NASAジェット推進研究所で火星探査機「パーサヴィアランス」の内部に「火星酸素現場資源活用実験(MOXIE)」の装置が収められる様子。
NASA/JPL-Caltech
- 2021年に火星に着陸したアメリカ航空宇宙局の探査機「パーサヴィアランス」の内部には、「MOXIE」というトースターほどのサイズの装置が収められていた。
- MOXIEは火星のさまざまな条件下で、1時間あたり6グラムの酸素を確実に作り出す。
- この実験の規模を拡大したバージョンによって、いずれは有人火星探査がサポートされるようになるだろう。
アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「パーサヴィアランス」の内部には、トースターほどのサイズの箱型の装置が設置されている。
「MOXIE」と呼ばれるこの装置は、火星で酸素を生成することに成功している。酸素は人間が火星で持続的に活動し、そこから帰還するために欠かせないものだ。
研究者たちは2021年に火星の異なる季節の夜と昼に7回の「火星酸素現地資源利用実験(Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment:MOXIE)」を行ったと、2022年8月31日付けで「Science Advances」に掲載された研究論文に記されている。
実験のすべての回で、1時間あたり約6グラムの酸素を生成した。これは地球上の小さな1本の木の酸素生成量に匹敵する。
研究者が第一に目指したのは、この装置に信頼性があり、予測可能で、何度でも確実に稼働するのかどうかを実証することだったと、マサチューセッツ工科大学(MIT)ヘイスタック天文台に所属し、MOXIEミッションの主任研究員を務めるマイケル・ヘクト(Michael Hecht)はInsiderに語っている。
「その答えは、すべてイエスだ」とヘクトは述べ、「これはすごいことだ」と付け加えた。
この技術によって、火星探査隊員が火星で呼吸できるようになる日がくるかもしれない。また、この装置を発展させて大規模に酸素を生成できるようになれば、隊員を地球に帰還させるために必要なロケット燃料の一部として、その酸素を使えるかもしれない。
「これは、他の惑星の表面にある資源を利用して化学的に変換し、それを人間のミッションに有用なものとする初めての実験となる」とMOXIEミッションの副主任研究員であるジェフリー・ホフマン(Jeffrey Hoffman)はプレスリリースで述べている。
「その意味では、歴史的なことだ」
2021年2月18日、火星の地表に下ろされるNASAの探査機「パーサヴィアランス」。
NASA/JPL-Caltech
「火星のわずかな大気から酸素を作っている」
火星の大気の96%は二酸化炭素が占めている。ヘクトによると、MOXIEは大気中の二酸化炭素を燃料電池によって華氏1470度(摂氏800度)まで加熱する。すると二酸化炭素分子から酸素原子が分離し、その酸素原子同士が結合することで酸素ガスが発生するという。
「我々はほんのわずかな大気から酸素を生成しているということは言っておきたい。本当に薄い大気だ」とヘクトは述べ、「ちょうど地球の表面から10万フィート(約30キロ)の高さにいるようなものだ」と付け加えた。
MOXIEチームは、火星の環境で酸素を生成する装置を設計する際に、難題に直面したという。
「火星は難しい。まず火星到着以前に、あらゆる過酷な環境に耐えられるものにしなくてはならない」とヘクトは述べた。
MOXIEは宇宙の真空や放射線に耐えなければならないことに加え、パーサヴィアランスに搭載できるようにトースターほどの大きさにする必要があった。
火星探査機「パーサヴィアランス」とそれに搭載された科学機器を示したイラスト。
NASA
それでもこの装置は実力を証明したとヘクトは言う。
「短時間だったが10.4グラムの酸素を生成するという記録を樹立した」
この装置は、1時間に6グラムの酸素を生成するように設計されているという。
「我々はこの装置を限界近くまで稼働させた。そして本当にうまくいった」
MOXIEは二酸化炭素を一酸化炭素と酸素原子に分解し、酸素原子を結合させて人間の呼吸に使える酸素を作り出す。
2022年1月以降、チームは1カ月に1回程度のペースで実験を続け、これまでに計11回、この装置を使用した。それによってトラブルシューティングが可能になり、装置の電圧を一定に保てばより安全に運転できるようになることも分かった。
「与えられた条件に対して電圧が高くなりすぎると問題になる」とヘクトは言う。
「そうなると一酸化炭素を作る代わりに、炭素を作り始め、それが装置をダメにしてしまう。ゲームオーバーだ」
未来の火星探査では、超大型のMOXIEが使えるかもしれない
探査機パーサヴィアランスは、2021年2月18日に火星に着陸して以来、赤さびた地表の撮影や岩石の採取、「自撮り」などを行ってきた。
そしてMOXIEで火星の空気から酸素の生成が可能だと初めて証明したのは2021年4月のことだ。新しい研究は、この装置が火星でコンスタントに酸素を生成できるかどうかをテストするために行われた。また、装置の後継機をいかにして堅牢なものにして、将来の火星での有人探査に役立てられるのか、それを探ることも目指している。
「この研究は、将来のMOXIEに情報を提供するために行っている。そしてその将来こそが本当に重要なのだ」
今回の実験規模を約100倍にした大規模版MOXIEであれば、数百本の木と同じ速さで酸素を生成できるだろうと研究者らは考えている。
ヘクトによると、この技術の規模拡大はそれほど難しくはないという。他の惑星でもMOXIEで確実に酸素が生成できると証明されたことから、ヘクトと彼のチームは、将来の火星探査にこの技術の大規模版が活用されることを望んでいる。
「火星に人を送り、自給自足することを考えると、これは非常によいニュースだ」とヘクトは述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)