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「令和の鎖国」がついに終わる?コロナ水際対策緩和「早急に方向性示す」中身次第で日本経済は…

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「令和の鎖国」と揶揄(やゆ)される厳格かつ国際水準から大きく外れた水際対策が、貿易収支に深刻な影響を及ぼしている。岸田政権は緩和について「早急に方向性」を示すと言うが……。

Shutterstock.com

岸田首相は8月23日、外国人訪日客にとってのハードルの一つとなっている「入国前72時間以内の新型コロナ検査による陰性証明」を免除し、2万人の入国者数上限についても緩和する方向で検討に入ったことを明らかにした。

この決断が遅れたことの影響は、日本経済にとって相当に大きいと言わざるを得ない。

日本政府観光局(JNTO)が8月17日に発表した、2022年7月の訪日外国人客数は14万4500人にとどまった。パンデミック前の2019年7月(299万1189人)と比べて95.2%減だ。前月(2022年6月)は2019年6月(288万41人)に比べて95.8%減だった。

外国人観光客(インバウンド)受け入れが6月10日から段階的に再開されているものの、現在までにその効果はほとんど出ていないと言える。

観光庁の策定した「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」は、マスク着用や手指消毒、3密の回避など基本的な感染防止対策を求めた上で、民間医療保険への加入なども推奨する。守られない場合、ツアーの打ち切り可能性も示唆されている。

そうした前提の上に、ビジネス客含めて「1日当たり約2万人」の入国者数上限が設定されているのが現状だ。外国人が堰(せき)を切ったように日本に流れ込んでくる理由はない。

世界の主要国ではすでに入国制限が撤廃され、マスク着用者も目立たなくなっている。水際対策に限って言えば、日本よりも自由な国がほとんどで、その自由な国からより不自由な国に、わざわざお金をかけてまでやって来る外国人の姿が筆者にはなかなか想像できない。

なお、現時点で外国人が日本に入るのは難しいが、日本人が外国へ出ることについては諸外国の規制緩和も手伝って、5月が90.7%減、6月は88.7%減、7月には83.3%減と(正常化にはほど遠いものの)回復基調を確認できる。

7月の出国者数は27万7900人と、2020年3月以来の20万人台を回復。夏季休暇が本格化する8月の出国者数はさらに増えると思われる。

言ってみれば「日本人が出るのはいいが、外国人が来るのは駄目」というこの理不尽な政策の実態は、下の【図表1】に示す通りだ。

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【図表1】訪日外国人と出国日本人の推移。3年前対比の割合をプロット。

出所:INDB資料より筆者作成

「令和の鎖国」の深刻な影響

岸田首相は「早急に方向性を示す」としているものの、規制緩和の内容が「日本人が出るのはいいが、外国人が来るのは駄目」という現在の構図を大きく変えるものでなかった場合、どうなるだろうか。

外貨の支払いは増えるが受け取りは減るので、当然、為替は「円売り・外貨買い」が拡大することになる。金融用語で言えば、国際収支(すべての対外経済取引)の中のサービス収支、より具体的には旅行収支に影響が出てくる。

最新の2022年上半期(1~6月)までの国際収支統計について、サービス収支と訪日外国人客数の動きをプロットしたのが、下の【図表2】だ。

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【図表2】サービス収支と訪日外国人客数の推移。

出所:日本銀行資料より筆者作成

インバウンド全盛期の2018~2019年と比較して、パンデミック後の訪日外国人客数は「蒸発」と表現して差し支えない状況が続く。

さらに驚くべきことに、最新の旅行収支はパンデミック発生直後の2020年、2021年より悪化している。2022年上半期の旅行収支は828億円の黒字で、2020年上半期の4207億円、2021年上半期の1062億円を下回る。

世界的に入国規制の緩和が進み、日本については劇的な円安もあって、圧倒的に旅行収支黒字を稼ぎやすい環境があるにもかかわらず、逆に黒字が減っていく理由は、「令和の鎖国」と揶揄(やゆ)されるここまでの政策の副産物と言うほかない。

弱くなっている通貨(円安)を携えた日本人だけ海外渡航が許されているのだから、外貨の支払いによる流出幅がより大きくなるのは当然で、一方で外国人は門前払いなので、外貨の受け取りによる流入幅が小さくなるのもやはり当然の帰結。旅行収支が改善するはずもない。

「一石二鳥」のインバウンド解禁

岸田首相は8月10日に「主要7カ国(G7)並みに円滑な入国が可能となるよう緩和の方向で進めていきたい」と発言。冒頭で触れたように、8月23日には水際対策について「早急に方向性を示す」と緩和を検討していると明らかにした。

それでもなお、一切の制限を設けないインバウンド全面解禁が行われる展開は、筆者には想像できない。そうである限り、旅行収支黒字の回復も見込めない。

パンデミック前、2019年の経常収支は20.1兆円の黒字、うち旅行収支の黒字分は2.7兆円だった。ところが、2022年上半期の経常黒字は約3.5兆円まで落ち込み、旅行収支はもはや軽視できる項目ではなくなっている。パンデミック前の黒字規模を実現できれば、経常収支に大きく貢献することになる。

もちろん、パンデミック前にインバウンドの約3割を占めた中国がゼロコロナ政策を続ける限り、日本の旅行収支黒字が往時の水準を取り戻すのは難しい。

だが、そうした外的環境の制約以前の問題として、外国人を門前払いすることで自ら旅行収支を苦しめている現状があることはしっかりと認識しておきたい。

2019年上半期の旅行収支は、月平均で2356億円の黒字を稼いでいた。それが、2022年上半期に月平均138億円、わずか3%まで落ち込んでいる。

同時期の貿易収支に目を向けると、2019年上半期は月平均54億円の黒字、2022年上半期は月平均9448億円の赤字。したがって、旅行収支黒字が全盛期だった2019年上半期の水準(2356億円の黒字)を回復できたとしても、足元の貿易赤字の月平均(9448億円)の半分も埋め合わせられない

それだけ厳しい状況にもかかわらず、自ら外国人を追い返してわざわざ円売りを加速させようとしているわけだ。

それでも、厳格な入国制限に伴う水際対策が合理的な効果を持つならばまだ納得できるが、それだけ徹底した(と自負する)コロナ対策をとっているにもかかわらず、日本の新規感染者数は世界最多、死者数は(日本の3倍近い人口を抱える)アメリカに続いて世界2位という現実がある(世界保健機関[WHO]調べ、8月14日までの1週間が対象)。

主要国がすでに放棄した入国制限やマスク着用に拘泥している日本の現状は、もはや冷静な判断能力を欠いていると言わざるを得ず、科学的な対策というよりも情緒的な信仰に近い。

いまだにパンデミック前(2019年7〜9月、消費増税による減速著しい10〜12月は比較対象から除いた)の国内総生産(GDP)成長率を回復できていない日本経済の現実を直視し、一刻も早く国際社会に門戸を開いてほしい。

鎖国政策の修正は、円安環境を活かし、内需の刺激まで狙える一石二鳥の政策だと筆者は考えている。岸田政権の水際対策緩和の具体的内容は今日にも発表されるとのこと、朗報を待ちたい。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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