2023年の世界の食糧供給量は逼迫する可能性がある。
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- 食料供給の逼迫が物流上の制約を上回り、2023年は食料危機がさらに悪化する可能性がある。
- ウクライナでは戦争によって種まきなどの農業活動が妨害され、収穫量に影響が出ている。
- 世界各地の農家が、価格が高騰している肥料の使用量を減らし、それによって収穫量が減少する可能性がある。
パンデミックとウクライナでの戦争、それにともなうサプライチェーンの混乱により、小麦やひまわり油、レモン、アボカドなど、あらゆるものの価格が上がっている。
2020年に始まったCOVID-19のパンデミック以来、サプライチェーンは混乱した状態にあるが、小麦の主要な輸出国であるロシアとウクライナ間の戦争によって、混乱はさらに深刻になっている。世界の困窮している人々を支援する人道支援団体のMercy Corpsによると、それによって食糧のインフレが加速し、特に弱い人々を苦しめているという。
Mercy Corpsのティジャダ・ドーエン・マッケンナ(Tjada D'Oyen McKenna)CEOは「2022年の食糧価格の高騰は、我々が困窮している人々に提供している現金支援が機能しないということだ」とInsiderに話した。
「食糧へのアクセスの主要な制約は、購買力の低下と食糧価格の上昇だ」
2022年7月、ウクライナとロシアは国連とトルコの仲介で、ウクライナが黒海からの穀物輸出を再開することで合意した。この動きは、世界の市場に安堵をもたらした。国連食糧農業機関(FAO)の⾷料価格指数(農産物の国際取引価格を表す)は、2022年初めに過去最高を記録してから、7月までの4カ月連続で下落した。
だが、この価格下落がすぐに消費者に恩恵をもたらすことはなさそうだ。
「ここ数週間で多くの食糧価格が落ち、戦争前の水準まで戻ってきているが、市場は世界の価格が落ち着いたとしても不安定な状態が続き、現地の市場では1年以上価格調整が行われないかもしれない」とマッケンナは話している。
さらに、それまでに価格が再び上がりかねない食糧危機の新しい局面に見舞われる可能性もある。2023年に、食料危機がどのように悪化する可能性があるのだろうか。
2022年は物流の問題、2023年は供給量の問題
2022年の食料危機は、主にウクライナとロシアが国外に輸送する穀物の問題に関連する物流の崩壊によるものだ。だが2023年は、特にウクライナからの供給量自体が危うくなる可能性がある。
2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻により、4月と5月の播種期が妨害され、例年の農業のサイクルが乱された。次の播種期は、9月から11月にやってくる。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy )大統領は7月、戦争によって同国の2022年の収穫量は半減する可能性があるとTwitterで警告した。
マッキンゼーは8月17日付の報告書で、収穫量が急激に減少すると予測した。それによると、ウクライナの小麦などの穀物の生産量は、次の収穫期で35%から45%減少するという。
「戦争によって、農家は畑を耕し、種をまき、作物を守り育てる活動が妨害された。次の収穫期には収穫量が減少することになりそうだ」と、ウクライナでの戦争と気候変動の影響下における世界の食料安全保障に関する報告書でマッキンゼーは述べている。
マッキンゼーの予測では、ウクライナの2022年の収穫量は例年より3000万トンから4400万トンも減少する。これは、作付け面積の低下や、最後の収穫が出荷できなかったことによる農家のキャッシュフローの減少、穀物が放置されて収穫されないままになる可能性、などによるものだという。
「ウクライナでの作付けや収穫が戦争によって混乱し、ロシア、ブラジルなどその他の生産国の状況も最善ではないことから、供給は厳しくなりそうだ」とマッキンゼーは記載している。同社はこの報告書のため、現地の農家に取材し、そのデータを確認している。
化学肥料の価格高騰と気候変動が供給網の混乱に拍車
ロシアは2021年の化学肥料の輸出において約5分の1を占めていたが、ウクライナとの戦争で供給に混乱を来している。ブルームバーグのグリーン・マーケットによると、一般的な窒素肥料である尿素の価格が1年前から2倍になっている。その結果、世界の農家が肥料の使用量を減らしている。
「肥料の不足と価格の高騰により、化学肥料を輸入に依存しているブラジルなどの国々で、収穫量の減少が予測される。そして、これが世界の穀物収穫量の減少につながる可能性がある」とマッキンゼーは報告書に書いている。
Mercy Corpsも同様の傾向があると見ている。「我々が支援するグアテマラの農家は、肥料や詰め物用のプラスチック製品、灌漑システム用のパイプなど石油由来の製品を買う余裕がないため、次の生産のために投資できていない」とマッケンナは述べた。
ヨーロッパの厳しい干ばつやオーストラリアの洪水などが起きている異常気象下で、農業と食料への打撃が起こることから、マッキンゼーは次の食料危機は、2007-2008年や2010-2011年のものよりも深刻になると予測している。
「ウクライナでの紛争が、すでに不安定になっている世界の食料システムの柱をさらに揺るがしている」
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)