米資産運用大手ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)は、夏場の株価上昇に減速感があることを認めつつ、ハイテク銘柄は2023年にかけて強気との投資判断を維持する。
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米資産運用大手ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)でテクノロジー・ソフトウェア分野をカバーする名物アナリスト、ダン・アイブスがInsiderの取材(8月22日)に応じ、毎夏恒例の相場上昇は騰勢を失いつつあると指摘、株式市場は「岐路に立たされている」と結論した。
ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)やバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)などウォール街の巨大金融企業は、6月16日から8月16日までの2カ月間にS&P500種株価指数が17.4%の上昇を記録したことについて、あくまで弱気相場の一時的上昇局面に過ぎず、再度の失速が近いと見ている。
なお、S&P500種指数は8月16日からの1週間(8月23日終値時点)あまりで4%下落した。
長年の強気筋として知られるアイブスは、8月21日の顧客向けメールで、先行きを懸念する理由がいくつかあることを認めた。
なかでも最大の懸念は、すでに景気減速が確認されている状況にもかかわらず、米連邦準備制度理事会(FRB)が粘着性の高い高インフレの沈静化を目指して、積極的な利上げを続けるかもしれないということだ。
ただ、そうしたリスクが存在することを認識した上で、アイブスは2022年下半期のハイテク銘柄のパフォーマンスを「断固として」強気の投資判断とする。
人工知能(AI)やサイバーセキュリティなどのトレンドがハイテク銘柄の長期的成長をけん引するとの確信を抱くアイブスは、数年単位で見れば、2022年上半期の弱気相場など刹那的な現象に過ぎないと考える。
ハイテク企業の第2四半期(4〜6月)業績は(平均して)市場予想を上回り、企業の投資意欲も著しい回復を見せていることから、アイブスは足元ですでに減速感の見られるサマーラリー(夏場の相場上昇)が秋口までは続くと予測する。
「ハイテク銘柄は決算発表シーズン前の調整(下落)幅が大きすぎました。ウォール街はアルマゲドン(破滅的事態)を予測していたのですが、結果としては杞憂(きゆう)に終わったと言っていいでしょう」(アイブス)
次に「来る」銘柄は…FRB次第
注目された第2四半期決算シーズンも終わり、投資家の関心は、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で決定される利上げ幅が0.5ポイントになるのか、それとも3回連続の0.75ポイントになるのか、判断の手がかりを見つけ出すことに向けられている。
現時点(8月25日)の市場予想(利上げ織り込み度)は6対4で0.75ポイントとの見方が上回っているが、可能性が高いと判断される7対3には至っておらず、見通しは立たない。
8月25日から米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるFRB(カンザスシティ連銀主催)の国際経済シンポジウムで、パウエル議長が語るすべての言葉が市場を左右することになるだろう。
大幅な利上げはインフレ抑制の成功につながる可能性もあるが、一方で景気後退入りの可能性を高める面もあると警鐘を鳴らす専門家もいる。
同業他社同様、アイブスもFRBが利上げサイクルを継続すると予測しているものの、景気後退が伴うとは必ずしも考えていないようだ。
アイブスの予測が的中し、FRBが景気後退を招くことなくインフレの沈静化に成功するソフトランディングを実現できれば、ハイテク銘柄はすぐにでも上昇に転じるとの見方に違和感はない。
アイブスは先行きを次のように分析する。
「2022年下半期から2023年にかけて、FRBがハト派転換する兆候が見受けられます。
利上げサイクルの終了に、ソフトウェアやサイバーセキュリティ分野、盤石の経営基盤を誇るテック大手など、堅調な業績を維持するハイテク企業のファンダメンタルズを併せて考えれば、株式市場が上昇基調に転じる可能性は高いと思います」
ポートフォリオに加えるべきハイテク4銘柄
第2四半期決算シーズンでは、アイブスがアナリストとしてカバーする米ライドシェア大手ウーバー(Uber)、リフト(Lyft)などが好業績を発表し、7月後半から8月上旬にかけて株価を一定程度回復した。
しかし、アイブスが最近の顧客向けメールで示した推奨ハイテク銘柄の中にそれらの名前はなかった。代わりに並んだのは、マイクロソフト(Microsoft)、アップル(Apple)、パロアルト・ネットワークス(Palo Alto Networks)、セールスフォース(Salesforce)という4銘柄だった。
「マイクロソフトとアップルの決算はこの(高インフレ、サプライチェーン問題などの)逆風に対してまさに驚異的な内容でした。株式市場が7月末から顕著な回復に転じたのは、両社のパフォーマンスによるところが大きいと思います」
マイクロソフトの第4四半期(4〜6月)決算は売上高、純利益とも増加したものの、市場予想は下回った。
それでも、2023会計年度(2022年7月〜23年6月)業績については、クラウド事業の契約大型・高額化に後押しされた力強い見通しを示しており、アイブスはそれを根拠に15%の株価上昇を予測する。
また、アップルの第3四半期(4〜6月)決算は売上高、利益ともに増加し、いずれも市場予想を上回った。中国のゼロコロナ政策による供給制約が売上高を大きく押し下げる可能性があったが、悪影響は想定以下にとどまった。
アップルはパンデミック発生以降、業績見通しの発表を見合わせているが、それでもアイブスは8月半ばに同社の目標株価を200ドルから220ドル(プラス31%)に引き上げている。
景気後退が加速しても、9月上旬に発表される新型「iPhone 14」は販売好調が予測されるというのがその理由だ。
パロアルト・ネットワークスは8月22日の立会時間終了後に第4四半期(5〜7月)決算を発表、2023会計年度(2022年8月〜2023年7月)の業績見通しも力強い内容で、投資家を大いに喜ばせた。
売上高は前年同期比27%増の15億5000万ドルで、市場予想の中央値をわずかに上回り(ただし予想レンジ内)、1株当たり利益も市場予想を大きく上回った。
決算に合わせて株式分割を発表したことも(受け取り配当が増えることから)投資家に評価され、株価は業績発表前の508ドルから561ドルへと10%の急上昇を記録した。
アイブスはこの動きに満足しておらず、サイバーセキュリティへの企業支出が今後複数年にわたって続くトレンドであり続けると想定されることから、さらに620ドルまでのアップサイド(上振れ余地)があると見る。
最後にセールスフォースについて、アイブスは第2四半期(5〜7月)決算が市場予想を上回ると予測していたが、実際その通りになった。売上高については、市場予想レンジ内かやや上回るとの予測だったが、的中してわずかに上回った。
アイブスはセールスフォースの株価に最大27%のアップサイドを予測する。ウォール街はクラウド需要の力強さを過小評価しているというのがその理由だが、一方で(景気後退に備えた)企業の支出抑制がもたらすネガティブな影響も注視する必要があると付け加えている。
なお、同社は決算発表に際して2022会計年度(2022年2月〜2023年1月)の通期業績見通しも発表したが、他のクラウド関連企業と同様に売上高見通しを下方修正したため、立会時間終了後の時間外取引で大幅下落を記録している。
(翻訳・編集:川村力)