ARゴーグル「Nreal Air」の持ち運び用セット。今回、新たにiPhoneなども接続できるアダプターが発表。日本国内向けの商品戦略を強化する。
撮影:石川温
モバイルやIT業界を取材するという仕事柄、これまで数多くのARやVR、MRのデバイスを試してきた。
海外展示会のCES(開催地:アメリカ)やIFA(ドイツ)、MWC(スペイン)などで多くの新製品を被ってきたし、グーグルが手がけた「Google Glass」もアメリカでいち早く購入して使っていた。
数年前、「スマホの次はウェアラブルだ」なんて言われてきたが、正直言って、どのデバイスも「普及するには課題が多い」という実感しか抱かなかった。
デバイスのデザインがイマイチであったり、装着感が悪かったり、得られる体験自体がパッとしなかったり。新製品が我々の生活を一変し、「これがないと困る」という域には達していないのだ。
そんななか、装着した瞬間から「これはアリかも」と思ったデバイスが、Nreal社の「Nreal Air」(3月4日から発売中)だった。
飛行機の機内で私物の「Nreal Air」を使っているところ。あらかじめダウンロードしておいたネットフリックスのドラマを大画面で見ている。なお、スペック上の両眼解像度は3840×1080ドット(フルHD×2)だ。
撮影:石川温
見た目はちょっと大きめのサングラスといった感じで、思ったほどは違和感がない。実売価格も4万5980円と手が届く範囲だ。
実際に装着してみると、メガネ部分単体でわずか79gなので重いとは感じず、さらに視聴できる映像が結構、美しい。画面のサイズ感的には、2m先に80インチぐらいのプロジェクターが投影されている感覚になる。
子どもが寝静まったあと、一人で静かにネットフリックスでドラマ、TVerでバラエティ番組、DAZNでF1中継を見ていたりしている。また、6月に行ったアメリカ出張の際には、上の写真のように機内で利用したりもした。
Nreal Airは、映像を大画面で体験できる機能と、ARとして、様々なアプリケーションを目の前に表示させ、スマホで操作する2つのモードがある。ただ、大画面で表示できる機能は大満足なのだが、AR機能はお世辞にも操作性がいいとは言えず、こちらはほとんど使っていない。
個人的には映像を大画面で見られるだけで十分なNreal Airだが、これが一般的に普及し、スマホのような使われ方をするのはまだまだ時間がかかるだろう。
ただ、Nrealを取材してみると、世界的にARが普及するには、日本市場が結構、重要なポジションを占めており、日本での成功が世界につながる、という気がしてきた。
Nrealはなぜ「日本市場に注力」するのか
今回発表された専用周辺機器「Nreal Adapter」。iPhone純正のHDMIアダプターなどを接続して、iPhoneとも接続できるようになる。9月末発売、アダプター単体の予想実売価格は8980円を予定。
撮影:石川温
実際、Nrealは、中国、アメリカ、日本を中心に展開しているが、特に日本市場に注力している印象がある。実はNreal AirはNTTドコモ、KDDI、さらにソフトバンクという日本の3大キャリアでの取り扱いがある。
この手の製品は、ユーザーが実際に試して購入できる「場所」が重要だが、キャリアが扱うということで、販路も広がり、手に取りやすくなる。
また、販路だけでなく、大手キャリアとはメタバースの普及に向けて、コンテンツの開発や実証などで協力関係があるという。
Nrealの国内での事業戦略発表では、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリアで販売していることを改めてアピールしていた。写真はNreal副社長兼、日本Nreal代表の呂正民氏。
撮影:石川温
大手キャリアとしても、2020年3月に5Gを始めたものの、いまだにコレと言ったキラーサービスやアプリを提供できていない状態にある。
5Gを活性化させるために「メタバース」に取り組むことが喫緊の課題であるなか、デバイスの完成度の高いNrealに飛びつくのは自然な流れなのだろう。
また、Nreal副社長兼、日本Nreal代表の呂正民(Joshua Yeo)氏によれば、具体的な数には言及できないものの、ECサイトや家電量販店での売れ行きも「好調」で、販路は拡大しつつあるようだ。
Nrealは、2019年に世界で初めて「Nreal Light」という製品を公開。同年7月には世界で初となる海外連絡事務所を日本に設立している。さらに開発キットを日本において世界初展開した。
また筆者が購入したNreal Airも2022年3月に日本が世界で初めて発売した国だった。
両者の違いについでも簡単に触れておこう。
Nreal Light(7万円程度)には左右のレンズ上部にそれぞれ深度カメラ、本体中央にはRGBカメラを搭載し、周辺環境を認識した上でMRコンテンツを表示できる。一方で、Nreal Airにはカメラを搭載しておらず、映像の視聴をメインとしつつ、価格も4万円弱に抑えている。
「Nreal Light」。メガネの両脇にカメラがあることがわかる。周辺の環境認識によってMR機能を実現する点が、「Air」とは異なる。その分、価格がやや高く、auオンラインストア価格で6万9799円。
出典:Nreal
Nreal Lightの付属品。
出典:Nreal
なぜここまでNrealは日本市場を重視するのか。
呂氏は
「開発キットを提供した際、アメリカの次に日本の開発者からの申請が多かった。日本にはARの技術を持つ会社や開発者がとても多い。さらに日本は映画やアニメなど映像コンテンツが豊富にある」
と言う。さらに、日本にはARグラスがウケる土壌があるとも。
「ユーザー調査をしても、日本は世界で最もARグラスに興味がある国であり、新しい技術に感心のある国民性といえる。そのため、Nrealでは日本市場を皮切りに世界で成功したいと考えている」
実はNreal Airの対応機種は現在、Androidスマートフォン、とりわけハイエンドのモデルに限定されている。そこで、9月にはiPhoneやゲーム機などとも接続し、前出の映像をNreal Airで楽しめるアダプターを発売する予定だ。
iPhoneなどAndroid端末以外にも対応範囲を広げるための「Nreal Adapter」を新たに発表。
撮影:石川温
iPhoneユーザーが多い日本でNreal Airがメジャーになるには、iPhoneに接続できるアダプターは必須と言える。
呂氏の話を聞いていると、ARが一般的な存在になるには、まず技術があり、コンテンツも豊富で、ユーザーの関心が高い日本市場での成功が不可欠ということのようだ。実際、Nreal Airは日本での発売後、半年が経過したこのタイミングで、アメリカと中国でようやく発売となる。
アップルの新製品発表会やWWDC(6月のアップル世界開発者会議)では、かつて任天堂が登壇し、2022年はカプコンも基調講演に登壇するなど、そもそも日本のゲームコンテンツは世界から注目されている。
ひょっとすると、Nrealが日本で成功し世界展開していけば、AR向けのコンテンツやゲームにおいても、うまくいけば日本の企業が世界に飛び出していける……とおぼろげながら、そんな期待も持ちたくなる。
では、実際にAR時代はいつやってくるのか。呂氏は「この6年間、我々の努力でAR業界が変化してきた。多くの人が思っているよりも、ずっと早くAR時代は来るのではないか」と語った。
AR時代に向けて、日本市場はハードとコンテンツにおいての「試金石」になっていると言えそうだだ。
(文、撮影・石川温)
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