米アマゾン(Amazon)が3年前にローンチさせた法人向けオンライン医療サービス「アマゾン・ケア(Amazon Care)」を2022年末で終了する。
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アマゾン(Amazon)が、法人向けのオンライン医療サービス「アマゾン・ケア(Amazon Care)」を終了することが分かった。
自社の従業員向けサービスとしてスタートさせてから3年、大企業向けのサービスとして全米展開する計画を発表してから1年半で事業に見切りを付けた形だ。
Insiderは、この決定を従業員向けに伝えた、シニアバイスプレジデント(ヘルスサービス担当)のニール・リンゼイからの内部メールを入手した。送信日は8月24日で、2022年12月末をもってアマゾン・ケアを終了することに触れている。
社内メールの存在は、医療関連のビジネス情報サイト「フィアース・ヘルスケア(Fierce Healthcare)」が最初に報じた(8月24日付)。
サービス終了の決定について、メールには以下のように記されている。
「この決定は軽々しくなされたものではなく、何カ月にもわたる慎重な検討の結果、そうせざるを得ないという結論に至ったものです。
法人会員にはアマゾン・ケアの多くの側面について好意的に受け止めていただいているものの、私たちがターゲットとする大企業にとっては完全なサービスとは言えず、また、長期的に機能するものでもありませんでした」
今回の決定が不可解なのは、アマゾンが低迷していたヘルスケア事業をテコ入れする一手として、会員制のプライマリ・ケア(初期診療)事業を全米展開するワン・メディカル(One Medical)を39億ドル(約5300億円)という巨額で買収すると発表してから、わずか1カ月ほどしか経っていないことだ。
この買収を通じて、アマゾンは全米で200以上のクリニック、79万人の個人会員、8500の法人会員を手に入れることになる。対面診療のワン・メディカルとオンライン診療のアマゾン・ケアを組み合わせることで、アマゾンのプライマリ・ケア事業は大きな成長機会を獲得できる——多くの専門家はそう見ていた。
「アマゾン・ケア」の実情は…
アマゾン・ケアは専用アプリを通じたオンライン診療と訪問診療を提供している。当初はアマゾンの従業員向けサービスとしてスタートし、現在ではホテルチェーンのヒルトン(Hilton)、無線機器のシリコンラボ(Silicon Labs)、人材派遣のトゥルーブルー(TrueBlue)といった大企業を会員に抱える。
法人会員はアマゾンに月額料金を支払うことで、自社の従業員がアマゾン・ケアのサービスを利用できるようになる。ただ、Insiderが2021年夏に報じた通り、法人会員獲得のペースは遅く、医療保険の対象とするための保険会社との交渉も難航している。
米ワシントンポストの最近の報道(8月19日付)によると、アマゾン・ケアは法人会員の従業員によく利用されているものの、事業の拡大を急ぐあまり医師や看護婦などの人材獲得が追い付いておらず、患者が適切に治療されないまま放置されているケースがあるという。
そうした状況のもとでも、アマゾン・ケアはサービス提供エリアを急速に広げてきた。Insiderが過去記事(2月8日)で報じたように、シアトル、ワシントンDC、アーリントン、ボルチモア、ボストン、ダラス、オースティン、ロサンゼルスの各都市で新たに利用できるようになった。
同記事の取材当時、アマゾンは顧客の需要次第で変更の可能性はあるものの、2022年中にサンフランシスコ、マイアミ、シカゴ、ニューヨークなど、さらに20都市以上にサービスを拡大する計画を持っていると述べていた。
結局、こうした拡大策は水泡に帰すことになる。そして、アマゾン・ケアの会員企業の従業員たちは医療アクセスへの機会を失うことになる。
最後に、アマゾン・ケアからの撤退を表明した社内メールの全文を紹介しておこう。
ヘルスサービスチームの皆さん
私たちヘルスサービスチームは、重要かつ使命感のある事業機会に取り組んでいます。私たちは、人々が健康を手に入れ、それを維持するために必要なヘルスケア製品・サービスへのアクセスを容易にする、というビジョンを持っています。
それは簡単なことではなく、すぐに達成できるものでもありませんが、重要な使命であることは間違いありません。
過去数年間、私たちがこのビジョン達成に向けて取り組んできたことの一つが、プライマリ・ケア・サービスの「アマゾン・ケア」です。私たちは法人会員やその従業員からの幅広いフィードバックを収集し、耳を傾け、顧客体験を継続的に改善するためにサービスを進化させてきました。
しかしながら、こうした努力にもかかわらず、アマゾン・ケアは企業顧客にとって長期的なソリューションとして適切ではないと判断し、2022年12月31日をもってサービスの提供を終了することを決定しました。
この決定は軽々しくなされたものではなく、何カ月にもわたる慎重な検討の結果、そうせざるを得ないという結論に至ったものです。
法人会員にはアマゾン・ケアの多くの側面について好意的に受け止めていただいているものの、私たちがターゲットとする大企業にとっては完全なサービスとは言えず、また、長期的に機能するものでもありませんでした。
私たちはアマゾン・ケアの開発を通じて、企業や個人のお客様にとって有意義なヘルスケアソリューションを提供するために、長期的に何が必要なのかについて理解を深めることができました。
以前にも申し上げましたが、(アメリカの)医療システムは改革が必要な時期に来ており、私たちが医療体験を改善する努力を続けることで、国民のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)や健康状態に計り知れないプラスの影響を与えることができると信じています。
しかし、それでもなお、アマゾン・ケアのサービスをこのまま継続する理由にはなりません。
私たちがいま優先的に考えているのは、どのような道を歩むにせよ、ヘルスサービスチームの皆さんをサポートすることです。アマゾン・ケアに関わる従業員の多くは、ヘルスサービスチームの他の担当やアマゾンの別部門に異動する機会があります。その点について近日中に皆さんと話し合いを持ちたいと考えています。
アマゾン・ケアを運営する皆さん、そして医療チームの皆さん、この数年間、本当にありがとうございました。このチームが短期間に達成してきたことに誇りを持ってください。法人会員やその従業員の方々には、私たちに診療を託してくださったことにあらためて感謝します。
私たちはアマゾン・ケアで学んだことを生かし、これからも創意工夫を続け、お客さまや業界のパートナーから学び、ヘルスケアの未来の再構築に向けて最高水準の貢献をしていきたいと考えています。
ニール・リンゼイ
(翻訳:田原寛、編集:川村力)