カリフォルニア州ロサンゼルスのビバリーヒルズにあるパテックフィリップとロレックス。2020年8月1日撮影。
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- アメリカの富裕層はぜいたくな買い物を減らし、いつも以上にディスカウントストアで買い物をしている。
- バンク・オブ・アメリカは、年収12万5000ドル以上の世帯がこの夏、全体的に支出を減らしていると発表した。
- 同行は、富裕層の支出は経済にとって「極めて重要」であり、これ以上の落ち込みはリスクをもたらす可能性があるとしている。
インフレは、いつもならそれを払いのける可能性が高いアメリカ人にまで追いついてきている。
この数カ月で消費環境は大きく変化した。高いインフレ率はアメリカ人の貯蓄の大半を一掃し、経済成長の鈍化は不況が差し迫っているという懸念を増幅させている。これでは景気の低迷が続くのも不思議ではない。
しかし一番節約しているのは、最も裕福な家庭だという。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)のクレジットカードとデビットカードのデータによると、年収12万5000ドル(約1733万円)以上のアメリカ人は2022年5月、6月、7月の各月で裁量的支出を減らしているという。裁量的支出は、食料品、ガソリン、衣料品以外の支出を指す。
食料品、ガソリン、衣料品を除く1世帯あたりのカード利用額(所得階層別)。最高所得者層では、裁量的支出は3カ月連続で縮小している。
Bank of America
この後退はいくつかの分野で生じている。年収12万5000ドル以上の世帯は、年収5万ドル(約693万円)以下のアメリカ人よりも早く飛行機による旅行への支出を減らしている。また、ホテルへの支出もここ数カ月で同様に減少している。
高級品の価格にもその消費の低迷が表れている。高級腕時計のオンラインマーケットプレイス「クロノ24(Chrono24)」のデータによると、ロレックス(Rolex)の再販価格は2022年3月のピーク時から下落しており、長く愛されてきた時計への需要が落ち着いてきていることを示している。
アメリカの富裕層は高価な腕時計から離れていく一方で、低価格で知られる小売チェーンでの消費を増やしている。ワンダラーショップの最大手、ダラー・ゼネラル(Dollar General)のトッド・バソス(Todd Vasos )CEOは、2022年8月の決算説明会で「第2四半期は、当社の店舗で買い物をする高所得世帯が増えたと」述べ、この増加は「お得感を求めてダラー・ゼネラルを選ぶ消費者が増えていることを反映している」と付け加えた。
ロレックス デイトナの価格推移を表すグラフ。
Chrono24
同様にウォルマート(Walmart)のダグ・マクミロン(Doug McMillon)CEOも、アメリカ人がインフレ対策をした結果、第2四半期は富裕層の需要が高まったと述べている。
「人々は今、所得水準に関係なく、価格を非常に重視している。これが長引けば長引くほど、その傾向は強まるだろう」とマクミロンはCNBCの番組で述べている。
ロレックスの低価格化やワンダラーショップの需要の増加は、経済の大惨事のようには見えないかもしれないが、高所得世帯の需要減退は景気回復にリスクをもたらす。バンク・オブ・アメリカのエコノミスト、アンナ・チョウ(Anna Zhou)は2022年8月24日のメモの中で、低所得者層と高所得者層、両方の支出がアメリカ経済を健全に保つために「極めて重要」だと述べている。2020年にはアメリカの上位20%の所得者の消費支出は全体の40%近くを占めており、これが長引けば、経済の最大の原動力のひとつが失われる可能性がある。
アメリカはまだ危険地帯には入っていない。低中所得者層はまだ安定したペースで支出を続けている。所得2万ドル以下の世帯は、2022年6月と7月に支出を増やしているし、年収2万ドルから5万ドルの世帯は7月に支出を減らしているが、減少幅は小さく、それも2カ月続いた増加に続くものだった。
高所得のアメリカ人も、インフレが収まってくれば支出を増やす可能性が高い。12万5000ドル以上の世帯は「貯蓄が増加しており、インフレ環境を緩和する可能性がある」とチョウは言う。ガソリン価格と自動車価格の下落は8月までのインフレ傾向が再び鈍化したことを示唆しており、このグループの消費を回復させる可能性がある。
しかし、2022年7月までのインフレ率は前年比8.5%で推移しており、物価上昇率が健全なレベルに戻るにはまだ時間がかかると見られている。その間、こうした経済的に恵まれている世帯でさえも、物価の高騰と経済成長の鈍化は、依然として家計に重くのしかかるだろう。
[原文:Wealthy Americans are cutting back — and it could push the US closer to a recession]
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)