無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


若手の離職リスクを高める「いい上司ばかり」の職場。“何者かになりたい若者”が求める条件とは

男性の後ろ姿

若手が本当に活躍できる職場を再考する。

撮影:横山耕太郎

「良い上司や先輩ばかりでありがたい、感謝しかない……」

「理不尽な指導なんて受けたことも見たこともないですね……」

若手社会人がこんな話をしたあとに決まって、「でも……」と現在の職場で働き続けることへの強い不安を口にするのを何度も何度も見てきた。

前回の寄稿「『ゆるい大企業』を去る若手たち。ホワイトすぎて離職?」では、残業時間が減り、ハラスメント防止も進むなど、労働環境が急速に改善しているにも関わらず、若手社員が「成長したい」などの思いから離職する現状を考察した。「職場がきつくて辞める」若手と同様に、「職場がゆるくて辞める」若手が存在しているのだ。

では若手が最大限活躍できる職場とは、どんな職場なのか。

例えば職場の心理的安全性(※)が有名だ。意見を気兼ねなく発信できる認識を持てる環境などを意味し、近年、日本でも一気に広がった。

心理的安全性が高い職場であれば、若手の離職は防げる ——。そう考えている企業も多いのではないか?

しかし結論から言ってしまうと、筆者が実施した大手企業の若手調査から分かったのは、「心理的安全性だけが高い職場では若手は十分に活躍できず、離職につながる可能性がある」ということだ。

若手が本当に活躍できる職場の「新しい条件」とはどのようなものか考えてみたい。

※心理的安全性…ハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が体系化し、人材が活躍しイノベーションが起こる職場の条件として広く知られる。「心理的安全性とは、職場などの特定の場において、人間関係上のリスクを取ることへの結果に対する認識」と定義される(Edmondson, A. C., & Lei, Z. (2014). Psychological safety: The history, renaissance, and future of an interpersonal construct. Annual review of organizational psychology and organizational behavior, 1(1), 23-43.より筆者邦訳)。批判的なコミュニケーションを恐れず自分の意思を開示できる、失敗をしても職場で頭ごなしに否定されないと期待できる、そんな職場が心理的安全性の高い職場と言える。

心理的安全性の価値

街中で立ち止まる人の写真

「キャリア安全性」が若手のワークエンゲージメントを左右する。

撮影:今村拓馬

若手社員の仕事への熱量(ワークエンゲージメント)を左右するのは何か?

大企業の若手社員約3000人を対象に、リクルートワークス研究所が実施した「大手企業における若手育成状況検証調査」を見てみると、そこには2つの要素が存在していることが分かった。

まずは、先に紹介した「心理的安全性」だ。

図表1

図表1…若手のワーク・エンゲージメントと職場環境

筆者作成

調査ではエイミー・C・エドモンドソン教授の尺度を参考に、「チームのメンバー内で、課題やネガティブなことを言い合うことができる」や、「チームに対して、リスクが考えられるアクションを取っても安心感がある」などの4項目で状況を把握した。

図表1からも、心理的安全性の認識が新入社員のワーク・エンゲージメントにプラスの影響を与えていることがわかる。

心理的安全性の重要性については、新入社員の仕事のやる気を高め活躍できる環境をつくるという点で、異議を唱える方は少ないだろう。

ただ、もう1つの要素が存在していたことがポイントだ。

「キャリア安全性」とは?

それは「キャリア安全性」とも言える要素だ。キャリア安全性というのは、筆者が名付けた概念で以下のように定義している。

  • 「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」(時間視座)
  • 「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」(市場視座)
  • 「学生時代の友人・知人と比べて、差をつけられているように感じる」(比較視座)

という3項目の逆数、つまりこの3項目に対して「そう思わない」度合いの高さである。

言い換えれば、時間が経過したとき、労働市場のなかで、友人・知人と比べて、といった自分を俯瞰した視座で、「自身の現在・今後のキャリアが今の職場でどの程度持続可能で安全な状態でいられると認識しているか」を捉える尺度と考えられる。

このキャリア安全性は若手社員のワーク・エンゲージメントに強いプラスの影響を与えていることがわかる。

自分のキャリアがいまの職場でどうなっていくのか安心して取り組めているという点で、この関係についても理解できるのではないだろうか。そのうえでポイントは、職場の心理的安全性とキャリア安全性がマイナスの相関を持つ点である。

つまり、職場における心理的安全性とキャリア安全性は、ともに若手社員のワーク・エンゲージメントを高める性質を持つ一方で、片方を高めればもう片方が低くなる関係を有しているのだ。

「いいね!」が生むフィードバック不足?

