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155億円調達の日本発ユニコーン「Opn」の野望:“越境キャッシュレス決済”の常識を破壊する

長谷川潤

Opn共同創業者兼CEO 長谷川潤氏。Opnは5月、旧社名「SYNQA」から社名変更し、事業を統一・リブランディングした。

撮影:岡田清孝

2022年初夏、あるニュースがスタートアップ業界を駆け巡った。

タイなどで決済代行サービスを展開する「Opn(オープン)」が、1億2000万ドル(約155億円)を調達し、ユニコーン企業となったと報じられたのだ

なぜ、Opnは大型資金調達を達成できたのか。タイでの成長を踏まえて、日本でも本格的に事業のアクセルを踏んでいくと語るOpn共同創業者の長谷川潤CEOに、その戦略を聞いた。

トヨタも惚れた「東南アジア発の決済企業」

日本における主な決済手段

Opnが提供する主な決済手段(日本)。タイではアリペイ、WeChatペイ、TrueMoneyウォレット支払いなども利用でき、国ごとの「ローカライゼーション」が強みだ。

画像:Opn

今、トヨタや三菱UFJ銀行も熱い視線を送る、創業9年目のスタートアップがある。

東南アジアを中心に企業向けのオンライン決済代行サービスを提供する「Opn」だ。

2022年5月には、三菱UFJ銀行などから1億2000万ドル(約155億円)を調達、先立って2020年6月には、トヨタファイナンシャルサービス、三井住友銀行などから85億円の資金調達も公表している。すでに累計調達額は2億2200万ドル(約307億6000万円)を超えた。

Opnの強みは「たった1つのAPI(ソフトウェア同士をつなぐインターフェース)で、国内外・約50の決済手段に対応できる」というシンプルさにある。

例えばタイやインドネシアではモバイル決済(デジタルウォレット)や銀行振り込みの方がクレジットカードよりも普及しているように、国によってよく使われる決済手段は異なる。

タイのEコマース取扱高における、支払い手段のシェア分布。

タイのEコマース取扱高における、支払い手段のシェア分布。銀行振り込みが約4割、モバイル決済(デジタルウォレット)が約2割。

出所:Worldpay from FIS「The Global Payments Report」

日本のEコマース取扱高における、支払い手段のシェア分布。

日本のEコマース取扱高における、支払い手段のシェア分布。クレジットカード決済が約6割を占める。

出所:Worldpay from FIS「The Global Payments Report」

Opnを使えば、各国ごとに異なる決済手段が煩雑な手続きなしに導入でき、さらにOpnが提供する加盟店管理システム(ダッシュボード)から、すべての情報が一括で管理できる。

8月下旬、東京・京橋のオフィスで対面した長谷川氏は、株式市況に逆風が吹く中で大型の資金調達ができた理由について、こう語った。

「本格的に海外でビジネス展開しないとまずい、という機運が(大企業中心に)すごく高まっています。でも決済を導入しようとした時、東南アジアをサポートしつつ、日本にフットプリント(足場)のある会社が、(他に)いないのだと

グローバルで見ると、Opnの導入企業は8万社以上、そのうち大企業が7000社を占めるという。導入企業には、タイ・マクドナルドのほか、BMW、スズキ、ノボテル(いずれもタイ)、TrueMoney(タイのモバイル決済事業者)なども含まれている。

東南アジアでは他にシンガポール、マレーシア、インドネシアにも進出しており、2022年にはベトナム・フィリピンでもサービスを開始する予定だ。日本では学習塾向け業務管理システムを提供するポパー社などが導入しており、今後は日本展開にも注力していくという。

タイの銀行に突然営業して「ユーたち、誰?」

TrueMoney Wallet

Opnは、タイのモバイル決済のシェアの約半分を占める「TrueMoney ウォレット」のバックエンド開発も担っている。

chanonnat srisura / Shutterstock

2013年にOpn(当時の社名は「Omise」)を創業した長谷川氏の起業家人生は、波乱に満ちている。

1981年に東京で生まれた同氏は、高校卒業後に単身渡米。アメリカでエンジニアとして働いた後、日本でライフログアプリ「LIFEmee」を立ち上げたが、その後、撤退。いくつかの事業を立ち上げてはクローズする日々が続いた。

「最初なんてボロボロでした。考え方も甘かったし、何もかもが穴だらけ。日本に今みたいなスタートアップのエコシステムもなくて、資金調達にも苦労しました」

2012年末、長年の友人でもあり後に共同創業者となるエズラ・ドン・ハリンスット氏の誘いを受け、タイでの起業を決意する。

初期事業としてEコマースプラットフォームを立ち上げようとしたが、はたと気付く。自分たちが望んでいる決済サービスがない。こちらにこそ、本当のビジネスチャンスがあるのではないか?

