブルスクエアさんだって、モダンな近代建築の感じがある。その中に木の建物(があったらどうだろうと)。やっぱりほっこりするじゃないですか」

マルイの「日本初・木造商業ビル」の取り組みは、渋谷の街にも新たな「木造ビル」ブームをもたらすことになるのか。

(文・西山里緒

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