CXプラットフォーム「KARTE(カルテ)」を基幹プロダクトに持つSaaS企業、プレイドが新たに立ち上げたユニット「STUDIO ZERO(スタジオ ゼロ)」。彼らが目指すのは、産業構造の変革を見据えた企業や行政の「共創パートナー」だ。
三井物産、JTB、損保ジャパン、地方自治体など……大手企業や行政・公的機関からのオファーが絶えないSTUDIO ZEROには、いまミッションに共感した多様な人材が集まっている。
大手コンサルティングファームやIT企業の役員、中央省庁出身者などが集まり動き出しているSTUDIO ZEROは、何を考え、何を成し遂げようとしているのか──生の声を聞いた。
CXプラットフォームが、なぜ「産業の変革」を目指すのか?
STUDIO ZEROのWEBページより
「上場企業として改めてスタートラインに立った我々は、歴史に新たな1ページを刻む会社・事業を創るために、これまでよりも更に高い視座・視点の取り組みを開始します」
これは、プレイドが2021年、新たな事業開発組織であるSTUDIO ZEROを発足させた際にWEBページに掲げた言葉だ。同社は2011年に設立され、金融から小売、製造業まで幅広いセクターの企業に導入されているCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を主軸とするSaaS事業を展開。2020年12月には東証マザーズ(現・東証グロース)市場への株式上場を果たした。
設立から9年でのIPOという大きな節目にあたり、創業者兼代表取締役の倉橋健太を中心に、次の10年、20年に向けて新しいプレイドをつくっていくための議論を重ねた。そこに参画していた、後にSTUDIO ZERO事業部長となる仁科奏は明かす。
「既存のソフトウェア事業に縛られず、ゼロから新たな事業を生み出していく場=スタジオを設けようというアイデアが生まれ、それを具現化したユニットがSTUDIO ZEROです」(仁科)
注目すべきは、この「新たな事業」を生み出す目的が、単にプレイドという企業の成長だけではない点だ。「データによって人の価値を最大化する」という同社のミッションの実現をさらに推し進め、クライアント企業はもちろん、産業や社会にまで変革をもたらすこと。さらに生活者一人ひとりの体験をよりよくしていくこと。それがSTUDIO ZEROの目指すところだ。
事業の具体的な方向性を固めていくプロセスの中で、こんなことがあったと仁科は振り返る。
「前職の先輩や後輩、友人など、経営層・事業部長クラス300人ほどとアイデアの壁打ちをしました。そこで改めて痛感したのは、日本経済がこれまでの30年間で変われなかったのは、組織内で変革の旗を掲げ、実行する存在が足りなかったということ。
また、個社で取り組むだけでは社会は変わらず、組織を超えて産業構造自体の変革に取り組まなければいけないということでした」(仁科)
そうして2021年4月、「データであらゆる産業を振興する」ことを目指してSTUDIO ZEROはスタートする。プレイドの創業からちょうど10年目のことだった。
提供:プレイド
それから約1年半。STUDIO ZEROはすでに商社、金融、鉄道、メーカー、不動産、通信など幅広い業種のクライアントと取り組みを進めている。
現時点でSTUDIO ZEROが企業にむけて提供しているサービスは、大きく分けて次の3種だ。
- BX[ビジネス変革]:新規事業の共創(PLAID Accel)
- CX[顧客体験]:顧客戦略立案・実行(PLAID Unison)
- EX[従業員体験]:組織・人材開発(PLAID Chime)
さらに加えて、最近は奈良市(奈良県)や三田市(兵庫県)といった行政(地方自治体)との取り組みが増えていると言う。
STUDIO ZEROはなぜ、短期間のうちに支持を得ることができているのか。彼らはどんな価値を提供しているのか。今回はBX領域、CX領域、そして行政に向けた変革支援領域を担当している、各取り組みの責任者3名に話を聞いていこう。
「クライアントの新規事業にとことん伴走する」
藤井厚(ふじい・あつし)/フューチャーアーキテクト、電通コンサルティング、ドリームインキュベータの社内ベンチャー、オークファンの執行役員を経て現職。オークファンでは新規事業開発を統括し、事業の立ち上げとグロースを推進。現在は大企業との事業共創、事業開発の伴走支援を管掌。
1人目は、BX分野で新規事業開発伴走支援サービス「PLAID Accel(プレイド アクセル)」を立ち上げた藤井厚だ。藤井は、コンサルティング会社や上場企業の役員を経て、STUDIO ZEROにジョインした。
