リモートワークは便利で家族生活にもプラス、でもオフィスでの対面勤務でないと得られないものもある…そんな複雑な心理を多くの従業員が抱えている。
Sanjeri
リモートワークはもはやパンデミック下の一現象ではなく、企業の職場運営にとって不可欠の要素として定着した感がある。
一方、各企業の従業員たちの間では、同僚と同じ職場で過ごしたリアルな時間と経験は貴重なものだったとの思いが強まっているようだ。
ベンチャーキャピタルのワークライフ(Worklife)が実施した小規模調査の結果によれば、アメリカのテクノロジー関連企業に勤務する従業員のおよそ半数が、オフィス出社して働くほうが企業カルチャーの形成や従業員の士気、生産性向上などの面で優位性が高いと考えているという。
ワークライフは7月、アメリカのテクノロジー関連スタートアップに勤務する18歳から60歳の従業員575人を対象に、将来の働き方に関する調査を行った。
在宅勤務のほうが生産性が高いと考える回答者は80%以上に達し、パンデミック前の通勤生活に戻る可能性は選択肢として視野に入っていないことが明らかになった。
ただ、従業員にオフィス出社を原則義務としている企業の経営者からの回答に限ると、見方は真っ二つに分かれた。スタートアップ経営者の約49%は、オフィス勤務が企業カルチャーの形成に良い影響をもたらすと回答したのだ。
とは言え、そうした見方に賛同しない経営者も51%いるという事実は当然無視できない。なかには、「従業員にオフィス出社を強要する経営者はいまだに過去を生きている人間」との辛辣(しんらつ)な意見もあったようだ。
先述のようにリモートワークの支持者は圧倒的多数を占めるものの、諸手を挙げてバーチャル勤務に賛成、といった単純な話でもない。
仮想空間では代替できないオフィスの「社会的」側面が失われたことを惜しがる向きも多く、調査に回答した従業員の54%はオフィス勤務を通じて得られる友情や仲間意識を、同47%は出社のために家の外に出ることで得られる環境変化を、大きな損失と感じていることが分かった。
調査を実施したワークライフのプラットフォーム責任者を務めるエリカ・ヴェンガーは現状を次のように分析する。
「ポストコロナ時代における企業や同僚との関係はどんなものになるのか、確実なことを言える人はまだどこにもいない不透明な状況です。
従業員と創業者との間で活発なやり取りが日々行われているスタートアップは多く、それは素晴らしいことなのですが、一方で経営者と全然対話の機会がないアーリーステージのスタートアップもたくさんあります。
スタートアップには若いZ世代の従業員が多く、自分たちがまだキャリアの浅いエントリーレベルであることを認識しているので、メンターや人的ネットワークを必要としているのです」
シカゴ大学やスタンフォード大学らの合同研究チームが実施した別の調査によれば、Z世代の従業員たちの多くは在宅勤務を好まず、オフィスに出社して職場での人間関係を構築したいと考えているようだ。
そして、この感覚はZ世代に限らず、世代を超えて共通であることも明らかになっている。
オフィスマネジメントソフトウェア開発のエンボイ(Envoy)がアメリカのフルタイムおよびパートタイム従業員1000人を対象に行った調査(2021年2月)によれば、週数回出社義務のある従業員の52%が同僚のスケジュールを見て出社日を決めると回答している。
また、オフィス出社を希望する理由として、回答者の23%は同僚に会えることを挙げている(ちなみに、上司と過ごす時間が必要だからと答えたのは18%)。
ただし、上記のような意見があるからと言って、従業員たちが躍起になってオフィス出社再開の声を上げているのかと言えば、やはりそんなことはない。
ワークライフの調査に回答した従業員の半数以上は、在宅勤務を継続したい理由として、通勤時間を減らして家族や友人と過ごす時間をより長く取れることを挙げている。
また、回答者の大半は、仮に給与引き上げを条件にオフィス出社を求められても拒否してリモートワークを継続したいと考えている。
さらに、経営側がオフィス出社要請に応じない従業員を解雇するスタンスをとった場合、リモートワークが可能な転職先を探すとの回答はほぼ半数に及んだ。
(翻訳・編集:川村力)