ヘルスケア事業に進出してアマゾン(Amazon)と激戦を繰り広げる米小売り大手ウォルマート(Walmart)が、本格的な臨床試験サービスの提供まで検討している模様だ。
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ヘルスケア事業の拡大を目指す米小売り大手ウォルマート(Walmart)がさらなる野心を露(あらわ)にしている。
米アーカンソー州ベントンビルに本拠を置く同社は8月11日、「Healthcare Research Institute(ヘルスケア・リサーチ・インスティテュート)」「My Health Journey(マイ・ヘルス・ジャーニー)」という2件の商標登録を出願した。
ウォルマートは将来的に、研究段階の治療法の有効性や安全性を評価する臨床試験を実施したいと考えている模様だ。
2件の出願書類には共通して以下のような文言が見られ、ウォルマートの目指すところを示唆している。
- 「製薬および臨床試験の分野において」医学的・科学的研究情報を提供する
- 「他者のために」臨床試験を実施する
- 研究および臨床試験において、データをまとめ、他者に対してコンサルティングサービスを提供する
ウォルマートは出願した登録商標をどのように利用するのか、臨床試験の実施にいつ着手するのか、いずれも現時点では分かっていない。
同社の広報担当にコメントを求めたが、記事公開までに返答はなかった。
なお、臨床試験分野に参入する小売業者はウォルマートが初めてではない。
米ドラッグストア大手CVSヘルス(CVS Health)は2021年5月、臨床試験サービス事業をスタートさせると発表。
被験者の募集・登録から、各地のCVS店舗や被験者の自宅、遠隔地でのバーチャル実施など新たな手法としての分散型臨床試験(DCT)オプションの提供、治験結果に基づくレトロスペクティブスタディ(後ろ向き研究、現在および過去に遡及したデータを調査)・プロスペクティブスタディ(前向き研究、試験開始後の現象を観察)まで手がけるとしている。
また、2022年6月にはやはり米ドラッグストア大手ウォルグリーン(Walgreens)が、より多様なコミュニティにアプローチするため、臨床試験事業をスタートさせると発表した。
ヘルスケア企業のデジタル化支援を手がけるロック・ヘルス・アドバイザリー(Rock Health Advisory)のサリ・カガノフによれば、臨床試験に参加する被験者は高学歴・高収入層の白人が大半を占める。
全米4700カ所以上の店舗を展開するウォルマートをはじめ、各地に多数の拠点を持つ小売業者が臨床試験サービス事業に参入することで、被験者の広がりが期待できるとカガノフは指摘する。
「より多くの、より多様な背景を持つ被験者が臨床試験に参加できるような環境をつくることで、試験からより役立つデータが得られるようになり、現時点では確立されていない新たな治療法を適用できる可能性が生まれます」
ウォルマートの野心
今回の商標登録出願は、ヘルスケア分野の成長を目指して野心的な目標を設定し、同分野で競合する他の小売業者を出し抜こうとするウォルマートの積極的な姿勢を反映したものと言える。
2018年、ウォルマートの取締役会は2029年までに全米で4000カ所のクリニックを開設する計画を明らかにした。
ただし、計画の進捗はかなり緩やかで、いまのところジョージア、アーカンソー、フロリア、イリノイの4州で24のクリニックを開設するにとどまっている。
一方、2021年5月に発表した遠隔診療サービスのMeMD(ミーエムディー)買収をはじめ、すでにいくつかのM&A(合併・買収)を実現させ、医療ネットワークの強化は着実に進む。
2021年9月には米電子カルテ最大手エピック(Epic)との提携も発表した。同社の電子カルテサービスは、全米2000以上の病院と約4万5000のクリニックで利用されている。
前出のカガノフによれば、ウォルマートの臨床試験サービス参入は、大きな収益を期待できるビジネスという意味では理にかなっているという。
とは言え、CVSヘルスやウォルグリーンなどヘルスケア分野への進出を進める小売り大手や、対面プライマリ・ケア(初期診療)クリニックを展開するワン・メディカル(One Medical)の巨額買収を最近発表して勢いづくアマゾン(Amazon)に対抗するには、ウォルマート(の店舗)が医療サービスを提供できる場所であることを市民に広く認識してもらう継続的な努力が不可欠、とカガノフは指摘する。
「ウォルマートは、店舗で安価にちょっとした健診が受けられるといった程度ではなく、信頼に値する医療機関そのものであることを証明する必要があるでしょう」
[原文:Walmart has ambitions to conduct clinical trials and scientific research, trademark filings suggest]
(翻訳・編集:川村力)