日本未展開のオンライン薬局事業「Amazonファーマシー」、アメリカにおけるその認知度、ビジネス貢献度の実態が明らかになった。
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アマゾン(Amazon)のオンライン薬局事業は、同社サービスを愛用する最も忠実な顧客を増やすのにあまり貢献していないことが、米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)の最新調査によって明らかになった。
同社の有料会員サービス「Amazonプライム(Prime)」のユーザーに対して加入した理由を聞いたところ、処方せん対応オンライン薬局「Amazonファーマシー(Pharmacy)」の利用を目的とした加入は、回答者のわずか2%にとどまった。
ファーマシー目的の加入者は最も少なく、大半は無料翌日配送や動画配信など他の会員特典サービスを挙げた。
無料ゲームやゲーム内コンテンツへのアクセスを提供する「プライムゲーミング(Prime Gaming)」や生鮮食品・日用品などのネットスーパー「Amazonフレッシュ(Fresh)」などは苦戦中と報じられているが、その通り、いずれも加入目的に占める割合はひと桁台だった。
この調査結果は、アマゾンのオンライン薬局事業がプライム会員にほとんど浸透していない実情を示している。
プライム会員は非会員より同社ECサイトでの消費額と購入頻度が高いことが明らかになっており、したがって会員数の拡大はアマゾンの業績向上を左右する重要な指標と位置づけられる。
周知の通り、プライムはアマゾンの有料会員向けプログラムで、月額または年額の固定会費を支払うことでさまざまな特典を受けられる。
同社のジェフ・ベゾス前最高経営責任者(CEO)は2021年4月の株主向け公開書簡で、全世界のプライム会員数が2億人を突破したことを明らかにした。
アマゾンの広報担当は、プライム会員特典に関して、ローンチからさほど時間が経っていない処方せん対応オンライン薬局サービスと、無料翌日配送や動画配信サービスを直接比較するのはアンフェアだと指摘する。
「ファーマシーのような比較的新しい会員特典と、プライムビデオや翌日配送のような(すでに実績のある)特典を比べるのは、適正な同一条件での比較とは言えません。
プライム会員向けに処方薬の無料配送や提携薬局での購入割引などを提供するようになってからまだ日が浅く、当社としては(短期間の会員拡大を狙うのではなく)医療サービスをより手軽に、より手ごろな価格で提供することを目標に、長期的な視点で取り組んでいく考えです」
ここでモルガン・スタンレーによる最新調査結果の詳細を見てみよう。アマゾンが長期的な視点のもとに取り組むオンライン薬局事業を目的としたプライム加入は最下位だ【図表1】。
【図表1】アマゾンプライム加入の理由。トップは無料翌日配送、続いてプライムビデオ、無料即日配送、割引、プライムミュージック(Prime Music)などとなっている。
出所:モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)資料よりInsider編集部(Andy Kiersz)作成
アマゾンがオンライン薬局事業をローンチさせたのは2020年11月。オンライン薬局スタートアップのピルパック(PillPack)を7億5000万ドル(当時は10億ドルと報道された)で買収すると発表したのが2018年6月で、それからおよそ2年半でファーマシーブランドの展開に至ったことになる。
事業はここ数年間で何度かにわたって変化を遂げ、最近では、初期診療を提供する「アマゾンケア(初期診療サービス)」、オンライン薬局「アマゾンファーマシー」、パートナー企業との協業を通じて補完的サービスを提供する「パートナーサービス」、ユーザー体験改善を技術面で支える「ストアフロント・シェアードテック」から成る医療関連事業4本柱の一つに位置づけられた。
同社は最近も医療関連事業の強化を進めている。
7月には会員制のプライマリ・ケア(初期診療)事業を展開するワン・メディカル(One Medical)を39億ドル(約5300億円)で買収することを発表。
続いて8月、在宅医療技術・サービスを提供するシグニファイ・ヘルス(Signify Health)の買収合戦に参加していることが、米ウォール・ストリート・ジャーナルの報道で明らかになっている。競合は米医療大手ユナイテッドヘルス・グループ(UnitedHealth Group)やドラッグストア最大手CVSヘルス(CVS Health)だ。
アマゾンのアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は2021年の従業員総会で、同社は医療分野におけるディスラプター(創造的破壊者)になると宣言している。
(翻訳・編集:川村力)