「私は、前職で事業会社の役員として、新規事業開発や大企業との事業共創を多く手がけてきました。これまでの経験を活かしてより大きなチャレンジをしたいと考えていたところ、STUDIO ZEROが『あらゆる産業を振興する』ことに愚直に向き合っている事業開発組織であるという点に強い興味を持ちました。
さらに、STUDIO ZEROには個性的かつさまざまな分野で実績を挙げてきた猛者が集結していて、ここでなら大きなコトを成し遂げられそうだと確信して、ジョインを決めました」(藤井)
藤井らは、クライアント企業の新規事業開発の伴走支援や新規事業創出プログラムの運営、さらに大企業との合弁会社設立など、幅広い案件を手掛けている。
プレイドには、事業開発に欠かせないCXのナレッジや事例が豊富に蓄積されており、「CXを軸とした事業開発」が大きな特徴だ。
「STUDIO ZEROは大企業との取り組みが多く、どの企業も新規事業に力を入れ始めています。ただし、新規事業経験が豊富な人材が社内にいない、もしくは不足しているケースも多くあります。
私たちが事業づくりに伴走する上で強く意識しているのは、事業開発の知見が支援先企業の当事者や社内に蓄積され、内製化を推進することです。
今後は、支援といった関わり方だけでなく、互いに手を取り合って事業をともに創る取り組みにもチャレンジしていきます」(藤井氏)
実際に2021年8月には、三井物産とプレイドによるD2C事業の合弁会社「ドットミー」を立ち上げた。ここではSTUDIO ZEROのメンバーが事業運営の一員となり、事業の成長にコミットしている。
「“顧客中心主義”の経営を当たり前に」
濵﨑豊(はまさき・ゆたか)/大手コンサルティング会社などを経て現職。これまでは金融機関のクライアント責任者として、顧客体験を起点とした新規事業開発や既存事業変革を推進。特にデジタルサービス企画やセールス&マーケティング領域におけるデジタライゼーションの計画立案から実行、大規模プロジェクトマネジメントを得意とする。
続いて、企業の既存・基幹事業をCXの切り口から変革するサービス「PLAID Unison(プレイド ユニゾン)」を担当する濵﨑豊に聞いてみよう。大手コンサルティング会社でキャリアを積み、パートナー職を務めた後、STUDIO ZEROに入った。
「もともと、プレイドがCXを核とするSaaS企業であることは知っていました。また、マーケティング領域で、KARTEというサービスの存在やその付加価値は広く知られていたので、実は活用する側としても関わっていたんです。
前職のコンサルティングファームは基本的にB2B視点が強く、クライアントの先にいるエンドユーザを見据えた仕事が行いづらいというジレンマを感じていました。
STUDIO ZEROではCXを中心に据えたサービスが仕掛けられるという点が、入社を決めた一番の理由です」(濵﨑)
手掛けているのは、大手企業を対象に、優れたCXの実現に向けた構想を描き、既存・基幹事業のアップデートを担うサービス。例えば、大手不動産会社のスマートビルディング開発プロジェクトでは、エンドユーザとなるオフィスワーカーや施設利用者のニーズ把握と企画への反映を、大手金融機関の代理店ビジネス変革プロジェクトでは、深い顧客理解に基づき、あるべき顧客体験戦略の立案から実行施策までをサポートしている。
濵﨑はプロジェクトを進める中で、「大企業の既存・基幹事業は、業界や全社的な構造改革から取り組まなければ変えることが難しい」と感じていると話す。
「顧客体験向上の実現に向けて、“全社的な観点から変えていきたい本社”と“日々の課題解決に取り組む現場”では、目指す変革への方向性や思いが乖離していることも珍しくありません。
そこで私たちのプロジェクトでは、本社と現場の両方に何度も足を運び、エンドユーザであるお客さまの声を聞いた上で、最適解を一緒に見つけ出して変革の必要性や方向性を提言しています。
その際も、プレイドが持つ知見や経験を活用した、顧客の深い理解や体験創出が鍵になります。PLAID Unisonでは『企業・産業があたりまえに顧客中心主義で運営される世界観の実現』を掲げて、企業の変革に取り組んでいます」(濵﨑)
「個人の行動変容を後押しする、新たな仕組みをインストールしたい」
河野高伸(かわの・たかのぶ)/国家公務員として財務省入省後、予算編成、国有財産行政、金融規制等に従事。その後、再生可能エネルギー事業を営むレノバの社長室にて、経営参謀(各種経営課題解決)、組織人事戦略、政策渉外活動、再エネ事業開発支援を牽引した経験を持つ。