街中で女性が歩いている写真

撮影:今村拓馬

片方を上げれば、片方が下がる状況にある ——。

結果が示すのは、両方を高めたときにはじめて若手が最も成長し活躍できる環境が生まれるが、しかし両方を同時に高めることが極めて難しい、という現状である。

心理的安全性だけが高く、上司から「良いじゃん良いじゃん、どんどんやってみなよ」と言われるだけの職場では、キャリアの不安は全く解消できていないのだ。むしろ業務に関するフィードバックが乏しい状況を生んでいる恐れがあることを示唆している。

日本の大手企業を中心に2010年代後半以降、一貫して心理的安全性を高めるアプローチに重点を置いてきたように思える。もちろん、近年の労働法改正もこの動きを強力に後押しした。

このアプローチはもちろん一定の効果を挙げたが、しかし若手を育てるという観点では完全でないことは、図表1からも明確だ。

4つの職場タイプ

図表2

図表2…現代の若手を取り巻く職場の状態(概念図)

筆者作成

図表3

図表3…4つの職場の出現率

筆者作成

心理的安全性の高低・キャリア安全性の高低をもとに、職場を以下の4つに分類することで、キャリア安全性の重要性がより明確になる。

  1. 両方が高い職場を心理的・キャリア形成上の安全が確保された「Secureな職場」
  2. 心理的安全性は低いがキャリア安全性が高い、成長機会や経験が多く積めるが高い負荷が掛かるという「Heavyな職場」
  3. 心理的安全性は高いがキャリア安全性が低い、弛緩を生む「Looseな職場」
  4. 両方が低い、二重の危険が迫る「Dangerousな職場」

法令改正の動きもあり、2「Heavy」のようなブラックとも言われるような職場は少数派であり、他方で2からキャリア安全性までをもそぎ落としたような4「Dangerous」が多数派となっていた。

また、3の狭義の「ゆるい職場」(※)とも言える「Loose」が30.9%存在していた。最も理想的だと考えられる1「Secure」は17.8%に留まっている。

※…筆者は日本全体で進行する職場環境の変化を「ゆるい職場」と呼んでいるが、このグループ3は「狭義のゆるい職場」と考えられる。「狭義の」とするのは、この分類ではあくまで心理的安全性だけが高い点に注目しているためで、データが示している若手の負荷の減少傾向は、より広範に生起している現象だと解釈できるためである。

「きつい職場」と「ゆるい職場」のスコアはほぼ同じ

図表

図表4…4つ職場タイプと、就労やキャリアの満足感を評価するスコアとの関係(各スコアの算出の詳細は文末に記載)

筆者提供

さらに、この4つの職場について、それぞれ以下の4つのスコアとの関係を図にしめした。

  • 「いきいき働く」スコア…仕事に満足し働けているか
  • 「キャリア進捗満足」スコア…思い描くキャリアを進んでいるか
  • 「ワークエネルギー」スコア…やる気を持って仕事ができているか
  • 「仕事夢中」スコア…夢中で仕事に打ち込めているか

心理的安全性もキャリア安全性も高い1,Secureな職場の若手のスコアが最も高く、逆に4.Dangerousな職場が最も低いのは予想通りだ。

驚くべきは、2(キャリア安全性だけが高い職場)と3(心理的安全性だけが高い職場)は対極の関係にあり、職場の状況は全く異なると考えられるが、多少の数値の違いはあるもの、若手の仕事スコアが似た傾向を示している点だ。