勇んで決済事業をスタートしたものの、創業したてのスタートアップに現地の大手金融機関が簡単に門戸を開いてくれるわけもなかった。

「(営業には)めちゃめちゃ苦労しました。突然事業を立ち上げて金融機関に接続させてくれって、『ユーたち、誰?信用もないのにどうしたの?』みたいな(笑)。ありとあらゆるコネを使って、無理やり扉をこじ開けました」

光明が差してきたのが、2015年頃だったという。

東南アジアでフィンテック・ビジネスが拡大するにつれ「シードで投資する海外投資家が一気に増えた」。大手企業もスタートアップとの連携に積極的になってきたことで、さらに導入企業は拡大した。

5年で10倍成長の「組み込み型金融」

Embedded Financeの仕組み

組み込み型金融(Embedded Finance)の仕組み。金融サービスと非金融サービスを、APIを使って橋渡しする。

画像:日立総研

Opnが手がける事業領域は「組み込み型金融(エンベデッド・ファイナンス)」と呼ばれ、成長著しい分野として世界的にも注目されている。

組み込み型金融とは、本来金融を手がけているわけではない事業会社が、自社サービスに金融機能を文字通り「組み込む」ことを指す

例えばUberのような配車サービスは、アプリ内に決済機能があるため、立ち去るだけで勝手に支払いが済むようになっている。これは「タクシーの配車」というサービスに「決済」をつなぎ込んだ、組み込み型金融の典型的な事例だとされる。

LINEにも、メッセージアプリの中に「LINE証券」などの金融サービスが組み込まれている。一般消費者にとっても組み込み型金融は馴染み深いものになってきている

この組み込み型金融の市場規模について、アメリカでは2020年には225億ドル(約3兆1000億円)だったのが、2025年には922%増の2300億ドル(31兆9000億円)に迫ると予測されている

組み込み型金融

「組み込み型金融」による2020年と2025年の収益をセグメント別に比較したもの。左から「資産運用」「消費者金融」「保険」「決済」。

出所:Insider Intelligence

非金融サービスが銀行や保険会社などの金融サービスをスムーズに導入できるようにする、いわば仲介企業は「イネーブラー」とも呼ばれ、Opnもイネーブラーの一種だ。

Opnは今、トヨタのキャッシュレス決済アプリ「TOYOTA Wallet」の開発も担っている。

市況は悪いが「今こそアクセル踏む」

長谷川潤

「(成長し続けるには)ジェフ・ベゾスが言ったように、10年後も変わらない人間の欲求に応えること」(長谷川氏)

撮影:岡田清孝

ロシアによるウクライナ侵攻に端を発する世界的なインフレなどもあり、2022年、株式市況は不安定な状況が続いている。

IPOの具体的な時期について長谷川氏は言及を避けた。しかし、売り上げだけでなく、キャッシュフローや利益、ガバナンスなどもバランスよく整えることで「IPO-able(いつでもIPOができる)な状態になっていることが重要だ」と語った。

「どこかに集中して何かを投下するということ自体がリスクになる時代。(企業のリスク分散という観点から)グローバライゼーションはどんどん進むと思っています。むしろ今こそ、色々な市場に出てアクセルを踏む時」

IPOする国については「市況の変化や株主のことも考慮して、よく検討する必要がある」とした。現時点では、日本と海外投資家の株主比率は同程度だという。

「(成長し続けるためには)ジェフ・ベゾスが言ったように、10年後も変わらない人の欲求に応え続けること。決済というのは、ものすごい面倒くさいことでしかない。それをいかにシンプルにして、決済していることをユーザーに感じさせないようにするか

東南アジアを経て日本に戻り、世界へ打って出ていく「決済企業」。その先に、金融の常識が破壊される未来があるのだろうか。


長谷川潤:1981年生まれ。東京都出身。経営者の両親の元で育つ。高校時代に単身渡米しWebサービス開発を経験。ライフログアプリ「LIFEmee」で2009年TechCrunch50のファイナリストに選出。複数の起業を経て、2013年タイでECサービスを開発するOmiseを設立。ワンストップペイメントの決済機能開発へのピボットが好機となり、タイ財閥系携帯事業社との業務提携を経て、マレーシア、シンガポールなど東南アジア全域で展開する。2020年3月に決済領域を主軸にブランドをOpnに統合し、タイと日本に法人を設立。

(取材・文、西山里緒、撮影・岡田清孝)



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