景気後退への懸念が高まる中、危険信号がほぼない退屈な株こそ、安全な投資につながる。
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2021年は投機的な投資に熱狂した年だった。仮想通貨、NFT、特別目的買収会社(SPAC)、ミーム株など、従来ボラティリティが高いと考えられていた資産の評価額が急上昇した。
しかし現在、市場は潜在的不況に直面しており、状況はまったく異なっている。過去数カ月でいくつものバブルがはじけては消え、投機的な投資への熱気は一気に冷めた。不確実性が高まる中、投資家もアナリストも退屈な資産を選び、投機的な資産は避けようとしている。
資産運用会社ヴォントベル(Vontobel)のクオリティグロースブティック(Quality Growth Boutique)の最高投資責任者として、310億ドル(約4兆2780億円、1ドル=138円換算)の資産を監督するマシュー・ベンケンドルフ(Matthew Benkendorf)は、この夏の初めに内部関係者に次のように語った。
「どんなに魅力的で、短期的には強く見え、簡単に儲かるように見えても、投機的な投資は避ける必要があります。今はただ自制心を持つのみです」
8月の半ば、CNBCの金融番組「マッド・マネー」の司会者であるジム・クレイマー(Jim Cramer)も「自分のポートフォリオの中で最も投機的な株で利益を挙げ、その資金をより回復力のあるものへ投じる時が来ました」と述べ、次のように続けた。
「穏やかな不況とはいえ不況であることには違いありません。今は空想的なものではなく、質の高い資産に投資する必要があります」
しかし、ある銘柄が投機的なのか堅実なのかを判断するのは、言うは易し行うは難しだ。モーニングスターの調査担当副社長であるジョン・レケンターラー(John Rekenthaler)は8月17日、投資家向けのメモで、投資とギャンブルになりかねない投機を区別するために注意すべき5つの危険信号を提示した。
「投機には儲かる可能性もあるため、これらの警告サインが出ている資産の購入を厳しく警告するつもりはない。ただし、冷静に行う必要がある。このような取引はギャンブルであって投資ではない」
レケンターラーが指摘する、損をしないために避けるべきギャンブル的な5つの危険信号とは何だろうか?
1. 投資対象に実績がない
1つ目の危険信号は、投資対象に実績がない場合である。
「新しい有価証券の場合、初期の実績が良好だと投資家はすぐに“良いネズミ捕り”が発明されたと思い込んでしまう。しかしそれはまだ、欠点が浮き彫りになるような環境に直面していないだけのこと。実際に直面すれば、たちまち失望売りが広がるものだ」
レケンターラーは、以前に比べれば今日の投資家は用心深く、だまされにくくなったと指摘する。しかしだからといって、彼らが仮想通貨やSPACなどの非常に投機的な資産に誘惑されないわけではない。
「ブランクチェックカンパニー(白紙の小切手会社)」とも称されるSPACの仕組みを使えば、企業は従来のIPOよりも迅速かつ安価に株式公開を実現できるが、その性質上、規制がはるかに少なく投機的でもある。
その結果、実績のない投資先から利益を得ようとする投資家にとって、悲惨な事態を招きかねない。
実際、2020年に始まり2021年夏にピークを迎えた爆発的ブームの後、SPACの評価額は急落した。
「SPAC王」ことチャマス・パリハピティヤ(Chamath Palihapitiya)が仕掛けた4つの超大型SPAC案件全てが当初の取引価格10ドルを下回り、それぞれの2021年の高値から平均76%近く下落しているのだ。
2. キャッシュ不足なのに成長ばかり強調する
2つ目に、キャッシュ不足でありながら将来の成長可能性を強調することで投資家を惹きつけようとする企業についてもレケンターラーは警告する。
「その投資家の期待は2つの目論見によって成り立っている。1つは、ビジョンはしっかりしているもののまだ収益を挙げられていないスタートアップの、将来の企業利益。もう1つは、たとえ今現金が分配されなくても、最終的にはより高値で株を売却できるだろうという目論見だ」
その具体例としてレケンターラーが挙げるのが仮想通貨だ。2021年末に仮想通貨バブルが崩壊した結果、2大仮想通貨であるビットコインとイーサリアムでさえ、2021年のピーク以来、それぞれ67%と66%下落した。
レケンターラーは、大化けする前のアップルやアマゾンに投資した数少ない強運の持ち主のような例外はあれど、「称えられる勝者の背後には多数の忘れ去られた敗者がいる」ことも強調した。
3. 「秘伝のタレ」を使った投資勧誘
レケンターラーが指摘する3つ目の危険信号は、「凡人には理解できないほど難しい」秘策や具体的な戦略があると主張する投資だ。
「この類の投資は、その投資家が不誠実であるか、あるいはその投資家の戦略が本当に理解不能であるかのどちらかだ。災難に見舞われれば、その投資家は株主もろとも打撃を食らうだろう」
おそらくこうした「秘伝のタレ」的な投資の最も有名な例は、バーニー・マドフ(Bernie Madoff)の資産管理会社だろう。
バーナード・L・マドフ・インベストメント・セキュリティーズ(Bernard L. Madoff Investment Securities)は、優良株の購入とそれぞれのオプション契約を含む不透明な戦略を通じて、一貫して高いリターンが得られると投資家に約束した。
それが果たして史上最大のネズミ講だったと判明したときには、マドフの会社が投資家から集めた資産は実に648億ドル(約8兆9400億円)にもなっていた。
4. 歴史を無視した投資
4つ目に、歴史を無視したり、「インサイト」を独占したり市場からの予測に固執したりするマネーマネジャーには要注意だと警告する。
「過去の出来事は今後起こり得ることの参考にはなるが、決して将来を約束するものではない。過去に賭けることは確率に逆らうことになる。宝くじを買うようなものだ」
ノーベル賞を受賞したエコノミスト、ポール・クルーグマン(Paul Krugman)は1998年に「インターネットはファックスほど経済に影響を与えないだろう」と予測し、2008年にはジム・クレイマー(Jim Cramer)が「会社が崩壊するわずか数日前までベア・スターンズ社は問題なかった」と主張した。
このように、金融史には乱暴な主張が飛び交っている。
しかしレケンターラーは、歴史を忘れた人は同じことを繰り返す運命にあると述べる。まるで現在の投資家たちが、不動産市場が再び暴落しそうかどうか議論を続けているように。
5. 特別な投資機会の提供
投資家に対するレケンターラーの最後の警告は、特別なメンバーシップや独占権を約束するような投資は避けるべき、と釘を刺す。
「ポートフォリオ・マネジャーが一般の投資家に、通常の集団投資ではなく選ばれた者にしかありつけない投資機会を提供する場合は、くれぐれも自分の財布に気をつけたほうがいい」
というのもレケンターラーによれば、個人投資家が投じる資金は通常、投資会社が特別気にかけるほどの額ではないからだ。
「こういう場合はまず間違いなく、投資家をうまく乗せようとしているのだ」とレケンターラーは言い、一例としてSPACを挙げた。
「おそらく個人投資家にはIPOで株式を購入する機会を提供するところ、(SPACは)より大口の株主に対してさまざまな好条件を提示している」
(編集・野田翔)