やはり、ふたつの安全性の両輪が揃ってはじめて、日本の若手にとって最良の職場が生み出されているのだ。

「心理的安全性だけが高い」職場の“意外な”離職意向

離職意向との関係はどうだろうか。

図表5に「いつまでその会社で働き続けたいか」 の回答のうち、短期的な離職意向を示した若手の割合、すなわち「すぐにでも退職したい」と「少なくとも2・3年は働き続けたい」の割合を示した(なお、質問ではこの他に「少なくとも5年は働き続けたい」などより長期の選択肢もあったが、短期的な離職意向の割合には含めていない)。

結果はもちろん、4.Dangerousな状態の職場にいる若手が最も短期の離職意向が強い。その次に離職意向が高かったのは、心理的安全性のみが高い3.Looseな職場にいる若手であった。たとえ労働環境がきつくても、キャリア安定性が高い2.Heavyな職場の方が、狭義の「ゆるい職場」よりも短期の離職意向が少ない。

図表5

図表5…「いつまでその会社で働き続けたいか」への回答

筆者作成

今回提示したとおり、ゆるい職場の時代には心理的安全性が高いだけでは若手が成長し活躍する職場が形成できない状況にある。

そこにはもう1つのピースであるキャリア安全性が必要だ。

筆者は過去に、約50名の若者へのインタビューを整理し、その際、若者のキャリア志向を「ありのままでありたい」と「なにものかになりたい」という2つの欲求に整理している。

今回提示した職場に必要な2要素の、心理的安全性が若手が「ありのまま」であることに対応する一方で、キャリア安全性は若手が「なにもの」かになることを促すファクターであると感じている。

若手が直面する「『あがり』の見えないすごろく」

渋谷で人々が歩いている写真

自分自身の職業人生の見通しを立てられるのは自分だけだ。

Reuters

自社の職場の心理的安全性を高めるだけでなく、キャリア安全性の高い空間にするための手を打たなければ、直面する「なぜ若手が辞めていくのか」問題に抜本的な解決策を見出すことは難しい。

今や、企業が若手に職業人生の見通しを提供できなくなった。

「あがり」の見えないすごろくになった自分の職業人生に、企業に代わって見通しを立てることができるのは自分自身だけだ。

自分の職業人生を彩り豊かにつくる、その材料のひとつとして自身の会社での仕事を考えたときに、心理的安全性が高いだけでは不安になってしまう。

心理的安全性と、気づかれざるファクターであるキャリア安全性とが組み合わさってはじめて、若手が本当に活躍する新しい職場に生まれ変わるのだ。

(文・古屋星斗、編集・横山耕太郎

図表4のスコアの算出について…「いきいき働く」スコアはリクルートワークス研究所(2020)の研究による「仕事は、私に活力を与えてくれる」「仕事内容に満足している」「私の仕事は、私自身をより理解するのに役立っている」等リッカート尺度・5件法で回答を得た5項目を因子分析(最尤法・プロマックス回転)した結果として得た1因子の因子得点。「キャリア進捗満足」スコアはSpurk, D., Abele, A. E., & Volmer, J. (2011). The career satisfaction scaleを参考に筆者が翻訳した5つの設問(「自分のキャリアにおいて、これまで成し遂げたこと」「将来の目標に向けた、これまでのキャリアの進み具合」「目標とする仕事や社会的な地位に向けた、これまでの進み具合」など)にリッカート尺度・5件法で回答を得た5項目を因子分析(最尤法・プロマックス回転)した結果として得た1因子の因子得点。「ワークエネルギー」スコアと「仕事夢中」スコアは、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(9項目版)を用いて測定した結果を因子分析(最尤法・プロマックス回転)した結果として得られた2因子の因子得点。「ワークエネルギー」スコアは「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「職場では、元気が出て精力的になるように感じる」など5項目の因子負荷量が高く、「仕事夢中」スコアは「自分の仕事に誇りを感じる」「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」など4項目の因子負荷量が高い。Shimazu, A., Schaufeli, W. B., Kosugi, S. et al. (2008). Work engagement in Japan: Validation of the Japanese Version of the Utrecht Work Engagement Scale. Applied Psychology: An International Review, 57, 510-523.


古屋星斗(ふるや・しょうと):リクルートワークス研究所主任研究員。2011年一橋大学大学院社会学研究科修了、同年経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興支援、「未来投資戦略」策定等に携わる。2017年より現職にて、学生・若手社会人の就業行動や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み