STUDIO ZEROの対象領域は、上述で触れたようなクライアント企業の変革支援に限ったものではない。生活者一人ひとりの体験をより良くしていくことも志向して、産業のみならず地域や国家視点での社会変革につながるバリューチェーン(価値連鎖)を構築するための新興事業の社会実装にも挑む。
その第一歩として、プレイドの持つ顧客体験やデジタルビジネスといった強みを活かした、地域創生や行政のデジタル化に向けた事業共創に取り組んでいる。
これらを担う河野高伸は、財務省に18年勤務した後、再生可能エネルギーの事業会社に転じ、その後STUDIO ZEROを選んだ経歴の持ち主だ。
「かつての渋沢栄一氏のように、公共政策家の視点で社会課題を捉えながら、その課題解決をしたい。個人の行動変容を後押しするようなテクノロジーや新興事業を社会実装することで、より良い未来に貢献したい、という志を持って職業人生を歩んで来ました。
国家公務員から再エネベンチャー企業の経営参謀を経て、ここから先は新興事業の社会実装を直接担う事業家の道に進みたいと考えていて、それが実現できる環境を探していました。
そのような中で、『PLAY & AID』(個々人が人生を楽しむことを支援する)を社名に掲げ、デジタル事業やデータの力を用いて人間価値の最大化に挑むプレイドと出会い、STUDIO ZEROが社内起業家を募っていることを知りました。
STUDIO ZEROが目指していることと自身の志がフィットしていると感じて、入社を決めました」(河野)
現在河野は、地域創生のためのバリューチェーン構築に向けた事業の第一弾として、自治体のデジタル行政サービス上にてユーザーである住民の体験価値向上(Citizen Experience=住民/市民体験:CX)を可能にする「自治体行政・CXデジタルプラットフォーム(仮称)」の事業化に取り組んでいる。
例えば奈良市の案件では、住民の体験価値向上に着目し、子育て支援に関する情報を求めて市役所のサイトを訪れる住民を対象に、提供する情報を個々に最適化する実証実験を行った。
それは、デジタル空間にある膨大な情報の中から、ユーザーである市民個人の単位で必要と考えられるものを、プレイドが有するデータ解析テクノロジーにより察知して、個別最適・優先的に提示することで行政サービス上のCitizen Experienceの創出を目指したもの。取り組みは全国から注目を集め、他自治体からの協働の引き合いも出てきている。
「自治体行政・CXデジタルプラットフォーム事業(仮称)については、近くベータ版のプロダクトをローンチする予定です。
この事業を皮切りに、さらに地域・国家視点での社会課題を解くための新規事業を展開していきます。そのためにも同じ志を持つ企業や行政、アカデミアの方々などと事業共創を進めていきたいと考えています」(河野)
登る山と道は、自分たちで決める
3人から共通して感じられるのは、STUDIO ZEROをプラットフォームとした未踏の挑戦への意欲だ。プレイドは今、この新ユニットの強化・拡大に力を入れている。
「産業にせよ社会にせよ、現状に『これ、なんかおかしくない? どうにかできないかな?』と問題意識を持ち、それを解決していくという大義と健全な野心を持つ人が集まっているのがSTUDIO ZEROだと思っています。この点については今後、事業成長や組織拡張していく中でも失わずに大事に守り育てていきたい。
また、メンバー全員がエンドユーザーの幸せのため何ができるのかを常に考えて行動しているのも組織の特徴です。
0から1を創るのって本質的にはしんどいことが多いと思うんですよ。苦しいことをストイックにやる人もかっこいいですが、僕らは、ネアカに笑いながら“”うまく行かなかったね、でも次に行こう!” と失敗を受け止めつつPLAY(楽しむ)に変えていくカルチャーを大事にしたいです」(河野)
「組織はフラットで非常に風通しがよいです。みんないくら忙しくても、困りごとや相談ごとに対してきちんと心を向けて、解決の糸口を探ろうとするんです。
壮大なテーマに挑んでいるからこそ、個性を大事にしながら強みを引き出し合い、ワンチームで挑む文化が根付いているのかもしれません」(濵﨑)
クライアント企業や地域のプレイヤーなどを変えていくことで、産業や社会構造の変革までを目指すSTUDIO ZEROは、プレイドという上場企業をアップデートしていく使命を持ったユニットでもある。変化を求め、楽しみ、そして諦めずに進み続ける異能が集まるチームには、決められた制約もない。
「驚くほど“ルールに縛られない”環境です。逆に言えば、登る山と道を自分で決めて、周囲を巻き込みながら実行していくオーナーシップが強く求められます。成し遂げたいこと、過去の経験を活かして新たにチャレンジしたい方にとっては最適な場所です」(藤井)