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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
40代で異業界に転職し、新たな環境での知識・スキル習得に苦労されているそうです。
Aさん
新卒から20年近くメディア業界に携わっていましたが、事業会社に声をかけられ転職を決意しました。畑違いの環境でやっていけるだろうかという不安もありましたが、これまでの経験を活かせるPRの仕事とのことで、一度アンラーニングして、新しいスキルを身につけるチャンスだと思ったためです。
けれど実際に転職してみると、アンラーンするのは想像以上に大変だと痛感する日々です。
早く成果を上げたいと思うのですが、いままでの業界と使うツールが違うので慣れるまでに時間がかかったり、社内でのコミュニケーションの仕方にもお作法の違いがあって戸惑います。自分は以前の業界ではこれだけの成果を上げたこともあるのに、というプライド(?)もあり、もがいている自分がもどかしいです。
うまくアンラーニングするうえでの秘訣のようなものはありますか? このままだと、転職した自分の決断を後悔してしまいそうです。
(Aさん/40代前半/女性/メーカー)
ここ数年、「リスキリング」(学び直し)とともに注目されている「アンラーニング」。
これは「学習棄却」とも言われ、これまで身につけた知識・スキル・価値観などを意図的に捨て、ゼロベースで学び直すことを意味します。
私はビジネス経験豊富なミドル層の転職を支援することが多いのですが、実際、アンラーニングができている方々が転職に成功していらっしゃいます。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が活発化しているように、既存ビジネスにも新たな手法やモデルが続々と導入され、大きく変化しています。これまで培ったノウハウや成功体験が通用しなくなっていて、どの業種・職種の方にとってもアンラーニングが必須の時代といえます。
そのことに気づかず、50代以上になってアンラーニングの必要性に迫られ、苦労している方は少なくありません。今後は苦労する方がさらに増えていくでしょう。これまで異動や転職などにより「変化に対応する」という経験をしていない方はなおさらです。
その点で、Aさんが40代のうちにアンラーニングへのチャレンジに踏み切った決断は「大正解!」だと、私は思います。
同じ業界で年齢・経験を重ねていくほど、特定の知識や価値観に凝り固まってしまい、アンラーニングが困難になりがちです。
異分野への転職は、単に新たな業界・職種の知見を獲得するだけでなく、「アンラーニングができる人材になる」「アンラーニングのためのスタンスやスキルを身につける」機会になります。
仮にAさんが元の業界にとどまっていたとしても、どこかのタイミングで必ずアンラーニングが必要になるはずです。
アンラーニングを成功させる「変化対応力」「柔軟性」などは、同じ業界に居続けようが異業界に移ろうが、いずれにしても身につけるべきポータブルスキル(業界・職種問わず持ち運びできるスキル)です。
それを磨くためには、やはり変化の幅がより大きい環境に飛び込む——つまり異分野にチャレンジするほうが有効です。そして変化を体験する場数を踏むことです。
今はさまざまなギャップが押し寄せてきて戸惑っていると思いますが、それは時間が解決します。必ず慣れていくものです。
ですから「転職の決断を後悔」なんて思わず、新たなポータブルスキルを磨けるチャンスと捉えてください。今のチャレンジは、確実にAさんのマーケットバリューアップにつながっていますから。
「期間」を設定して、やり切ってみる
今のように悶々としたネガティブな感情を持っていると、新たに学べる知識やノウハウを吸収しづらくなってしまいます。子どもが嫌々勉強しても身にならないのと同じこと。
せっかく自らの意志でつかんだ機会(チャンス)がもったいないです。
新しいことを受け入れることに対してネガティブな姿勢だと、それは周囲の人にも伝わり、コミュニケーションまでぎくしゃくしてしまうでしょう。
ここは過去を振り返らず、覚悟を決め、スイッチを切り替え、「目の前の新しいものを受け止める・受け入れる」というマインドセットを意識してみてください。
そして、半年なり1年なり期間を決めて、それを徹底的にやり切ってみてはいかがでしょうか。その期間やり切って、やはり違和感が続いているようでしたら、その時点で元の業界に戻ることも検討すればよいと思います。
途中、目の前に差し出されたテーマに対して、興味を持てないこともあるかもしれません。けれど、情報収集したり学んだりしてキャッチアップしていく「プロセス」の経験は、この先も必ず役に立ちます。仮にまた異業界へ転職したとしても、活かすことができます。
そして、しっかりとしたマインドセットを持って今のアンラーニングをやり遂げれば、きっと大きな満足感を得られると思います。
自身の成長と、この先のキャリアの可能性の広がりを感じられることでしょう。
それは、私が多くのビジネスパーソンのキャリア構築を見てきた経験、そして私個人の経験からも断言できます。
強制的に学ぶ仕組みづくりが大切
私自身は新卒から一貫して人材業界にいるのですが、日々アンラーニングを意識しています。
現在の仕事に関わりがなく、全く接点がないテーマであっても、固定観念を捨てて学んでみるように心がけているのです。
例えば、私の専門分野外のテーマで講演の依頼が来ることがあるのですが、基本的に断ることはしません。
もちろん、「私はこの分野についてそれほど詳しくないのですが、よろしいですか」と確認しますが、それでもOKと言われればお引き受けしています。
そこから、そのテーマのキーワードでAmazonで関連書籍を検索し、10冊ほどを購入。
概要をつかんだうえで、主催者の目的と照らし合わせながら、私の知見・経験とも結びつくコンテンツを考えて登壇するのです。
依頼を受けたからには、強制的に学ばざるを得ません。仕事に直接関わりがない知識を勉強することに、多少なりとも苦痛に感じることもあります。
けれど知識量が増え、ヒトとのご縁につながるなど自分の中で幅が広がると、苦痛も快感に変わります。そして、振り返ってみるとこれまでの経験との親和性も見出せて、次の仕事に活かせることも多いのです。
Aさんがもがく気持ちはよく分かるのですが、発想を切り替え、「今置かれている環境は絶好の学びの場」「将来のキャリアを広げるために必要なトレーニング」として向き合ってみてはいかがでしょうか。
アンラーニングのプロセスでは、自分が潜在的に求めていたものが「こんなところにあった!」と気づけたり、これまで接点がなかったような人たちと出会えたりします。
そんな新たな発見や出会いを探すつもりで取り組んでみてください。
※この記事は2022年9月5日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。