アート×サイエンスで顧客の事業成長を実現。電通の新たな職「統合グロースプランナー」の醍醐味

広告会社は、メディアの広告枠を差配して、優れたクリエイティブで消費者の心を動かすことが仕事——。もはやそうした認識は古い。電通はかねてからクライアントの事業グロースを支援してきたが、2021年2月、自らをインテグレイテッド・グロース・パートナー(Integrated Growth Partner)と位置づけて、あらためてその姿勢を鮮明にした。

社内でその実行を担うのは「統合グロースプランナー(IGプランナー)」という職能だ。具体的にどのようなことをするのか。データを武器にクライアントの事業グロースにコミットする、データマーケティングセンターのシニア・ディレクター、江頭瑠威氏に話を聞いた。

徹底的にデータを活用して、事業戦略から実行までを担う

江頭氏の写真

江頭瑠威(えがしら・るい)氏/電通 データマーケティングセンター シニア・ディレクター。電通入社後、広告のアカウンタビリティ研究・開発部門、戦略プランニング部門を経て、2012年からビジネスインテリジェンス部門に所属し、大規模データに基づいたマーケティングを実践。2019年より部長として現在のデータマーケティングセンターにて、クライアントの事業成長に寄与するプロジェクトの戦略立案から実行支援までを行っている。

電通のデータマーケティングセンターでは、データを軸に、クライアントの事業戦略、マーケティング戦略、ブランド戦略などの戦略立案から、そのエグゼキューション(実行)までを手がけている。その旗振り役となるのが統合グロースプランナーだ。

マーケティングにおけるデータ活用というと、これまでは「○○さんはアンケートでこれが好きだと答えたから、それを参考にして企画や施策を考える」というようにアンケート調査データなど、スモールなデータを活用したマーケティングが主流だった。そして、アンケート調査で見つけた理想の顧客像と実際の打ち手は直接データがつながるものではなかった。

しかし、データマーケティングセンターが取り扱うデータは調査データにとどまらず、また、データの利活用も顧客像を描くだけではない。江頭氏は次のように説明する。

「現在、購買データ、位置情報、WEBサイトやアプリの利用ログといった様々なデータを活用して、『Aという行動をしたIDは、次はあの商品を購入検討する確率が高い』というように、次の行動につながる兆しまで捉えてデータを利活用できるようになりつつあります。

複数のデータを統合した大規模なデータの活用はまだまだ発展途上で、単なる分析だけではなく、それを使ったアプローチ方法の開発までさまざまな可能性を秘めています。私たちはその利活用を、クライアントと一緒に考えるところからやっています」(江頭氏)

統合グロースプランナーは、これらのデータをどのように活用していくのか。江頭氏が率いるPDM(People Driven Marketing)推進3部のケースで具体的に紹介しよう。クライアントを支援するフェーズは4つある。最初はオブジェクティブ(目的)の明確化だ。

「クライアントがある商品を500万個売りたいと考えていたとします。現在の市場の需要が把握できると、それに対して、可能というべきか、難しいというべきかもわかりますし、逆に市場がクライアントの想定よりも大きい場合はもっとストレッチなプランを立てたほうがいいかもしれません。

狙うべき顧客を規定したうえで、そのボリュームをデータマネジメントプラットフォーム(DMP)上で再現し把握する。そうすることによって、戦略における意思決定や実行可能性の判断を、クライアントに寄り添いながら支援するのがフェーズ1です」(江頭氏)

目的が明確になったら、フェーズ2として、誰を優先的に動かしていくのが事業としてよいかの意思決定を支援する。

「これまでは、この“誰を動かすか”の部分と実際の打ち手が分断していたり、施策を打つ側の制約で細かい顧客設定をしても実行段階ではそれを再現できなかったりしました。ですが、データから、よりこの商品を買ってくれる可能性の高い人とともに、その人が普段見ているメディア、その時に重視することなどが、一つの流れとしてわかってくるので、より効率が良く、クライアントとしても納得性の高いプランをつくっていくことができるようになりました」(江頭氏)

実際にマーケティングの実施策・クリエイティブをつくるのはフェーズ3だが、ここも従来とは違う。

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「クリエイティブにはアートの要素があって、本当に効果があるのか事前にはわかりにくい。そこにデータサイエンスを持ち込み、X方向の企画とY方向の企画、どちらにどのようなリターンとリスクがあるのかを分析して、その評価軸を提示。それを元にクライアントが意思決定しやすいよう支援していきます。

