中国のスマホ市場は10年ぶりの低水準に沈んでいるが、iPhoneは堅調な販売を維持している。
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ガジェット業界にとって最大のイベントである新iPhoneの発売が近づいてきた。発表会の開催は9月7日が有力視されているが、中国では同じ日にファーウェイ(華為技術)のハイエンド端末Mate 50が発表されると噂されており、ハイエンドの頂上対決として注目されている。
iPhoneのシェアが半分を占め、グローバルで競争力のない日本メーカーも健闘している日本マーケットでは、中国メーカーの動向が見えにくくなっているが、8月には中韓で折りたたみスマホが4機種発表されるなど、iPhone追撃の動きや勢力図の変化が起きている。
ファーウェイのMate 50、iPhone 14と同日発表か
ファーウェイはハイエンド端末のMateシリーズを2年ぶりに発表する。
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中国では8月に入って、スマホ2機種のリークが相次いでいる。
一つはiPhone 14。主要生産拠点が中国にある上に、「アップルの預言者」として知られる著名アナリストも数年前から中国の証券会社に転籍し、中国発の最新情報が日々テック界隈をにぎわしている。
詳細なスペックや外観は春から夏にかけてほぼ明らかになり、今は価格や売れ行き予想に焦点が移っている。
さらに中国では、2019年までスマートフォン市場で世界2位だったファーウェイがiPhone 14の発表日にハイエンドモデルのMate 50をぶつけてくるという観測が浮上した(ファーウェイが同機種を9月7日に発表するという噂の方が先に出ていたので、アップルが後から重ねてきたという方が、より正確だが)。
ファーウェイでスマホ事業を統括する余承東(リチャード・ユー)氏はアップルへのライバル心をむき出しにし、最新技術を詰め込んだMateシリーズを、新iPhoneの発売直後に発表してきた。
だが、アメリカ政府の2019年の規制によってファーウェイはスマホの生産を封じられ、2021年はMateシリーズの新製品発表を断念した。2年ぶりに発表するMate 50は、規制の影響で5G通信には対応せず、Androidの代わりに自社開発の「HarmonyOS 3.0」を搭載する。チップは独自開発のKirin 9000Sを採用し、カメラも長年提携していたライカではなく、独自製品となるようだ。
ファーウェイの2021年のグローバルでのシェアはトップ5から陥落した。グーグルの技術を利用できず、HarmonyOS 3.0が中国でしか広がっていない中でハイエンド端末を発表するのは、「スマホから撤退しない」というメッセージを打ち出すためだろう。
スマホ市場は10年前の水準に縮小
中国のスマホ販売推移
Counterpoint
最新スマホへの関心は相変わらず高いが、中国のスマホ市場はゼロコロナ政策などによる経済減速の影響で、急ブレーキがかかっている。
市場調査会社のCounterpointによると2022年4-6月の中国のスマホ販売台数は同14.2%減となった。この数字はピーク時の2016年10-12月期の半分以下で、2012年10-12月期の水準だ。他の調査会社も軒並み、同期の中国のスマートフォン販売台数が2ケタ減になったと分析している。
Counterpoint のアナリストは「消費者心理の弱さと中国におけるスマホ普及率の高さが影響した」、Canalysのアナリストは「国内経済の低迷を受け、人々は所得の減少や失業率を懸念し消費を控えている」と指摘。上海のロックダウンが明け、消費回復の期待が寄せられた6月のネットセール「618セール」でも、スマホの販売台数は前年同期比10%程度減少し、マインドの弱さが浮き彫りとなった。
新型コロナウイルスの流行とマクロ経済の逆風による影響は年内いっぱい続くと予想され、2022年の販売台数は2012年以来最悪となる可能性もある。中国の主要メーカーの大半が出荷台数を大幅に減らしており、シャオミが8月19日に発表した2022年4-6月決算は、売上高が前年同期比同20%、純利益は同67%減少した。
とは言え、全社が市場環境に屈したわけではない。
2022年4-6月と2021年4-6月の中国市場のスマホ販売台数
Counterpoint
ファーウェイが規制を回避するために2020年秋に切り離したサブブランド「HONOR」はこの1年でシェアを一気に広げ、今年4-6月の出荷台数はCounterpointとCanalysの調査で中国2位、Strategy Analyticsの調査ではvivoを抜いて首位に躍り出た。
ファーウェイのサブブランドだった頃はローエンドにフォーカスしていたが、独立以降は商品ポートフォリオを拡充し、さらにロックダウンが及ばない中小都市に強かったこともあって、ファーウェイを含む全ての中国主要ブランドからシェアを奪うことに成功した。
新商品発表前にもかかわらず、アップルの出荷台数が前年同期から減っていないことも注目に値する。昨年発表したiPhone 13が好調なためで、裏を返せばファーウェイというライバルがいなくなった後、ハイエンド市場をほぼ独占している。例年、新iPhoneを発表する第3、4四半期がアップルにとって最も強い時期であり、中国市場でのシェアはさらに高まると見られている。
折りたたみスマホが中韓メーカーの戦場に
8月は折りたたみスマートフォン4機種が発表された。
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レッドオーシャンのミドル・ローエンドを抜け出したいが、ハイエンドではiPhoneの壁を越えられない中韓のAndroidメーカーが、最も有望視しているのが折りたたみスマホだ。
Counterpointは世界の折りたたみスマホ市場での出荷台数が、2021年の900万台から73%成長し、2022年に1600万台、さらに2023年には2600万台に達すると予測する。
物価高やコロナ禍で経済がぐらついてもラグジュアリーブランドや高級マンションが売れまくっているように、スマホでもプレミアム市場は経済の逆風の影響を受けにくいというのが、Counterpointの見立てだ。
折りたたみスマホのグローバルでのシェア(2022年1-3月)
Counterpoint
実際、8月10日、11日の2日間だけでサムスンのGalaxy Fold4、Flip 4、シャオミのMIX Fold 2、レノボ傘下・モトローラのMoto razr 2022と折りたたみスマホ4機種が発表された。中国ではファーウェイやOPPOも折りたたみスマホを出しており、Androidスマホの戦場の中心になりつつある。
同市場では世界で最初に折りたたみスマホを発売したサムスンが最も強く、2022年1-3月はグローバルのシェアの62%を獲得。ファーウェイが16%と続く。
スマホ全体で見れば折りたたみスマホのシェアはまだ小さく、サムスンとモトローラ以外のブランドの機種は基本的に中国市場でしか販売されていない。
iPhoneのシェアが半分を占め、シャープ、ソニーなど日本製品が20%以上のシェアを持つ日本では、折りたたみスマホを見かけることもほとんどないが、EV(電気自動車)のように近い将来、日本人が知らない間にグローバルのニューノーマルになっているかもしれない。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。