映画『ハリウッドをぶっつぶせ』主人公のモデルとしても知られる、米マイクロソフト(Microsoft)バイスプレジデントのジェフ・マー。スタートアップ支援部門を率いた。
Jeff Ma
Insiderが独自に確認した米マイクロソフト(Microsoft)の社内メールによると、マサチューセッツ工科大学(MIT)出身で、高度な数学力を活かしたカジノ破りで1990年代に世間の話題をさらった「MITブラックジャックチーム」メンバーとしても知られるジェフリー・マーが退社する。
ツイッター(Twitter)のバイスプレジデント(アナリティクス・データサイエンス担当)を務める傍ら作家活動を続けるなどデータ分析分野の専門性を軸にマルチな才能を発揮してきたマーは、2020年からマイクロソフトの起業家支援部門「マイクロソフト・フォー・スタートアップス」の責任者を務めていた。
Insiderは以前の記事(2021年10月26日付)で、マーが女性従業員を事前の注意や告知なしに職場で即時降格させたり、一部の女性従業員に管理職ポストへの応募を禁じたり、募集情報を伏せるなど、不当な取り扱いに対する内部告発が相次いでいることを報じている。
マイクロソフトのプレジデント(コマース+エコシステム・クラウド+人工知能担当)シャーロット・ヤルコニは8月26日付の社内メールで人事異動を発表し、マーが「次なる冒険を求めてマイクロソフトを離れる」ことを明らかにした。
「ジェフ(・マー)の専門的な知見とマイクロソフト・フォー・スタートアップスにもたらしたインパクトには非常に大きなものがありました。
スタートアップ支援戦略の見直しを主導したことに加え、その強いリーダーシップのもとで、ファウンダーズ・ハブ(Founder's Hub)およびペガサス(Pegasus)という2つのスタートアップ支援プラットフォームが立ち上がりました。いずれも盛況で、当社のスタートアップ支援のリーチと実績の拡大に貢献してくれています」
ヤルコニの社内メールによれば、マイクロソフトはマーの後任人事を検討している最中で、暫定的にマーの直下でゼネラルマネージャーを務めたハンス・ヤンが責任者を代行する。直属の上司はヤルコニとなる。
同じくマー直下のゼネラルマネージャー、ジェニファー・リツィンガーは引き続きリージョナルディレクター(同社製品や技術への助言や意見を提供する社外の役職)およびMVP(同社製品・サービスに関するグローバルコミュニティを支援する社外の専門家)プログラムを担当する責任者を務める。直属の上司はヤルコニ。
マーが責任者を務めたマイクロソフト・フォー・スタートアップスは、同社製品とりわけアジュール(Azure)を中心とするクラウドサービスを無料提供するなど起業から顧客開拓までを伴走支援するプログラム。
マーはシリコンバレーの著名連続起業家で、MITの学生たちがブラックジャックの必勝法とされるカードカウンティング技術を駆使してラスベガスのカジノで数百万ドルの荒稼ぎに成功するハリウッド映画『21(邦題:ラスベガスをぶっつぶせ)」の主人公のモデルとしても知られる。
2020年4月にマーがジョインした際、マイクロソフトは「熟練の起業家であるマーが再びスタートアップの世界に戻ってくると誰が想像したでしょうか」と自社サイトで最大級の賛辞を送っている。
Insiderは冒頭でも触れたように2021年10月公開の記事で、マーの女性従業員に対する不当な差別的取り扱いを詳細に報じた。マーを呼び込んだことで、マイクロソフトは女性管理職の集団離職という事態にまで見舞われている。
記事公開時、広報担当はInsiderの取材に対し、数カ月前(つまり2021年夏)にマーが責任者を務めるマイクロソフト・フォー・スタートアップ担当部門の職場環境レビューを実施した結果、差別的な行為の形跡は一切発見できず、女性管理職らの離職が集中したことはあくまで(マーの就任を機とする)戦略転換の結果に過ぎないとの見解を示した。
マイクロソフトはこの不当な差別的取り扱いをめぐる疑惑をマーの退社と関連づけていないものの、従業員への不当な行為や態度に対する内部告発が判明した後に退社した経営幹部の最新事例であることは間違いない。
8月29日、マイクロソフトの広報担当にコメントを求めたが拒否された。
Insiderは5月25日、マイクロソフトの現役および元従業員数十人への直接取材に基づき、同社内で経営幹部による不正・不当な行為がまん延している現状を報じた。
同記事で名前が挙がった、複合現実(MR)ヘッドセット「ホロレンズ(HoloLens)」共同開発者のアレックス・キップマン、クラウドなどインフラ部門を長く率いたコーポレートバイスプレジデントのトム・キーンの二人はその後辞任している。
キップマンについては、女性従業員に対して「望まない接触」を含む不適切な行為をくり返しながら特に咎(とが)められることがなかったと、複数の現役従業員および元従業員が証言。記事公開から2週間足らずで退社することが判明した。
また、キーンについては、会議の最中に同僚たちの前で女性従業員に対して執拗な叱責を繰り返すなど、威圧的な態度を指摘する従業員の声が相次いだ。従業員が完全な服従的態度で望まないと逆鱗に触れることから、社内では「キング・トム」と呼ばれていたという。そのキーンも、記事公開の翌々月(7月)に21年間勤務したマイクロソフトを去っている。
Insiderはマーに今回の退社についてコメントを求めたが返答はなかった。先述の2021年10月の記事公開の際も疑惑についてコメントを求めたものの、やはり返答は得られなかった。
(翻訳・編集:川村力)