また、データを基点にすることにより、案だけ見ると突飛に見えたものが、実はマーケティング目標には叶っていることが分かったりしますので、その点でも、クライアントにとっては通常は判断が難しいクリエイティブに関する意思決定などで大きな効果を発揮することがあります。」(江頭氏)

クリエイティブが完成し、マーケティング施策を実施できても終わりではない。実際、それによってどれくらいの効果があったのかをデータで検証するのがフェーズ4。その結果を前のフェーズにフィードバックして、より質の高いマーケティングを実現していく。

「フェーズ1と2は主にコンサルティング会社、3と4は広告会社、4の中でも購買など売り上げの管理はクライアント自身が担うことが多かったのですが、私たちはそれらを統合してワンストップでサービス提供を行うこともあります。

データ活用はまだ正解がない世界で、まず一歩踏み出すことが大切。私たちはワンストップで戦略から実行まで寄り添えるのでスピード感を持って取組を始めて行くことができます。もともとコミュニケーションを武器にしてきた会社ですし、難しい顔をするより、まずは前向きにやってみようと考える人が多い。そこも電通の強みですね」(江頭氏)

データマーケティング自体が新領域だからこそ、個々の“好き”や“専門性”とデータマーケティングを掛け合わせることが求められる

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戦略立案から実行まで、幅広い領域での活躍が求められる、統合グロースプランナー。ただし、1人ですべての領域をカバーするのは難しい。PDM推進3部も7~8人のメンバーがチームで仕事を進めているという。

「このデータマーケティングの領域自体が、まだ未完成・未開拓の領域です。全員がチャレンジャーともいえます。ですので、一人で全部カバレッジできる人財がそもそもいない、あるいは少ないとすると、『SNSのプランニングが非常に得意。』『メディアプランニングの経験が豊富』『タレントグループXXのことなら誰にも負けない』『戦略コンサルやブランドコンサルの経験が豊富』というように、何かしら得意領域・好きな領域を持ったメンバーを集めて、それぞれ専門性に新しいデータマーケティングを掛け合わせていくことで、そのアプローチ自体も進化しますし、各々の得意分野を活かし、クライアントに寄り添いながら、データマーケティングを組み込んでいくことで大きなバリューを発揮できると考えています。

そういう意味では、データサイエンス一筋の方よりも、様々なキャリアを経てきた方々で一緒に、そして自分なりのデータマーケティングを0から切り開いていきたいという熱量がある方が活躍できる領域であると実感しています。」(江頭氏)

専門性や本人の得意や好きを重視するとはいえ、統合グロースプランナーとして備えておくべき共通の能力もある。

「共通の能力として、いわゆるデータサイエンティストと呼ばれる人が求められるような高度な数学的な能力は求めていません。

ただ、仮説を立案しそれをもとに、手元にある表計算ソフトやモデリングツールでデータを分析し自分の初期仮説を検証できるくらいの能力と、数字やデータで物事を論理だてて説明することを好むマインドは必要です」(江頭氏)

デジタルの世界は日進月歩。プラットフォーマーの動向やAI、データのマネジメント方法など、新しい技術やビジネスの仕組みを学び続ける姿勢も重要だ。新しいテクノロジーを知らないと、クライアントに提案するプランの幅も狭まってしまう。机の上でデータを分析するのは好きだが、世の中の動きには興味がないというタイプでは、そもそもプランナーに向いていない。

また、統合グロースプランナー(IGプランナー)の「I=Integrated」の字が示すように、統合力も欠かせない。

「たとえ専門知識があっても、クライアントの向かうゴールが見えていないと専門性を見当違いの方向に発揮しかねません。全体像を俯瞰して自分のポジションを理解し、統合的にクライアントの課題を解こうとする意思は必須です。

特にマーケティングがデジタル化していくに際して、各技術や手法の専門性が高まることによって分業・細分化していく時代だからこそ、自分の得意分野・専門性に加えて、統合的な視座を持った人が活躍できると実感しています。」(江頭氏)

事業グロースの出口まで寄り添うから味わえる充実感

統合グロースプランナーはカバーする領域が広いだけに、どこにおもしろさを感じるのかは人それぞれだ。例えば、これまでエグゼキューション(実行)を中心にやってきた人は、戦略立案という上流側が新鮮に映るかもしれない。一方、戦略側の人は、プランを立てっぱなしで終わるのではなく、出口のところまで寄り添えることにやりがいを感じるかもしれない。江頭氏は後者の例を一つ教えてくれた。

