日本の政治はなぜ「旧統一教会」の説明責任を果たさないのか。トランプの責任追及進むアメリカから思うこと

おとぎの国のニッポン

REUTERS/David 'Dee' Delgado

安倍晋三元首相の銃殺事件から1カ月半あまり、日本ではこの数週間、国会議員と旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関わりについて日々次々に新たな事実が浮上している。

清和会幹部であり、安倍元首相の後継者と目されてきた萩生田光一政調会長、2022年7月の参院選で当選したばかりの生稲晃子議員、細田博之衆院議長、高市早苗経済安全保障担当相、山際大志郎経済再生相、下村博文前自民党政調会長などが、教団および関連組織との関わりについて問われ、次のように説明している。

「(旧統一教会の霊感商法などについては理解していたが)その後は悪いうわさを聞くこともなかった」「呼ばれたので伺った」「(旧統一教会系の)施設とは知らなかった」(萩生田氏)

「(自身が統一教会施設を訪問していたと把握したのは)岸田首相がそれぞれ調べるようにと言ったときに調べて分かった。本当に最近のことだ」(生稲氏)

「旧統一教会と何らかの関わりがある本だということも知りませんでした」「当時(2001年)はスマホがなく、発行元(世界日報社)がどういう会社か知らなかった」(高市氏)

いずれも説得力に欠けると言わざるを得ない、苦しい回答だ。細田衆院議長などは、教団関連団体のイベントにおける写真がSNS上で多数流れているにもかかわらず、本人は説明をしないままだ。

目下最も注目を集めている萩生田氏が、記者から統一教会との今後の関係について聞かれた際に「関係を断ち切る」と言わず、「適切な対応をしていきたいと思っています」と答えているのも歯切れが悪い。

一方、週刊新潮(2022年8月25日号)では「萩生田さんは家族同然」と語る統一教会関係者の証言も掲載されたほか、TBSの報道特集は萩生田氏が旧統一教会の関連団体で講演していた記録を独自入手し、その中に「一緒に日本を神様の国にしましょう」という言葉があったことを報じている。

本来なら調査委員会を設けるレベル

萩生田氏に限らず、このように隠していた事実が次々に判明するということの繰り返しは、「まだ何か隠しているのではないだろうか」という不信感を強める結果を招いている。旧統一教会について聞かれると、今、多くの政治家たちは「今後は関係を持たない」と宣言するが、「これまで」のことをきちんと説明せずに「これから」のことを約束されても、信用のしようがない。

旧統一教会との接点が取り沙汰された閣僚をリセットするために踏み切ったと見られる岸田政権改造内閣も、リセットには程遠かった。ふたを開けてみると、入閣した7人の議員に加え、副大臣・政務官の計54人のうち23人が旧統一協会と関係ありと報じられ(数字はいずれも本稿執筆時点)、「統一教会隠蔽内閣」などと呼ぶ声すらある。むしろ、共産党の小池晃書記局長が指摘していたとおり、「もはや自民党は(旧)統一教会と関係を持たない議員では組閣が出来ない」ということを示してしまった感じだ。

岸田内閣の写真

8月10日に発足した第2次岸田改造内閣。だが入閣した複数の閣僚にも旧統一教会との接点が指摘される事態に陥っている。

REUTERS/Issei Kato/Pool

東京新聞は、2017年11月発足の第4次安倍内閣から第2次岸田改造内閣までの閣僚のうち、少なくとも22人に旧統一教会と何らかの接点が確認されたとしている。

これだけ自民党と教団との関係の深さと広さが明るみに出てきてもなお、自民党の茂木敏充幹事長は繰り返し「党として組織的な関係はない」と、個々の政治家に任せるという姿勢をとっており、党としては見直す期限や関係があった場合の報告義務などは求めていない。

与党は野党が求める臨時国会の早期召集にも応じない構えだが、それでは国民はもはや納得しない段階に来ているのではないだろうか。例えば8月10〜11日に行われた共同通信の世論調査では、「自民や所属議員の説明が不足している」との回答が89.5%にのぼっている。

なお、旧統一教会との関係が明るみになっているのは、自民党議員が多いとはいえ、自民だけではない。例えば立憲民主党は、8月19日、岡田克也氏を幹事長に起用すると発表したが、岡田氏は旧統一教会と関係の深い日刊紙『世界日報』のインタビューを過去3回受けていたことを8月10日に認めており、「このタイミングでのこの人事は、旧統一教会問題の重大さを理解していないことの表れでは?」と物議をかもしている。

反社会的な問題を繰り返し起こす団体の宗教法人認証の取り消しを含め、フランスのようなカルト規制法について検討を進めるべきではないかという声も高まっている。一方で、信教の自由を理由にした慎重論も根強く、特定の宗教団体が反社会的であるかどうかについて政府が判断するべきでないという考え方もある。

たしかに反社会的カルトとそれ以外の宗教団体との間に線を引く作業はデリケートな判断を求められるものであり、簡単に白黒がつけられる話ではない。ただ、だからといって即ち不可能ということもないだろう。1960年代以来、旧統一教会が日本でどんな問題を起こしてきたかは、教団が起こした事件の裁判記録を振り返れば分かるはずだ(それらは氷山の一角かもしれないが)。

いずれにしても、これまでの旧統一教会と政治の関係、今後カルトをどう規制していくのかについて、国会の場できちんと議論していくことは、これだけさまざまな事実が明るみになってきている以上、今どうしても必要なことだろう。

日本では、1995年の地下鉄サリン事件が起きた時ですら、国会の場でカルトについてしっかり議論しなかった。あの時、オウム真理教について徹底的に追及し、適切な対策を講じていたなら、旧統一教会、幸福の科学、そしてそれ以外のカルトについても、過去25年あまりの間に未然に防げた被害が大いにあったのではないかと感じる。

このたびの安倍元首相殺害の全貌はまだ明らかになっていないとはいえ、旧統一教会と政治との関係が根底の原因であった可能性がある以上、本来ならば、独立調査委員会を設け、公の場で徹底的に追及されるべき話なのではないだろうか。

ちょうど今アメリカでは、連邦捜査局(FBI)によるトランプ前大統領への追及が話題になるとともに、2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件に関する下院特別調査委員会の公聴会が行われている。これらの様子を見ていると、難題が山積とはいえ、アメリカの政治の世界には、権力に対するチェック&バランスの機能が曲がりなりにも働いているような気がし、多少なりとも救われるものを感じる。

アメリカでそれが可能になっている理由は何なのだろう。また、日本もアメリカも同じ民主主義ならば、なぜアメリカにできることが日本ではできていないのだろう?

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