すかいらーくの厳しい業績予想、時短営業を背景に、ファミリーレストラン業態の今に注目が集まっている。
撮影:横山耕太郎、Ned Snowman / Shutterstock、伊藤有
すかいらーくが8月12日に「2023年初に100店閉店」を公表したことで、ファミリーレストランの動向に注目が集まっている。
日本経済新聞は8月27日に、ガストやバーミヤンなど400店の閉店時間を最大1時間繰り上げると報じた。利用が落ち込む夜間の営業時間を短縮し、コスト抑制に動いた形だ。
ファミリーレストラン業態をめぐっては、帝国データバンクが8月18日、2022年度末までに2019年比で1000店減少する見込みだとする調査も公表している。
今、ファミレス業界の中で何が起こっているのか? 改めて、状況を整理してみよう。
なぜ「すかいらーく一人負け」に見えるのか
“ファミリーに手の届くごちそう”を支えてきたファミレス業態はビジネスモデルの曲がり角なのではないか —— これはある面では正しく、ある面では不正確だ。
各社決算資料より、Business Insider Japanが作成。
大手ファミレス系チェーンの決算を改めて見ると、ロイヤルホールディングスは決算こそ赤字だが、高付加価値路線の外食部門(ロイヤルホスト)は経常黒字で復活基調だ。
一方、お手頃価格のイタリアンで知られるサイゼリヤは、国内事業は営業赤字なものの、アジア事業が営業黒字で、結果直近7月の第3四半期決算は営業黒字だった。
表には含めていないが、好調な決算が報道された餃子の王将(王将フードサービス)に至っては、値上げ効果もあって直近2023年3月期の第1四半期では2019年同期比で売上高、営業利益ともに上回った。
王将フードサービスの2023年3月期第1四半期決算の状況。
出典:王将フードサービスの2023年3月期第1四半期決算短信より。
一方、厳しいのは、約3000店舗を抱えるファミレス最大手のすかいらーくだ。
決算の状況は既報のとおりで、復調傾向にある大手の決算にあって、通期業績予想も大幅な下方修正に踏み切った。
なぜこれほどまでに状況が違うのか?
外食産業に詳しいSBI証券企業調査部シニアアナリスト田中俊氏は、Business Insider Japanの取材に対し、「すかいらーくは日本の外食産業の縮図になっている」と見る。
国内最大手として全国津々浦々に展開していることで、日本の外食産業を襲っているマーケット影響を、一番直接的に受けることになった、というのだ。
「地方立地」と「衝動来店」のブランドが厳しい
撮影:伊藤有
すかいらーくの苦境は、すかいらーくのブランドが抱える2つの要因により引き起こされたものではないか、というのが田中氏の見方だ。
1つは「業界最大手だからこその地方立地」の問題。もう1つは「衝動来店型」と「目的来店型」の問題だ。
1. 全国3000店舗展開に直撃した「立地条件」
神戸市周辺のすかいらーくの店舗展開。
撮影:伊藤有
国内最大手すかいらーくならではの苦境の要素が、立地条件だ。
例えば、競合のサイゼリヤとガストは価格帯的にも近しいものがある。しかし、立地条件としては結果的にサイゼリヤの方が恵まれている、と田中氏は言う。
「ガストはやはり(店舗が多いだけに)地方も多い。サイゼリヤは(全国展開しているとはいえ)首都圏などの郊外立地の比重が高い。(つまり)郊外などの住宅地の近くが多く、そういう地域(都市の郊外)は全般に『強い』のです」
確かにサイゼリヤ、すかいらーく、それぞれの公式サイトから店舗一覧を見てみると都市圏と地方の展開はかなりの差がある。
一方、店舗一覧をみると、すかいらーくは全国津々浦々までカバーしていることがよくわかる。
サイゼリヤで、同じ神戸市周辺を表示したところ。縮尺の違いから、すかいらーくとは密度がまったく違うことがわかる。
撮影:伊藤有
サイゼリヤも直近決算を見る限り、国内は戻りきれていない状況(直近四半期決算で国内セグメントは21億円の営業赤字)だが、すかいらーくは地方都市での苦戦を公言している。
すかいらーくの谷真会長兼社長は、8月12日の決算会見のなかで、地方の不振を念頭に「地方都市の客数減が顕著。生活防衛意識が高まっている」と発言した。
100店舗閉店の対象店舗に関しても、「地方都市店舗の間引き」が多いという。
店舗数が違うとはいえ、大幅閉店には踏み切っていないサイゼリヤと、すかいらーくの差は、地方展開の違いだというのは確かに一理ある。
2. アフターコロナで「衝動来店型」店舗が苦境に立っている
Googleトレンドで見る、過去12カ月のファミレス3社の人気度。ガスト(黄色)は圧倒的な人気だが……。
Googleトレンドをキャプチャー
もう1つが、「衝動来店型」と「目的来店型」の違いだ。
