洪水に見舞われた町を歩く男性。2022年8月30日、パキスタンのジャコババードで。
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- パキスタンでは、数カ月におよぶ洪水により国土の3分の1が水没し、何十億ドル規模の損害が生じて、死者は1191人以上に上っている。
- 気候変動による気温の上昇は、世界各地の豪雨や洪水の発生につながっている。
- パキスタンは過酷な気候変動の影響を受けているが、同国の温室効果ガス排出量は世界の1%に満たない。
パキスタンでは、2カ月にわたって雨が降り続き、過去10年で最悪の洪水が発生した。この洪水により、道路や建物、農作物に被害が出ている。同国の気候相によると、国土の3分の1(米コロラド州と同程度の面積)が水没しているという。
当局の推計では、パキスタンの7人に1人にあたる3300万人以上の人々が、洪水の影響を受けているという。また、国家防災管理局によれば、2022年8月31日の時点で1191人の死者が出ている。
国連のアントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)事務総長は、8月30日のビデオ声明で「パキスタンは苦しみに満ちている」述べ、1億6000万ドルの緊急支援を呼びかけている。また、「パキスタンの人々は、極端な季節風による前例のないレベルの雨と洪水という過酷な影響に直面している」とも述べた。
気候変動の主な要因である温室効果ガスの排出量は、経済的に豊かな工業国がパキスタンのような低排出国を大きく上回っている。だが今、パキスタンは気候変動がもたらす致命的な影響を受けている。
洪水の中、ボートでバイクを運ぶ人々。2022年8月31日、パキスタンのセーワンで。
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パキスタンを襲った「極端なモンスーン」
パキスタンのシャバズ・シャリーフ(Shehbaz Sharif)首相によると、6月以降続いてきた豪雨により、100万棟以上の家屋が損傷または損壊し、道路への被害規模は距離にして3000kmにおよぶという。同国政府の試算では、洪水による経済損失は100億ドル以上にのぼるとされている。
ガーディアンによるとシャリーフ首相は8月30日の記者会見で「国内で72の地区が被災し、各地で水没の被害が生じている。これほどの惨状を見るのは生まれて初めてだ」と述べた。
同国の惨状の規模は以下の衛星画像で見て取れる。
パキスタンのラジャンプールの村と畑。左が洪水の前。
Maxar
南アジアでは6月から9月までの間が雨季だ。しかし、8月に発表された国連の報告書によると、パキスタンのこれまでの降雨量は過去30年間の平均の3倍近くに上っているという。
パキスタンのシェリー・レーマン(Sherry Rehman)気候変動相はTwitterへの投稿でシンド州のある町では1日で1700mmの雨が降ったと述べ、「前例がない」とも書いている。
今回の災害は、2000人以上の死者を出した2010年の洪水に匹敵するものだ。
気候変動が洪水の被害を広げている
パキスタン・シンド州のハイデラバードで洪水の中を歩く人々。2022年8月30日。
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国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は最新の報告書で、人為的な気候変動により、洪水の発生確率が高まり、被害が深刻化することを示す研究結果が増えつつあるとしている。温暖になった大気はより多くの水を保持することができるため、より激しい降雨と洪水が引き起こされるのだ。
また、氷河や雪の融解も洪水の原因となる。パキスタンには7200以上の氷河があり、これらが気候変動による世界的な気温の上昇で急速に溶けることで、氷河湖が形成され、さらなる洪水を招くおそれがある。
ガーディアンによると、レーマン気候変動相は8月30日の記者会見で、パキスタン各地の町が「海や川」と化したと述べつつ、他方で今後数週間は国土が干ばつに見舞われると予想している。また、「我々は気候変動がもたらす大惨事の最前線にいる」とも述べた。
「これは自ら招いたことではない」
「Our World in Data(データで見る我々の世界)」によれば、パキスタンの温室効果ガス排出量は、世界の排出量の1%未満であるにもかかわらず、特に深刻な気候変動の影響を被っている。
シャリーフ首相は記者団に対し「気候変動がもたらした我々の苦しみは、決して自ら招いたものではない」と発言した。
環境シンクタンクのジャーマンウォッチ(Germanwatch)がまとめた2021年の世界気候リスク指数では、パキスタンは気候変動に対して脆弱な国の上位10カ国にランクインしている。
グテーレス事務総長は、南アジアを「気候危機のホットスポット」と表現し、気候変動の影響により死亡するリスクが他の地域に住む人々の15倍もあるとしている。
グテーレス事務総長はビデオ声明で「世界中で異常気象が増え続ける中、温室効果ガスの世界的な排出量は依然として増加しており、気候変動対策が後回しにされているのは言語道断だ。それによって、我々全員が、どこにいるかを問わず、ますます膨れ上がりつつある危機にさらされることになる」と述べた。
さらに「気候変動による地球の破滅に向かって夢遊病者のように歩を進めるのはやめよう」と述べ、次のように付け加えた。
「今日はパキスタンだ。明日はあなたの国かもしれない」
(編集:Toshihiko Inoue)