「IGPを標榜する部署は、電通にも沢山あり、それぞれがプロフェッショナルとして役割を果たしています。その中で特に私の部の特徴は、戦略立案から実行までデータを基点にクライアントに寄り添う点にあります。

例えば、ある世界的人気ゲームアプリの利用者数が頭打ちになり、収益が落ち始めたという相談をクライアントから受けました。その際、私たちは、大規模なデータを基点に、動かすべき顧客の規定とそのボリュームの推計、オフラインとオンラインのタッチポイントのプランニングと実施、そして実施後の行動データを計測して利用者数を増やしていく改善サイクルの設計を、社内の各プロフェッショナルと連携しながら、クライアントと作り上げました。

このときは、マス広告以外は私たちのチームで企画とクリエイティブ制作・実施まで行ったのですが、データドリブンでプランニングされたクリエイティブが世の中に出て、想定通りソーシャルメディアに広がっていったときは、データ基点で行う施策の効果と、実際に世の中にクリエイティブが出ていく醍醐味の両方をメンバーも実感できたと思います。またその結果、事業のグロースにも微力ながら貢献できたときの達成感は、単にクリエイティブが世の中にでるころよりも、データマーケティングの新しい世界を見た気がして大きかったように思います。

このとき、データを基点にしつつも、手段をデジタルに閉じず、クライアントの事業グロースに貢献するための施策を統合的に実行するとはこういうことなのかと、はじめて自分事化したメンバーもいたのではないでしょうか」(江頭氏)

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アート×サイエンスでクライアントの事業成長と世の中の需要創造にチャレンジする

電通は、統合グロースプランナーの採用を強化して、クライアントの事業グロースにさらに強くコミットしていく考えだ。最後に江頭氏は統合グロースプランナーを率いる部長として、また自らも日々実行支援をおこなう一人のプランナーとしての意気込みを語ってくれた。

「電通には優れたコピーライターやアートディレクター、CMプランナー、メディアプランナー、プロモーションのプランナー、コンテンツのプロデューサー、営業など、本当に様々な領域のプロ、世の中を大きく動かす力を持った傍から見ると魔法使いのような人が大勢います。

どうやったらこんな企画を思いつくのか、どうすればこんなことを実現できるのかと驚くことも多いです。一方で単に企画を通すという視点ではなく、なぜその企画がクライアントの事業の成長に寄与するのかを、クライアントに寄り添い、クライアントの判断の精度を高め、戦略に落とし込むような、サイエンスの部分はこれまで十分ではありませんでした。

結果、本当は事業成長に寄与する可能性の高い戦略やクリエイティブの提案が通らないことも多かった。それは電通はもちろん、もしかしたらクライアントの事業成長にとっても機会損失だったかもしれません。統合グロースプランナーはデータを基点に、クライアントに寄り添いながら、その戦略や提案したプランのリスクやリターンを明らかにし、その判断に寄り添い、実行に責任を負いながら、事業成長を実現していく

これまでデータが活用されていたデジタルの領域ではどうしても縮小均衡になりがちなアプローチで既存の需要を刈り取るゼロサムなプランや、経済メリットだけが追求されたプランが立てられることが多かったのですが、これからは、アートとサイエンスの両方の視点を持った統合グロースプランナーが、クライアントとともに、ゼロサムではない新しい需要や市場、そして生活者の感動といった、大きな心の動きを創り出すことにチャレンジしていくことになると考えます。

デジタル接点がカバレッジする人が増え、活用できるデータはどんどん増える。データのハンドリング手法も進化しており、これまで見えなかった、新しい需要の兆しなどもこれから見えやすくなってくると思っています。

例えば、その事業を伸ばすために、生活者の中に“新しい体験をしたく”なる気持ちを創れないか? その商品が必要となるような“新しい生活スタイルを創出”できないか? そんな、クライアントの事業の成長はもちろん、明日は今日よりも良くなるんだという、生活者のワクワクするような気持ちの動きを創り出す。それが、コンサルティングファームでもない、デジタルメディアエージェンシーでも、システムインテグレーターでもない電通ならではの、データとデジタルへの向き合い方、本質的なIGPのアプローチだと考えています。」(江頭氏)


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