田中氏はすかいらーくの外食ブランドは、ブランド認知やメニュー構成などを念頭に、外食店としての平均点は非常に高いとした上で、外出したついでに選ばれる「間違いのない店」であることが従来の強みだった、とする。
その特徴が、コロナ以降、来客を掴みにくくなっているのではないかとの指摘だ。
「(すかいらーくのブランドには、前日から来店を決めて向かうような)目的来店型というより、どちらかというと(出かけた先でふらっと訪れるような)衝動来店型のブランドが多いように思う。
それが今、コロナ下になって、マイナスに働いているのではないか。
中食を買って家で食べる機会がコロナ前に比べて増え、外食の機会が減っている。
どうせ外食に行くなら、『一番行きたいところに行く』となりがちで、『一番最初に選ばれる外食』になりきれていないところがある」(田中氏)
すかいらーくで最大勢力のガストが「衝動来店型」ブランドなのかは、人により意見が分かれるだろう。しかし、少なくともすかいらーく自身は「目的来店型」ではないと見ていることは、2021年8月度のグループIRレポートからもうかがえる。同レポートでは、好調なカフェ系業態や専門店業態を「目的来店志向のブランドが好調」と説明しているからだ。
また、メニュー改革と価格改定による客単価アップの課題も、結果論ではあるが、すかいらーく経営陣の想定外の状況になっているのも事実だ。
すかいらーくは、ガストのメニュー改革を2022年以降、実施している
第1四半期決算資料より。ガストは1月に値ごろ商品の拡充、4月にもハンバーグの質の改善などを進めていた。
出典:すかいらーく 2022年度第1四半期決算資料より
しかし、「それ(来客増をにらんだメニュー改革)をやろうとしたが、客数が増えきらなかった。同業他社も色々とやっており、(そのなかでは)思ったほど選ばれきれなかった」(田中氏)という現状がある。
同業種のロイヤルホストはコロナ以前からプレミアム路線のメニュー開発を進めていた一方、ガストやサイゼリヤを筆頭に「値頃感」で勝負してきたブランドは、なかなかお客に受け入れられる値上げ(価格転嫁)ができない。
値上げが十分にできていなかったところに、2022年に入ってからの大幅なインフレ(コストプッシュ)が直撃した形なのだ。
「日本の外食産業の縮図」の意味
すかいらーくは、通期業績予想を下方修正した要因の1つにインフレ影響を挙げている。
円安による食材高騰、光熱費上昇、最低賃金上昇など、コストプッシュ型の原価上昇による収支圧迫の状況を示した資料。
出典:2022年12月期上半期決算資料より
これは事実ではあるが、他の外食チェーンに比べて、すかいらーくだけがインフレ影響が大きい」というわけではない、とも田中氏は言う。
むしろ、すかいらーくはグループが巨大であるがゆえのスケールメリットがあり、「原価率のコントロールは綺麗にやってきた会社」(田中氏)で、調達力に特段の課題があるとは考えにくい。
ロードサイド店の不調も伝えられるが、それはロードサイドという立地よりも、地方経済の不調だったり、「衝動来店」の傾向が強いブランドであるためという側面がありそうだ。
ここで冒頭の「すかいらーくは日本の外食産業の縮図」という指摘に戻る。
田中氏の見方は、すかいらーくだけが苦しんでいるのではなく、むしろ、国内の外食全般で見れば、この状況が「ごく普通の姿」なのだとする。好調な外食ブランドは、ある意味で特別な事例だという見方だ。
確かに、個人経営の飲食店がメニューへの価格転嫁が容易にはできず、利益率を削って営業を続けている……そんな現状は、インフレ報道とセットで連日のように報じられてきた。
多くの飲食店に起こっていることが、日本最大手のファミレスチェーンでも起こっている —— これが、「すかいらーくは日本の外食産業の縮図」だと田中氏が指摘する意図だ。
生き残りの鍵は「その業態のなかで一番」になれるか
撮影:伊藤有
「全体感として言うと、忘れてはいけないのは、これから先、時短協力金などがなくなってくる。助成金等で助かってきた飲食店は個人経営を中心に多い。これから先、一気に淘汰が進む可能性もある」(田中氏)
では、これからの社会で生き残る外食ブランドはどこなのか?
田中氏は「目的来店をしてもらえるトップブランドになること。(例えば洋食、低価格イタリアン、焼肉食べ放題、お手頃中華など)その業態のなかで『一番』に想起されること」が、選ばれるために重要だと見る。
消費者の行動パターンが変わり、外食に求める体験は確実に変化している。
「行きやすい」という立地の良さを生かした「安全パイのレストラン」の価値は、2020年までとは大きく変わってしまった。少なくとも、すかいらーくの苦境からはそんな印象を強く受ける。
従来の「勝ち筋」を変えていかなければならないのだとすれば、すかいらーくの経営陣にとって、重い課題であることは間違いない。
(文・伊藤有)